第218話「豊胸戦記③」

「ふぅ、一丁上がりです♪」


 バイエルラインの精鋭達(笑)を残らず撫で斬りにした私は、パンパンと手を払いながら笑顔で言いました。


 すると、終わったタイミングを見計らってクールなメイド長マルセルがタオルを持って来てくれました。


 流石は出来る女マルセル、気が利きます。


「お嬢様、お顔に……いえ、全身に血が……」


「ありがとう……え?」


 おや、言われてみれば確かに全身が返り血で真っ赤に染まっていますね。


「これは着替えないと……。ふぅ、それにしても精鋭とか言う割に歯応えのない連中でした」


「はい、お嬢様の仰る通りでございます。あの程度でしたら私でも対応できます」


 私が言うとマルセルは平然とのようにそう答えました。


 ああ、そう言えばマルセルは若い頃、お母様に付き添って一緒に暴れていたんでしたね。


 と、そんなことを考えていると、今度はマイエンジェルこと可愛いロリっ子メイドのリディがお盆に飲み物を乗せてトテトテとやって来ました。


「セシルお嬢様ー、お飲み物をお持ちいたしましたー」


 はぅ、リディはいつ見ても可愛いですねー、癒されます。


 本当はギュッてしたいところですが、彼女を血塗れにする訳にはいかないので、今は我慢です。


「ありがとう、リディ」


 そして、私はお盆から葡萄酒の水割りを受け取り、グイッと飲み干しました。


「ふぅ、五臓六腑に染み渡ります〜、運動の後だから特に美味しいですね〜」


 さて、一息ついたところでそろそろ現実に目を向けなければなりません。


 今、私の目の前にはバイエルラインのゴリラ以下、護衛騎士達だったものが転がったままですから、色々な意味で後始末をしなければいけないのですが……。


 さてさて、どうしたものでしょうか。


 では、取り敢えず私が置かれた状況を整理するところから……。


 まず、私は気に食わないバイエルラインの王族を殺ってしまいました(遂カッとなって殺ってしまいました、今も反省していません)。


 別にこのこと自体はいいのですが、問題は、この後どうするか、という選択です。


 ①菓子折りとゴリラの首を持ってバイエルラインに謝りに行く。


 ②正直にお父様へ報告し、処理してもらう。


 まず私は一つも悪くないですし、絶対謝る気は無いので①は無いですね。


 次に②は……お父様に言ったら怒られた上、更に陰険で陰湿な罰が待っていること間違いなしです……これも無いですね。


 でも他に選択肢はありませんし……どうしましょうか、と私は頭を抱えました。


 はぁ、全くバイエルラインに関わるといいことなしです……ん?


 バイエルラインと言えば何か重要なことを忘れているような……?


 ……はっ!


 私はここで非常に重要なことを思い出しました。


 ああ!しまった!


 『豊胸の泉』についてゴリラを拷問するのを忘れました!


 うう〜、私としたことが……折角ダイナマイトボディを手に入れられるチャンスだったのに〜!


 その為ならどんな犠牲を払ってでも手に入れるつもりだったのに!


 くっ!セシル、一生の不覚です!


 はぁ、情報が無ければバイエルラインの何処にあるのかすら分からないので、探しようもありませんし……。


 しかもゴリラを殺ってしまったので、あの国から情報を貰ったり秘密裏に探すことも難しいですし……。


 はぁ、バイエルラインの王族がいる限り、泉のことは諦めるしか……ん?王族がいる限り?


 ああ!だったら全員殺ればいいじゃないですか!


 私、ナイスアイデアです!


 と言うことで、私は三つ目の選択肢を思い付きました。


 それは、


 ③残りのゴリラ一族共々バイエルラインを滅ぼし、国ごと貰ってしまう。


 です!


 国ごと手に入れてしまえば、もれなく豊胸の泉もセットで付いてきますし、万が一情報がなくてもゆっくり探すことが出来ます。


 しかも、連中をやっつけてしまえば、侮辱された私と我が領民、そしてリアン様の名誉を守ることができますし、何より虐げられ、お腹を空かせたバイエルラインの民を助けてあげられます!


 いいことずくめなのです!


 加えてうるさいお父様とシャルルおじ様だって、バイエルラインの国土を渡せば文句はない筈ですし!


 まあ、もしかしたら二人共過労で倒れるかもしれませんが……私に意地悪した罰ですから仕方ありませんよね!


 ふふ、完璧ですね!


 もう、これはやるしか……いえ、殺るしかありません!


 ぐふふ、これで豊満ボディを手に入れて、リアン様をメロメロにして見せます!


 よし、決まりです!


 今からゴリラ王国侵攻作戦開始です!


 では早速準備を……と言いたいところですが、まずはこの場の後処理ですね。


「アベル!」


 私はすっかり存在を忘れていた日焼けしたゴツい中年男こと副騎士団長アベルを呼びました。


「はい、お嬢」


「捕らえた連中はもう殺りましたか?」


「いえ、まだですよ?」


 私はその答えに安堵しました。


「それは良かったです、因みに捕らえている人数は?」


「えーと、十名ぐらいですね……あのお嬢、そんなに自分の手でやりたいんですか?」


 アベルはドン引きしてます、という感じの目をこちらへ向けながらそう言いました。


「違います!私は快楽で人を殺したりはしません!ぶち殺しますよ!?」


「ジー……」


「……コホン、えーと、捕らえた連中の半分は首を刎ねて、残りはアレを切り落として連れてきて下さい」


「うげぇ、ひでーことしますね……面倒ですし、まとめてやっちまいましょうよ、お嬢」


「ダメですよ、残りの五人にはコレを全部持って帰ってもらうのですから」


 私はDQNがBBQ大会した後みたいになった目の前の地面を指差しながら言いました。


「え?ああ!なるほど!ゴミはちゃんと自分達で持ち帰らせる訳ですね!流石お嬢だ!ハッハッハ!」


 するとアベルも笑顔で納得してくれました。

 

「そうです、あとゴリラの首をバイエルライン王に届けさせて、ついでに言伝を頼みましょう。『貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ』と」


 私はニヤリとして言いました。


「おお!てことは……やるんですね?」


 するとアベルもニヤリとした後、嬉しそうに笑いました。


「はい、派手にやりますよ?いざ、バイエルライン侵攻作戦です!……と言うことで早速準備を始めます。マルセル、マルタン!あと幹部の皆さんはこっちへきて下さい!」


 そして、侵攻の準備を始める為に重臣達を集めました。


「「「はい、ただいま」」」

 

「皆んな集まりましたね、では改めて言いますが、我々はこれより支度を整えてバイエルラインに侵攻します!」

 

「「「ははっ!」」」


 私がそう言うと、そこは我がスービーズ家の家臣達、血が沸るのか目を輝かせています。

 

「ということで早速指示を出します。まずはアベル」


「はい」


「今言ったゴミ拾いの件ですが、捕虜に落ちてるもの全て馬車に詰め込むか馬に括り付けさせて送り出して下さい」


「了解です」


「あ、一応ランスを出るまでは人を付けて下さいね?そうでないと帰国する前に我が領民によって八つ裂きにされてしまいますから」


「はは、確かにそうですね……」


 私がそう言うと、アベルは苦笑しながら頷きました。


「あ、そうそう領民と言えば被害者達には手厚いケアをしてあげて下さい。特に女の子達に。これは……マルセル、お願いできますか?」


「はい、お嬢様」


 よし、ではいよいよ軍の編成です。


「ではここの後処理は以上ですね。ではいよいよ戦争計画ですが……アベル、兵の動員はどれぐらい出来ますか?」


「はい、えーと、数日以内で集められるのは、うちの騎士団と領民兵で一万二千ぐらいで、周辺のスービーズ家傘下の諸侯が五千ぐらいですかね」


「そうですか、一万七千……うーん、相手がバイエルラインということを考えると、第一陣にはもう少し人数が欲しいですね……あ、浪人を雇いましょう!」


 と、ここで良いことを思い付きました。


「浪人?」


 名門騎士団の副団長アベルは怪訝そうな顔をしました。


「はい!ここ最近の貴族の粛清で、仕事にあぶれた騎士や兵士がかなりいますから、彼らを雇用しましょう!そうすれば感謝してよく働くでしょうし、浪人が減れば治安も良くなりますし」


「なるほど!それなら五千ぐらいは直ぐに集まりますから第一陣は二万を超えますね!」


「はい、そうです。そして、その後も募集を続ければ第二陣の編成もかなりの人数を集められる筈ですし」


「いやー、普段はただの脳筋貧乳キャラなのに、やっぱり戦争になるとお嬢様は凄い……ぐぉ!」


 無礼な発言をした副団長を私は即座にゴミの中に蹴り飛ばしました。


「死ね!」


 残念ながら副団長は戦争前に戦死してしまいました。


「コホン、次は……マルセル」


「はい、お嬢様」


「地形や情勢等、バイエルライン関係の情報収集をお願いします」


「はっ!」


「マルタン」


「はい、お嬢様」


「必要な物資の手配をお願いします。武具はウチに備蓄してある分を放出するとして……あ!国中から小麦を買えるだけ買って下さい!」


「お嬢様!現在の小麦の価格ですと凄まじい量になります。二万人の兵士を数年養っても余るかと。多過ぎませんか?」


 私の指示にマルタンが当然の疑問を持ちました。


「大丈夫ですから小麦の価格が平年並みになるぐらいまで買いまくって下さい。それに安心してマルタン、仕入れた小麦は我が軍だけでなく、飢えたバイエルラインの民に配るのですから」


 そして、私がそう言うとマルタンは驚き共に納得してくれました。


「なるほど!飢えた民に食料を与えて懐柔するのですな!」


 勿論その効果も狙ってはいますが、私としてはお腹を空かせた人達を放っておけない、という気持ちのが強いのですけどね。


「懐柔……まあ、有り体に言ってしまえばそうです。えー、兎に角、そう言うことなので小麦の件はお願いします。あと、その他の物資やお金の管理も宜しく頼みましたよ」


「畏まりました、お嬢様」


 私がそう言うと、マルタンは恭しく頷きました。


「あ!あとお父様に必要なものを送るように遣いを出して下さい。手紙はこの後すぐに書きますから。でも邪魔をされたくないので……一週間後ぐらいに王都に着くようにお願いします」


「は、はぁ……承りました」


「よし、これでいいですね!では各自職務に励むように!解散!」


「「「はは!」」」




 それからあっという間に数日が過ぎました。


 私は急な戦争への準備に追われ、不眠不休で働き続けました。


 正直、なかなか大変でしたが、報酬を考えるとそれぐらいなんの苦でもありませんでした、ぐふふ。


 そして、会議室でアベル達騎士団の幹部と地図を眺めながら作戦を練っている時のことでした。


「お嬢、最初の会戦はこんな感じでどうですか?」


「うーん、場所も内容も悪くはありませんね。手堅いですし、比較的被害も抑えられるでしょうから。でも……」


「お嬢、何かご不満がおありで?」


「確かに正面からぶつかってもバイエルラインにはほぼ確実に勝てるでしょう。ですが、こちらにもそれなりに損害が出るのがちょっとなぁ、と」


 私がそう言うと、


「お嬢、それは仕方ありませんよ。今回は反乱軍相手の戦いとは違います。それにバイエルラインはそれなりの規模の軍事国家ですから、準備する時間も限られる中での小細工など殆ど意味をなしません。国同士で正面から戦争をするならこれぐらいの損害は覚悟しないといけません」


 アベルは珍しく真面目なプロの顔でそう答えました。


「勿論それはわかっていますよ、ただ正面からぶつかるだけでは芸がない気がするんですよ……何か面白いアイデアはないですかね」


 私がそんな風に悩んでいるとそこへ、


「セシル様ー、ずっと働き詰めですし、甘い物でも食べて少し休憩をされては如何ですかー、?今、果物をお持ちしましたのでー」


 と言いながら、戦時下を意識してか、メイド服に鉄帽という格好のリディが果物を乗せたお盆を持ちながらトテトテと歩いてきました。


「え?ああ、リディ。ありがとう」


 確かにリディの言う通りかもしれません。


 動きっぱなしでしたし、それに少し休めば良いアイデアが浮かぶかもしれまさんし。


「では一つ頂きましょうか」


 そして、何気なく果物の盛り合わせを見ると、ちょうど黒々と輝く立派な葡萄が目に入りました。


 と、その瞬間。


「ああ!そうだ!ぶどうです!」


「「「!?」」」


 私はあることを閃きました。


 いえ、思い出したというべきでしょうか。


 ふふ、やはり頼りになるのはリアン様ですね!


「ねえアベル!大砲はどれぐらい集まりそう?」


 私がそう聞くと、アベルは怪訝そうな顔で答えました。


「え?大砲ですか?ウチの分と傘下の諸侯の分、あと上手く大砲を持ってる傭兵を雇えれば三十ぐらいは集められるかと……」


 まあ、射程も命中率も低い大砲は大して役に立ちませんし、その反応は当然です。


 その目的は主に音で馬を驚かせたり、敵の士気を下げる為に使うのですから。


 しかし。


「ふふ……」


 私は目の前の葡萄のように黒くニヤリと笑い、言いました。


「ふっふっふ、連中にはタップリと葡萄をご馳走してあげましょう!」


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