第216話「豊胸戦記① プロローグ」
負けた。
私は負けた。
負けてしまった!
ああ、なんてことなの……。
まさか最後の最後で……こんな結末が待っているなんて……。
つい今しがたバイエルラインにおける戦いに敗北したことを知らされた私はショックのあまり、ただただ愕然とするしかありません。
占領したバイエルライン王都にあるノイシュバーン城の広間で、居並ぶ外交官達の前で両膝をつき、情けなく涙を流すことしか。
正直、この結果については予想以上にスムーズな進軍が出来たことで、自分に甘さや奢りがあったのだと思います。
しかし、たとえ自らが招いた事態だとしても、私はこのあまりに重大な事実を素直に受け入れることは出来ませんでした。
私はズービーズ城でバイエルラインを相手に剣を取ったあの日から今日まで、己の持つ全てをこの戦いに捧げてきました。
その結果、幾度も大規模な会戦に勝利し、数多の城を落とし、数えきれないほどの敵を討ち取り、そして遂に敵の王都を攻略して王族全員を捕らえることすら成功したのです。
つまり、領民やリアン様、そして私を侮辱したバイエルライン王家を倒して名誉を守り、憐れなバイエルラインの民を圧政から解放するという小目標は達成したのです。
なのに……なのに私は……最終的に最も重要な戦略目標の達成に失敗し、大敗北を喫してしまいました。
そう、すべては無駄だったのです。
私は……勝負に勝って試合に負けたのです。
敗者である私は最早、恥も外聞もなく、両手で顔を覆って泣くことしか出来ません。
他人の前なのに自分への不甲斐なさとリアン様への申し訳なさで涙が止まりません。
ああ……リアン様、ごめんなさい。
折角、『大きく成長した姿』で大好きな貴方に会って驚かせようと思っていたのに……残念です。
貴方のセシルは……ここまでのようです……。
ああ、神様。
私は今日まで自分に厳しく、他人に優しく、欲望に負けず、容姿端麗、品行方正で非の打ち所がない完璧な公爵令嬢をやっていた筈なのに、何故こんな仕打ちをなさるのですか?
こんな……あまりにも酷い仕打ちを……。
その所為で私のガラスの心は砕け、もう立ち直れそうにありません。
この戦いにおける私の唯一のささやかな願いは粉々に打ち砕かれ、踏み躙られてしまったのですから……。
うぅ、本当に酷いです……。
本当に……どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。
まさか、この戦争の最終目標であり、私個人の悲願にして最大、先優先の目的だった……、
『伝説のおっぱいが大きくなる泉』
が、砲撃で埋まってしまうなんて!(>_<)
この無駄に壮大で下らない戦いの物語は、欲に塗れた貧にゅ……身体の一部がスリムな公爵令嬢が自らの欲望を追求したことが原因で幕が上がる。
それは自らの罪を償わせる為、彼女の父親が命じたお見合い相手の王子と会った時のことだった。
そこで彼女は自身にとって禁忌とも言うべき、伝説のアレの存在をしってしまったのだ。
更に彼女は幸か不幸か、偶然が重なり力づくでアレを手に入れられる可能性が出てきたことで即座に戦いを決断し、疾風の如き、怒涛の進撃を開始するに至ったのである。
それでは早速、この頭のおかしいシロクマが追いかけた、儚くも貧しい夢の軌跡を我々も追ってみるとしよう。
皆様、機嫌よう。
そして、お久しぶりです。
『ランスの白百合』にして、未来の王妃ことセシルです。
あ、今白百合ではなくシロクマの間違いだろう?とか、未来の王妃(笑)とか思った方、夜道を歩く時は背中に気を付けることをお勧めしますよ?
コホン……それで私は今、お父様の卑怯な策略に嵌り、理不尽にも実家であるズービーズ城に幽閉され、毎日大勢のお見合い相手と合わされるという拷問を受けています。
くっ、あのイケメンモヤシめ……私のリアン様への愛を阻むとは……例え父親であろうとも絶対に許しません!
共犯者であるダサダサ口髭オヤジのシャルルおじ様共々、必ずその報いを受けさせてやります!
と、今はそれどころではありませんでしたね。
もうすぐ本日の最初のお見合い相手である人間の形をしたゴリラ……あれ?ゴリラの形をした人間?……である、バイエルラインの第二王子がやってくるのです。
はぁ、正直もの凄く嫌です。
というか、そもそもリアン様以外の男性とお話しするなど苦痛でしかありません。
しかもストレスによって貴重なリアン様成分がどんどん失われてしまいます。
昨日など、遂に発作まで起こりました。
私、もう限界です。
今日のお見合いを片付けたら誰がなんと言おうと王都へ攻め上り、何がなんでもリアン様の元へ戻ります。
それからいっぱい可愛がって貰って……ぐふふ……きゃー!
私が確定した未来を想像しながら部屋で悶えていると、
「お嬢様、間もなくお客様がお見えになります」
メイド長のマルタンが私を呼びに来ました。
「はぁ、もうそんな時間ですか……わかりました。ではもの凄く嫌ですが、野蛮で見栄っ張りで酒と女が大好きで全く人の話を聞かずに自慢話ばかりしてマウントをとりたがるマウンティングゴリラこと、バイエルラインのジークゴリト王子を出迎えに行きましょうか」
「……お嬢様、ジークムント王子です。いくら相手がマウンティングゴリラだとしても、書類上は一応王族です。見合いの席ではくれぐれもお間違えなきようお願い致します」
「えー……あ!そうだ!ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物に関する条約の方)違反ということで、絶滅危惧種であるゴリラの受け入れはお断りを……」
「お嬢様!」
「はいはい、わかってますよー……はぁ……」
そして、私は重い足取りで玄関に向かったのです。
しかし、この時の私は夢にも思いませんでした。
まさか、あんなことに……やってきたマウンティングゴリラをハント(物理)することになるなんて!
※申し訳ありません!私の計画が甘く、文字数と話のキリがよくないので本日の夏休み企画を次話に延期致します。
楽しみしてくれていた皆様、本当に申し訳ありませんm(_ _)m
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