第215話「シャケ、出張する」

 タスクフォースを美少女メイドの皮を被った女王に乗っ取られてから数日後。


 私はバイエルラインの王都へと向かう馬車の中で揺られていた。


「平和……ではないなぁ」


 エリザに渡された膨大な資料に目を通しつつ、そんなことを呟きながらチラリと外へ目を向ければ……。


「酷いものだな……」


 私はその悲惨な光景を目の当たりにし、思わず目を背けた。


 そこにはおびただしい数のバイエルラインの兵士だったものが転がっていた。


 実は先程、私は国境を越えてバイエルライン国内に入り、今ちょうど最初の大規模な会戦があった平原を通過しているところなのだが……。


 もう一度いうが、酷いものだ。


 既に会戦から一週間以上経つのにも関わらず、まだまだ片付いていない場所が多い。


 そして、特に酷いのが今通過してる場所で、数十メートル×数百メートルぐらいの帯状に残骸が広がっている。


 敢えて詳しくは言わないが、一ヶ月はハンバーグを食べれなくなりそうな感じだ。


 あまり褒められたことではないが、一体ここで何があったのかと気になった私は、ちょうど付近で事後処理を担当している部隊がいたので馬車を止めて話を聞いてみた。


 すると、なんでもランス側が新兵器を使った結果らしいのだが……。


 それにしても一体何をどう使ったらこうなるんだろうか?と言うほどの惨状だった。


 ……本当にセシルはどんな作戦を展開したんだろう。


 まあ、兎に角だ。


 それらを見て思うのは、つくづく戦争などするものではないなぁ、ということだ。


 何処かの将軍の言葉で、戦争において敗北の次に惨めなものは勝利である、と言う言葉があった気がするが、まさにその通り。


 戦争は勝っても負けても、敵も味方も多くの人が傷つき死んでしまうのだから、本当に惨めなものなのだ。


 聞いたところでは、今回の遠征では我がランス軍の被害は奇跡的なぐらいの少なさらしいが、それでもゼロではないしな。


 そして、何より心配なのがセシルだ。


 心優しい彼女がこの凄惨なこの光景を見続けている、しかも二万もの命を預かるプレッシャーがのし掛かっているのだ。


 彼女の苦しみは計り知れない。


 やはり、一刻も早くセシルを迎えに行かねば!


 と、私は改めてそう思い、再び馬車に乗り込んだ。


 あ、そうだ。


 一応言っておくと、今は一人だ。


 メイドクィーンはお留守番なのでここには不在。


 というか、彼女が残ってくれるからこそ、安心して……いや、ある意味ちょっと……いやいや、かなり不安だが……兎に角、エリザのお陰で私がバイエルラインに出張できたのだ。


 因みに出発前はこんな感じだった。




「ねえ、クィーン」


 私が呼びかけると、忙しそうに指示を出し続けている美少女メイドの皮を被った仕事の鬼がこちらに振り向いた。


「ランス王国に、ひいてはマクシミリアン様に盾突く輩などに容赦はいりませんわ!マフィアでも憲兵でも動かして潰しなさい!……はい、ランベールさん、何か?あと、クィーンはやめて下さいませ」


 え?今マフィアって……うん、きっと気のせいだろう。


 あと『クィーン』って呼ばないとエリザに、


「女王様とお呼び!」


 とか、怒られそうで怖いんだよ……。


「えーと、相談なんだけど……」


 私がそう言うと、彼女は再び何かの指示を出したあと振り向いた。


「それは絶対に必要な物資ですから全部買い占めなさい!ダメなら製造元にTOB (テイクオーバービッド、株式公開買い付け)ですの!市場価格に10パーセントのプレミアを乗せて……え?相談ですの?」


 TOB!?今この子TOBって言った!?


 どゆこと!?


「うん、本当はもっと落ち着いてからにしようと思ったんだけど、エリザのお陰で予想外に、それも完璧に統制が取れているから……」


 と、私が言い終わる前にエリザは更なる指示を出す。


「今ですの!売り浴びせて王国に楯突いた強欲商人を破産させておやり!……それで?」


 売り浴びせるって何!?エリザは一体何してるの!?


「え、えーと……今からでも直接私が現地、つまりバイエルラインに出向いて話をまとめてこようかと思ってね」


 すると、またまたエリザは鋭く指示を出しながら答えた。


「プロキシーファイト(経営陣と株主の間で行われる委任状の争奪戦)が上手く行っていないですって!?くっ、鬱陶しい老害達などさっさとゴールデンパラシュート(買収される側の企業の役員達に設定された多額の退職金)を払ってでも追い払っておしまい!……なるほど、出張ですか」


 プロキシーファイト!?ゴールデンパラシュート!?


 だから、本当にこの子何やってんの!?


「う、うん、つまりそう言う事だよ」


 と、私が引き攣った笑みを浮かべながらそう言ったところで、エリザが突然忌々しそうな表情になった。


 え?実は私の出張が気に食わないのか!?


 と、一瞬焦ってしまったが、そんなことは全くなく、単純に仕事が上手く行かなかっただけのようだ。


「そんな!このタイミングでEBO(従業員による自社買収)ですって!?このままではワタシの完璧なスキーム(計画)が破綻してしまいますわ!……あ、ランベールさん、出張の件は承りましたわ、留守はこのエリザにお任せあれ!」


「うん、よろしくね……」


 と、私が言った時には既に彼女はこちらを見ておらず、別の誰かを捕まえていた。


「ピエールさん!やはり貴方のデューデリ(デューデリジェンス、買収・投資の対象となる企業や投資先の価値やリスクなどを調査すること)が甘かったのではなくて!?」


「も、申し訳ありませんでした!」


「……」


 ああ、私のタスクフォースがいつの間にかハゲタカファンドに……。


 でもまあ、凄く儲かりそうだし……いい……のかな?


 なんか凄く不安だけど……。


 まあ、メイドクィーンに進化したエリザに職場を支配された結果、少々メンタルを犠牲にする代わりに以前より断然作業効率が上がり、物理的な余裕ができたお陰で出張に行けるので、勿論彼女に感謝はしているのだが。


 と、そんな感じで金に目が眩み、魂を売った私は一路バイエルラインへと旅立ったのだった。




 そして、場面は再び移動中の馬車へと戻る。


 悲惨な戦場跡を抜けた後、偶然バイエルラインの美しい森と湖を見たことで、私は心のゆとりを取り戻していた。


 それから、


「バイエルラインは風光明媚で良いところだな。出来ればこんな形で来たくなかったが……あ、そうだ、折角他国へ来たのだから、エリザやレオニー達に何か土産物でも買って帰ろうかな?」


 などと言っているうちに、私を乗せた馬車は宿泊予定の最初の街に到着した。


 そして、立派な石造りの門を通り過ぎた瞬間、そこには……。


「な、なんだ!これは……!?」


 目を血走らせ、武装した群衆が待ち構えていたのだった。






 皆様こんにちは、作者のにゃんパンダです。


 大変お待たせ致しました!


 次話から漸く本格的に夏休み企画を始めますので、お楽しみに!


 ……まあ、もう夏休み殆ど終わってるんですけどね……。

 

 私の見通しが甘く、ご迷惑をお掛けして本当にごめんなさいm(_ _)m


 書いているとキャラクター達が暴れ出してドンドン話が膨らんで量が倍とか三倍になってしまうのです(^_^;)


 ですが、残暑お見舞いキャンペーンになろうとも!秋の感謝祭になろうとも!必ず応募頂いた方全員を出演させますのでご安心下さいませ!


 それでは、本日もお読み頂きありがとうございましたm(_ _)m

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