第214話「爆誕!メイドクィーン!?」

 シャケが朝チュン騒動でメンタルをすり減らしてから数日後。


 トゥリアーノン宮殿にあるシャケ配下のタスクフォースでは驚くべき事態が起っていた。


 何と、シャケ自身が連れてきたある人物が下克上を果たし、無能なキングサーモン……いや、プリンスサーモンに代わりタスクフォースを支配してしまったのだ。


 そして、群れを嫌い、権威を嫌い、己の才覚のみを頼りに生きるその者を人はこう呼んだ、メイドX……ではなく、『メイドクィーン』と!




 皆様こんにちは、ついこの間までタスクフォースの責任者だったマクシミリアンです。


 現在は実質的にその地位を奪われ、書類のチェックと決裁印を押すだけの機械となっております。


 いやー、下剋上って本当にあるんですねぇ。


 まさか自分がその憂き目にあうとは驚きました。


 え?何があったのか詳しく話せって?


 あ、はい、分かりました。


 えーと、事の始まりは数日前に新しい秘書を連れてきたことが始まりで……。


「ランベールさん!」


「ふぁ!?」


「何をボーっとしているんですの!早くバイエルライン占領計画の確認と決裁をお願いしますの!」


「は、はい、すみません……」


 え、えーと、新しい秘書を連れてき……。


「ランベールさん!早く!」


「はい!」


 すみません、説明は仕事が落ち着いてからにしますね……。


 因みに、現在の事務室の様子はこんな感じです。


 今、部屋の真ん中に仁王立ちしたメイドルックのエリザが矢継ぎ早に指示を出しています。


 まず彼女は死にそうな顔で書類の作成をしている財務官僚に声を掛けました。


「そこの財務官僚の貴方!このバイエルライン遠征軍への補給物資の見積もりは何!?」


「はい、クィーン!も、申し訳……」


「黙りなさい!謝罪ではなく、これは何なのかと聞いているの!」


「は?え!?あの……」


「これ、明らかに値段が高すぎるでしょう?」


「え?あ、いえ、その……非常事態ですし、多少割高でも仕方ないかと……」


「お黙り!そうだとしてもこれは高過ぎですわ!今すぐ商人と再交渉して値段をもっと叩いて来なさい!」


「は、はい!畏まりました、クィーン!」


 次に彼女は私の方を向き、その鋭い視線で私を射抜きました。


「ふぅ……ん?あ!ランベールさん!」


「ふぁ!?は、はいクィーン!」


「それとこれと…あと、先程の件は時間がありませんわ、早く決済を!もう!仕事はスピーディにと何度も言っているでしょう?」


「え、あ、はい、すみません……」


 更にエリザは、自分のデスクで書類の山に埋もれているピエールをロックオンしました。


「全く、危機感が足りませんわ!……はっ!えーと、そこの諜報員!」


「ひぃ!クィーン、なんでしょうか!?」


「コモナ関連の情報の分析結果を早く出しなさい!このままでは占領計画が立たないわ!」


「う!も、申し訳……」


「謝ってる暇があったら手と頭を動かしない!」


「ひぃー!了解ですクィーン!」


 と、まあ、まさに女王の◯室って感じです。


 クィーンだけに。 


 さて、では何故こんなことになっているかと言えば……。


 場面は時間を少し遡り、今日の朝チュン騒動の直後から。




 人生初の朝チュン?を体験して朝からメンタルを大幅に削られた私は、その後急いで支度をして迎えの馬車に乗り込み、エリザと共に宮殿へと向かっていた。


 因みに今、私の前にはメイドルックのエリザがちょこんと座っている。


 勿論、まともな服を手配したのだが、本人がこのままがいいと言ったのだ。


 何故かと理由を聞いてみると本人曰く、


「だってランスのメイド服って可愛いいんですもの!反対に、見慣れているのもあるとは思うのですが、ルビオンのメイド服ってちょっと地味なんですわよね」


 ということらしい。


 まあ、とても良く似合っていて可愛いし、何より本人が気に入っているのなら別にいいけど。


 おっと、今は時間がないし、今度こそエリザにちゃんと説明をしないといけないんだった。


「ねえ、エリザ」


「はい、ランベールさん」


「今更だけど仕事の説明をするね」


「はい、お願いします」


「まず、僕ことリアン=ランベール侯爵はランス政府の役人として働いているんだ。それで今任されているのが『非常事態』への対応なんだ」


「非常事態?今ランスで何か起こっているのですか?」


「そうなんだ、現在ランスでは複数の事態が同時に進行していて、それらへの対応を一括して指揮するのが僕の役目なんだ」


「はい」


「それで今、その為のタスクフォースを作って対応しているところなんだけど……兎に角、人が足りないんだ。そこで……」


「ワタシに手伝いを、と?」


「そうなんだよ、全然人が足りないんだ。それでこの後のことだけど、今日から暫くは僕にくっついて職場を見て慣れてもって、暫くしたら秘書として僕を支えてもらう予定だから宜しくね」


「はい、分かりましたわ」


「あと、勿論給料は出るし、家は宮殿内に部屋を用意させるからそれを使って欲しいのだけど……あとは何かある?」


「いえ、特には……あ、あの!」


「ん?」


「第一王子のマクシミリアン様はトゥリアーノン宮殿にいらっしゃるのですか?」


「え!?だ、第一王子!?……様は……あー……いないよ!?え、えーと、あの方は色々やらかして今は僻地で幽閉されているんだよ!」


「そうですか……」


 しゅん。


 私が焦りながらそう伝えると、エリザは露骨に落ち込んだ。


 どうしたのだろう、王族に何か用かな?


 あ!だったら……。


「第一王子がどうかしたの?あ、もし王族に会ってみたいのなら、第二王子のフィリップ……様を紹介することは出来るけど……」


 と、提案してみたのだが。


「いえ、ニジマスは結構ですわ!」


 即答された。


「そ、そう……」

 

 ……ニジマス?


「えーと、何でエリザは第一王子に会いたいの?」


「え?そ、それは……」


 私がそう聞くとエリザは少し考え込んだ。


「それは?」


「んー……ひ、秘密ですの!」


 それから顔を少し赤くしてそう言った。


「うわ!ビックリした……じゃあ理由は聞かないけど……あ!そうだ、エリザが仕事を頑張って成果を上げて、諸々の事態が早く収束したらあの方に合わせてあげ……」


 ようか?と私が言う前に、


「本当ですの!?」


 エリザが食い気味にそう言った。


「うわ!あ、ああ、国が落ち着いて余裕が出来たら会わせてあげられると思うよ」


「本当に本当ですの!?」


 そして、目を血走らせたエリザに念を押された。


 ちょっと怖い。


「う、うん、本当だよ?」


 というか、もう会ってるんだけどね……。


「そうですか……だったら頑張りませんとね!ランベールさん!」


「は、はい!」


「では今起こっている出来事について詳しくお話し頂けませんか?お仕事をする上で必要なことなので」


「え?ああ、勿論だよ、まずは……」


 そして、私はエリザに今起こっている事態を説明した。


「……なるほど、今ランスではバイエルライン王国及びコモナ公国と戦争中で、同時に国内で悪党達に対する掃討戦を展開、更にアユメリカで大規模な植民を行う為の準備をしている、と」


「うん、そうなんだ」


「ふむ……もし、これを第一王子様が本当に一人で画策されたとしたなら…… 率直に申し上げますと……」


「うん」


「欲張り過ぎですわね」


「……まあ、そうだよね」


「でも、あの方の落ち度だと考えると、なんだかそれも愛おしく感じますわね、フフ……でもそれなら余計にお仕事を頑張らないといけませんわ!」


 と、エリザは何かを決意した目でそう言ったのだった。


「?……が、頑張ってね」




 その後、エリザは着任早々から凄まじい働きぶりを見せつけ、数日後には美少女メイドの皮を被った仕事の鬼としてタスクフォースに君臨した。


 そして、彼女には『メイドクィーン』という謎のあだ名が付いたのだった。


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