第223話「豊胸戦記⑥」

 五千の騎兵が土煙を上げながら、凄まじい勢いでこちらに迫ってきました。


 流石はイヨロピア有数の強さを誇るバイエルラインの騎兵です。


 一方、それを待ち受けるのは本来なら、接近戦では無力な砲兵隊です。


 普通に考えれば、このまま我がランス軍は中央を突破され、いきなり壊滅の危機に!?というところなのですが……。


 さて、そろそろですね。


 丘の上から迫り来るバイエルライン騎兵を睨んでいた私にも、その先頭を走るゴリラ兄弟の長男の……えーと、ジーク……ジークなんとかの顔が見える距離になりました。


 私の横では見張りの兵士が、予め砲兵隊の前に目印として打ち込んでおいた杭を通過する敵騎兵を見ながら声を上げました。


「敵騎兵、我が軍からの距離五百メートル!」


「……」


 まだです。


「お嬢、いよいよですね」


 アベルが珍しく緊張した声でいいました。


「四百メートル!」


「……」


 まだ我慢です。


「三百メートル!敵騎兵、トラップ地帯に入り減速!後続が詰まり、密集しています!」


「……」


 ふむ、全ては予定通りです。


「二百メートル!……百メートル!九十、八十……」


「……」


 まだ……あと、少し。


「五十、四十、三十……」


「……」


 眼前に迫る敵騎兵の姿に見張りの兵の声はかなり緊張しています。


「お嬢!」


 ここで、さしものアベルも私の横で焦った声を上げました。


 それと同時に、


「うおおおおお!このまま突っ込め!ランスの雑魚共を蹂躙するのだ!待ってろ貧乳女ぁ!」


 と、先頭を走るジーク何とかの声が聞こえ、その暑苦しいゴリラそっくりの不細工な顔がハッキリと見えました。


 キモいです。


 あと、何か聞き捨てならない単語が聞こえたような……?


 ですが、どうせもうお別れですし、我慢するとしましょうか。


 そして……。


「二十……」


 と、最早悲鳴に近い声で兵士が叫んだ瞬間、私は砲兵隊に向けて鋭く命じました。


「敵の先鋒を狙え!……撃て!」


「十!」


 見張りの兵がそう言うと同時に。


 轟音。


 ドドドーン!と一斉に大砲が火を噴き、周囲は白煙に包まれて辺りは一瞬何も見えなくなりました。


 そして、その一瞬だけ戦場から音が消えました。


 それからゆっくりと白煙が晴れるとそこにあったのは……。


「「「!?」」」


 ズタズタに引き裂かれた大量の『騎兵だった』ものでした。


 後に残されたその光景は、まさに地獄絵図です。


 そのあまり酷さに敵も味方も唖然として固まっています。


 横にいる歴戦の猛者アベルですら呆然としながら、


「……ミンチよりひでぇや」


 とか呟いています。


「ふふふ、ね?大丈夫だったでしょう?♪」


 そんな彼に、私は茶目っ気タップリにそういってみたのですが……。


 彼は私を、空気読めよ!みたいな目で見た後、


「え?……あ、はい……そうですね」


 と、なんかドン引きされました。


 むー!折角の大戦果なのになんか反応が微妙ですねー。


 もっと喜びなさい!


 ではなくて!


「アベル!総攻撃です!兵を押し出して!」


「は?……はっ!」


「敗走する敵騎兵を上手く敵中央へ追い込んで下さい!逃げて来た味方の所為で足並みが乱れる筈です!加えて逃げて来たのが王子を失い、ボロボロになった王国最強の騎兵達なら効果は抜群!」


「なるほど!了解です!」


 そういうとアベルは、漸く出番だ、と嬉しそうに駆けて行きました。


 そうして我々ランス軍が全域で攻勢に出ると、第一王子ごと兵力の三分の一を一瞬で粉砕(物理)されて大混乱の敵は、即座に敗走を始めたのでした。


 さてさて、部隊を送り出してしまい、少し暇になったので皆様に新兵器についてご説明しますね!


 えーと、まず新兵器の名前は『ブドウ弾』です。


 ちょっと美味しそうですよね!


 まあ、食らったら即死ですが。


 それでタネを明かしてしまうとブドウ弾とは、文字通りブドウぐらいの弾を麻袋にぎっしりと詰めた物を大砲に装填するんです。


 そして、その状態で大砲を撃つと、射程距離は極端に短くなってしまいますが、その代わりに弾が放射線状に拡散し、そこにあるものを全て薙ぎ払います。


 つまり、大砲を巨大な散弾銃にしたんです。


 それを横一列に並べて撃つことで、バイエルラインの騎兵を一瞬にして壊滅させたという訳なのです。


 勿論工夫もしました。


 障害物を設置することで敵騎兵の速度を落として密集させ、そこへドカン!と自慢のブドウをお見舞いしました。


 その結果はご存知の通り大成功で、敵は第一ゴリラごとハンバーグの材料に変わりました。


 あ、そうそう。


 言い忘れていましたが、このブドウ弾、実は私オリジナルのアイデアではありません。


 あれは昔、リアン様がスービーズ城に滞在され、私と一緒に城を探検して回った時のことです。


 私達が立ち入り禁止の武器庫に忍び込んで偶々大砲を見つけた際、私が『大砲は命中率が悪く、移動も手間と時間が掛かり、更に火薬や砲弾の準備にもかなりのお金が掛かる割に、攻城戦以外であまり役に立たない』とお父様がボヤいていたことを伝えたのです。


 すると、リアンは大砲を見ながらこう仰ったんです。


「うーん、あ!そうだ!確かゲームだと……ねえセシル、だったらブドウぐらいの弾をぎっしり詰めて撃ち出してみたらどうかな?そうしたら多分、野戦でも活躍できると思う……」


「え?ブドウですか?あと、げーむって何ですか?……あ!まずいですリアン様!見張りが来ます!どうしましょう!?倒してIDカードを奪いますか?それとも大人しく逃げますか!?」


「は!?……に、逃げようか!……IDカード?」


 と言う一場面がありまして。


 それを今回、リディが持ってきたブドウで思い出し、折角なので実践してみようと思った訳なのです。


 そして、結果は大成功!


 いやー、流石はリアン様!


 名前だけではなく新兵器のアイデアまで私に授けてくれるとは!


 私、愛されてますねー、えへへ。


 え?何か文句でも?


 私の妄想……いえ、ポジティブシンキングを邪魔するとぶち殺しますよ?


 と、あれこれ説明しているうちに大分戦況が動きましたね。


 既に大勢は決したようです。


 具体的に説明すると、まず我がスービーズ騎士団が中央から攻勢に出て敵騎兵の残骸を敵中央へ追い立てました。


 同時に左翼の浪人隊、右翼の諸侯隊も攻勢に出て一気に敵陣へ突入しました。


 それに対して敵は目の前で王国最強といわれる部隊が文字通り物理的に粉砕されたことで完全に戦意を喪失。


 こちらの攻勢と同時に、全軍が敗走しました。


 しかし、これで終わりではありません。


 更に、迂回した我が軍の別働隊が、ほぼ同じタイミングで敵の後方に出現し、退却しようとしていた敵本陣と予備隊を直撃。


 これらを壊滅させました。


 恐らく第三ゴリラを密猟、いえ捕獲していることでしょう。


 まあ、別に活用する気はないので、その場で討ち取って貰って全然構わないのですけどね。


 あ、そうだ!もし第一ゴリラの首が残っていれば、そちらは活用しましょう!


 こっちは皇太子ですし、顔のインパクトもあるので割と使える筈ですから。


 首から下は後で敵の捕虜にでも拾い集めてさせてバイエルライン王に送りつけてやりましょう。


 息子が帰ってきたらきっと喜ぶ筈ですから。


 さてと、これで私の華麗なるトランスフォームにまた一歩近づきましたね、ぐふふ。


 さあ、この後もどんどん行きますよ!


 と、私が意気込んだところで。


「セシル様!申し上げます!敵軍は全滅、お味方の大勝利にございます!……しかし……」


「あら?何かありましたか?」


 トラブルでしょうか?


「そ、それが……敵の第三王子に逃げられました」


 なんだ、そんなことですか。


「ああ、そうですか。ご苦労様でした。あ!捕虜の扱いは丁重にお願いしますね!後で使いますから」


「はっ!」




 ふふ、初戦は楽勝でしたね。


 この調子で進撃し、手早くナイスバディをゲットです!


 そして、名前とアイデアの御礼としてリアン様に私を差し出すのです、むふふ。


 では早速次に行きましょう!


 次は南部諸都市の攻略です!


 と、ここは一つ、コンパクトになった第一ゴリラに活躍して貰うことにしましょうか。





※明日9/8(水)の投稿は多分お休みしますm(_ _)m

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