第207話「シャケ、仕事を始める」

 場面はやっとシャケが『ツン解』の親玉をモノにした直後に戻り、思ったより早く宮殿からの迎えが来てしまい、慌てて支度をして出かけたところから。




 その時、私はエリザを口説き落として労働力を充実させたのだが、直後に迎えの馬車がやって来てしまったので急いで支度を整えた。


 あ、エリザだがルビオンからの長旅で色々あり、相当に疲れている様子だったので今日は私の家で大人しく休んでいるように言った。


 そして、私は慌しく馬車に乗り込み、出勤したのだった。


 それから馬車の中で一息ついたところで、私は先程のエリザとのやり取りを思い出し、ある問題に気付いた。


 因みにそのやり取りは以下の通り。




 私が熱く勧誘した直後、エリザは、


「はい、不束者ですが宜しくお願い致します………………は?」


 と顔を赤くし、恥ずかしそうに答えた。


 よし。


 優秀な労働力を確保!


 いや、良かった良かった。


「ありがとうエリザ!いやー、今仕事が大変なことになっていてね、優秀な人材が一人でも多く欲しかったんだよー」


 私は笑顔で彼女にそう言った。


「そ、そうなのですか……(ああ、死にたい……)」


「そうなんだよー」


 そして、私が無邪気に喜んでいると、エリザがおずおずと尋ねてきた。


「……あ、あのー……」


「ん?」


「それで……秘書ということなのですが……そもそもランベールさんはどのようなお仕事をされていているのですか?」


「え?……あっ!」


 ヤバい!


 いきなり、秘書になって!とか言ってしまったけど、何にも説明していないぞ!


 というか、今更だけど私の正体も教えてないし……。


 ああ、やってしまった……。


 どうしよう!



 とまあ、そんな感じ。


 正直、都合よく優秀な人材がいたから先走ってしまった、とは思う。


 なんと言っても、もし彼女を雇うことができれば私は優秀な労働力を手に入れられ、更に偶然拾った亡命貴族令嬢の問題も片付く。


 一方、彼女は仕事と衣食住を確保出来るし、WIN-WINの良いアイデアだと思ったのだが……。


 焦ってやらかしてしまったかなぁ。


 父上達への相談もしてないし……。


 まあ、でもエリザを雇うと言ってしまったし。


 父上達にはもう秘書を雇ってしまった後だ、と押し通して事後承諾を貰うことにしようか。


 それからエリザには明日改めて業務内容を説明し、正式な雇用契約を結ぶとして……あと私の正体については……黙っていようかな。


 実は今回、婚約破棄騒動の時より更に表立って動けないので仮の身分として、臨時に全権を委任されたリアン=ランベール侯爵として動くことになっているのだ。


 だからエリザには正体を明かさなくても何とかなる筈だ。


 などと、色々と考えていたら馬車が宮殿に着いた。

  

 そして、私は早速自分に割り当てられた執務室に入り、仕事に取り掛かった。


 さてと、まずは……あ、レオニー!


 彼女の呼び出しをキャンセルしないと!


 今回、新しく秘書を雇う訳だし、レオニーをわざわざ現場から呼び戻して彼女が手柄を立てる機会を邪魔したら悪いからな!


 きっと出世の為にポイントを稼ぎたいだろうし……うん、召還はキャンセルだ。


 そう思った私は伝令を頼む為に情報局員を一人呼び出した。


「君、レオニーに伝えてれ。秘書(♀)を雇ったから帰ってこなくていい、存分に現場で働いてくれ、と」


「そ、そんな!私が……で、ございますか!?」


 すると何故だか分からないが、その局員が絶望した。


「ん?ああ、そうだよ?この部屋に君以外に誰がいるんだい?」


 彼は何を言っているのだろうか?


「あの……レオニー様が戻られた後、殿下の方から直接お伝えして頂くというのは……?」


「まあ、確かにそれが礼儀かもしれないが……いや、時間の無駄だろう。君、宜しく頼む」


「は、はい……」


 私がそう言うと、何故だか彼はこの世の終わりみたいな顔をしている。


 まあ、いいか。


 と、思ったところで、


「あ、あの!殿下!本当に宜しいのですか?」


 局員から念押しされた。


「え?」


「殿下、もしこの内容をそのまま伝えたら……刺されかねませんよ?」


「!?」


 訳がわからないよ!




 絶望するレオニー宛の伝令を送り出した後、私は今後のプランを立てることにした。


 まず、私は今後国王から事態を収拾するために全権を与えられたリアン=ランベール侯爵として活動する。


 で、仕事の順番だが、まずは詰め掛けた外交官達を追い払う。


 次に王都で必要な手配をする。


 具体的には以下の通り。


 まず、セシルがいるバイエルラインへの物資や人員の手配。


 次にマリー達がいるコモナ遠征軍への物資と人員の手配。


 加えてストリア皇族と援軍の接待。


 あ、そうだ!


 少し時間が欲しいからストリアの援軍にはわざとランス国内を遠回りしてもらい、観光ツアーでもしてもらうとしよう!


 そうすれば私が王都とバイエルラインを往復しても、何とか接待パーティーに参加出来るだろうからな。


 それからレオニー達が担当している国内の悪党の撲滅と裏社会の支配だが……。


 これは必要な支援と私のプランを伝えたら、後はレオニーと情報局が上手くやってくれるだろうから心配ないな。


 最後にアユメリカへの出発を準備しているフィリップだが……一体何を企んでいるのやら。


 後で一度、直に顔を合わせて話をしないとな。


 一応、ロリコンを拗らせていないか確認も必要だし。


 そして、諸々の手配が終わったら仕上げに私自身が各地へ直接出向き、話を纏めてくる、と。


 最後は王都へ戻り、父上への報告と事後処理をして仕事は終わり。


 そして、あわよくばニートへ戻れたらいいなぁ、とか思っていたり。


 よし、ザックリこんな感じだな。


 さあ、始めようか。


 まずは外交官共か……連中は口が達者で頭もキレるから、ちゃんと準備をしないと。


 では必要なのは……情報収集だな。


 そう思った私がまず向かったのは……。


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