第225話「豊胸戦記⑧」
南部最後の都市を手に入れた私は、そこでバイエルライン軍が中部地方で再編中という情報を掴んだ為、急遽予定を変更して強行軍を行いました。
この時ちょっと可哀想だったのが、皆んなお酒を飲んでしまっていたので歩くのが辛そうだったことです。
本当は数日ここで兵に休養を取らせる予定だったんですよ。
まあ、私は全く大丈夫でしたが。
皆さん鍛え方が足りないんじゃないですかね。
しかし、そのお陰で準備が整っていない状態の敵と戦うことが出来て、見事二度目の会戦に勝利し、第三王子を捕らえることが出来ました。
ですが、これではまだ私の目的の半分です。
むしろ、本命は残りの半分の方と言ってもいいでしょう。
さて、それでは『彼ら』が来る前に準備をしておきましょうか。
本陣から敵兵の血で真っ赤に染まった平原を眺めつつ、私は横にいたアベルに言いました。
「間も無くバイエルラインの属国からなる援軍が来る頃ですね……アベル、捕虜にした第三王子と貴族達を連れてきて」
「え?敵の援軍?捕虜?……はっ!まさか敵の士気を下げる為、目の前で皆殺しに!?」
するとアベルが顔を引き攣らせて聞き返してきました。
ついでに本陣の中にいる人達も皆、真っ青な顔をしています。
「……する訳ないじゃないですか。ちゃんと目的がありますから安心して下さい」
もう!皆さんは私をなんだと思っているんですか!
……まあ、必要があれば躊躇なくやりますが。
それから少し時間が経って、北部方面から敵の援軍一万五千が現れたと報告がありました。
私は直ぐに使者を送り、敵の指揮官達と話し合いをすることになりました。
そして、我が軍と敵軍のちょうど中間ぐらいの場所で私は敵の指揮官達と会いました。
「皆さん、初めまして。私は偉大なるランス王国第一王子マクシミリアン様の名代にしてバイエルライン派遣軍司令官のセシル=スービーズです」
と、まず私が優雅に自己紹介しました。
すると反対に属国軍の皆さんはとても緊張した面持ちで話し出しました。
「本軍の暫定的な指揮官、ザクテンベルグ国王のヴァルターだ」
「副将のヴュルセン国王エーリヒである」
「同じくハノーセン国王ダミアン」
皆さん、私が何を要求するのか戦々恐々としていますね。
「宜しくお願いします。それにしても各国の君主の皆さん自ら軍を率いて出陣されるとは驚きました」
私がそういうと、ヴァルター国王が皮肉げな笑み浮かべて答えました。
「……所詮は哀れな属国の国王だからな、来いと言われればどこへでも行くさ
」
他の二人も同様です。
「「……」」
やはり、無理矢理駆り出された彼らの戦意は低い様ですね。
これなら万が一の場合でも蹴散らすことは容易いでしょう。
「それでランスの指揮官どの。御用向きは?まさか降伏勧告ではあるまいな?」
そう問われた私は微笑を浮かべながら答えます。
「勿論違いますとも。実はお願いがありまして」
「お願い?」
「はい……皆様にはこのまま何もせずにお帰り頂きたいのです」
そして、私がそういうと彼らは目を見開きました。
「何と!?……いや、そうか。其方は哀れな属国である我々のことを思って提案してくれているのだな?」
「はい」
「その気持ちは嬉しいが……それは無理だ」
返事は予想通りです。
「人質がいるからですか?」
「ああ……そうだ。我々は皆、人質としてバイエルラインに妻子を差し出している」
「「……」」
そして、ヴァルター国王が苦しそうにそう言うと、皆さんは暗い雰囲気に包まれました。
ですが、私はそれをぶち壊すように明るく言いました。
「それならご安心下さい……アベル!」
「はっ!」
私の合図でアベルが百人ぐらいの一団を引き連れて戻ってきました。
それを見た皆さんは驚愕しました。
「なんと!あれはバイエルラインの第三王子!?……他にも名のある将軍や将校、貴族があんなに!?」
「どうですか?この連中なら皆さんの人質と交換出来るのではないですか?」
私は少しドヤ顔をしながら、胸を張って言いました。
「「「た、確かに……」」」
「しかも現在バイエルライン軍には有能な指揮官が少ない筈ですから、成功の可能性は高いと思いますよ」
「「「おお!」」」
「あ!あとそれに加えて討ち取った第一王子の首を第三王子に持たせて返してあげましょうか」
あれ不吉な感じがするので持っていたくないんですよねー。
ちょうどいいのでこの機会に送り付けてやりましょう。
「「「なんと!」」」
「それで、どうされますか?」
そして、私が一応確認すると、
「「「お願いします!」」」
彼らは二つ返事で了承してくれました。
「では決まりですね♪」
その後、捕虜の一人に書状を持たせて解放しました。
それから数日、返事を待つ間に強行軍で疲れた兵士達を休ませていると、バイエルライン側から人質交換を了承するという返事が来ました。
上手くいって良かったです。
これで無駄な血を見なくて済みます。
そして更に数日後、近くの都市で属国の人質と捕虜の交換を行いました。
あ、有能な指揮官達を返してしまって大丈夫か?という疑問を持たれるかもしれませんが大丈夫です。
私が優しくしたのは一般の兵士の捕虜だけで、今回交換した連中は過酷な強制労働と最低限の食事しか与えていなかったので、皆んな死に掛けていて暫くは動けない筈ですから。
あとそういえば嬉しい誤算もありました。
実は人質交換が終わった後、私は属国の皆さんにお帰りいただく様にお願いしたのですが……。
「セシル殿!貴殿の恩に報いる為、我々も共に戦うぞ!」
「「おおー!」」
ということで、我が軍は三万を超える大所帯になりました。
実は少し迷ったのですが、これぐらいなら民に配る分の食料を考えても彼らを養うことは可能なので、お願いしました。
そして、私は新たな仲間と共にバイエルライン北部にある王都を目指して進撃を開始したのです。
私の身体の一部が豊かになる未来を確信しながら。
ふふ、もうすぐです!
もうすぐ豊かになれるのです!
ぐふふ、待っていて下さいリアン様!
魅力を増したセシルが、もうすぐ貴方の胸に飛び込みますから!
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