第205話「その頃、海の上では①」

 シャケは元ツンデレを言葉責めにして悶えさせ、猛獣達はそれぞれ好き勝手に暴れ、ニジマスが黒歴史を思い出して意気消沈しているのと同じ頃。


 ランスとルビオンのちょうど中間辺りの海上では、商船に偽装した一隻の船がある任務を帯びてランスを目指して航行していた。


 そして、その船のデッキでは……。


「はぁー死ぬかと思ったッスよー……」


 職務怠慢のお仕置きとして船からロープでグルグル巻きの状態で放り出され、その後サメに齧られかけたところで漸く引き上げて貰えたルーシーが全身ずぶ濡れになり、げんなりした顔で言った。


 しかし。


「けっ!ちっとはその無駄にでかい胸をサメに分けてやればよかったのに!」


「そうだそうだ!この駄牛!」


「エリザ様に土下座しろ!」


 と、食欲に負けてエリザを危険に晒した彼女に他のメンバーは非常に冷たい。


 まあ、本当は勝手にフラフラ出歩いたエリザが一番悪いのだが。


「うー皆んな酷いッスよー、まあ、エリザ様の好奇心と不幸属性を侮った自分が悪いのは間違いないッスけど……はぁ、それにしても足がスースーするッスねー」


 と、サメに齧られてメイド服がミニスカート状態になってしまったルーシーがボヤいた。


 そして、更に仲間の罵詈雑言は続く。


「そもそもなんだその短いスカートは!?」


「誘ってんのか、このビッチ牛め!」


「エリザ様のドリルでしばかれろ!」


 だが、流石に言われすぎてルーシーも遂に逆ギレしてしまう。


「ちょっと……いい加減にするッスよ?スカートはサメに齧られたんだら仕方ないッスよね?ね?……それにビッチ?そんなに逝きたいなら逝かせてやるッスよ?ああん?」


 ルーシーがドスの効いた声で言い返しながら、殆ど剥き出しになっている太股のホルスターからナイフを抜いた……その時。


「おーい!船が見えるぞー!」


 と、見張りの為にマストに登っていた仲間が叫んだ。


「「「!?」」」


 その瞬間、全員がプロの顔に戻り、即座に対応を始めた。


「どんな船ッスか!」


 ルーシーが詳細を仲間に尋ねると、


「えーと……あ!ヤバい!あれはルビオンの軍艦だ!」


 と、悪い知らせが返って来た。


「ええ!?ってことは白豚派の追手ッスか!どうするッスかねー!?」


 そしてルーシーが仲間に叫んだ、その時。


 ドドドン!


 と、ルビオンの軍艦が発砲し、ビュン!と数発の砲弾が船の近くをかすめた。


「う、うわー!この船の武装じゃ本物の軍艦相手にどうしようもないッスよー!このまま全力でランスの領海に逃げ込むッスよー」


「うん、そうだな。我々はここで捕まる訳には行かないし、沈む訳にも行かないからな。なんと言っても我々はツン解から『密書を届けるミッション』を帯びているのだから!」


 と、使命感をあらわに仲間の一人がそう言ったのだが。


「は?こんな時にダジャレッスかー?……ぐお!」


 ルーシーが馬鹿にしたような顔でツッコムと怒られてゲンコツを貰った。


「おいルーシー!こんな時にふざけてるんじゃない!ほら!お前も帆を張るのを手伝ってこい!」


「イタタ……了解ッスー……ぐす」


 そうしてルーシー達を乗せた『ツン解』所属の工作船は、全力で逃走を始めたのだった……が、しかし。


 その直後。


 再び見張り役の仲間がマストから叫んだ。


「おい!前方から軍艦がもう一隻近づいてくるぞ!」


 その声にメンバー達は思わず目を剥く。


「何!?」


「ああ、これはマジでヤバいッスね……」


 そして、更に続けて仲間が叫ぶ。


「皆んな!気を付けろ!前方の軍艦が射撃態勢に入った!」


「「「!?」」」


 その直後。


 その軍艦がズドンと一発こちらへ向かって発砲し、船の直ぐ近くを弾がかすめる音がした。


「ギャー!もうダメッスー!ぐお!」


 ルーシーが慌てて騒いでいると、


「ルーシー!次は一斉射撃がくる!グダグダ言ってないで伏せろ!」


 同僚が彼女の頭を押さえつけ、床に伏せさせた。


 そしてその直後、前方の軍艦は躊躇なく一斉射撃をぶっ放したのだった。





 一方、その前方の船では……。


 時間を少しだけ遡り、ルーシー達の工作船を発見する前から。


 その時、ランス海軍所属テメレール号のクォーターデッキでは、腕を組んだレオノールがのんびりとした雰囲気で立っていた。


「いやー、暇だなぁ副長」


「はい、暇ですね艦長」


 そう、実はルーシー達を乗せた工作船の近くを偶然レオノールのテレメール号がパトロールしていたのだ。


「この間エリザを助けた時に捕まえた密貿易船以来、でかい獲物にありつけてねーんだよなぁ」


 レオノールは渋い顔で言った。


「そうですね、あれ以降は我が国の領海で密漁していた漁船を捕まえたのが最後ですからね……あと、その言い方ではまるで海賊……」


「うるせぇ、誰が海賊だ!……はぁ、漁船じゃ金にならねーしなぁ」


「確かに……ですが押収したロブスターは美味しかったですよ?」


「ああ、確かにアレは鮮度も良くて美味かったけどな……調理したのもライムバックさんだし」


「はい、見事な腕でしたね」


「ただまあ、ロブスターじゃ腹は膨れても懐は膨らまねえんだよなぁ」


 と、レオノールがため息をつきながらそう言ったところで、近くにいたベテラン下士官が真面目な顔でふざけたことを言った。


「何いってるんすか!姐さんの懐はいつも夢と希望でパンパン……ぐお!」


 彼女の立派なバストを見ながら。


「死ね」


 レオノールはゴミを見るような目でそう吐き捨てた後、その下士官をベルサイユとか薔薇的な感じの少女漫画のように長い足で蹴り飛ばした。


「ぐわあ!」


 蹴られた下士官は勢いよくクォーターデッキから吹っ飛んで視界から消えた。


「全く、アホめ」


 と、レオノールが再びため息をついた、ちょうどその時。


 突然頭上から甲高い声が響いた。


「アー!ネーサン!フネ!ネーサン!フネ!」


「あん?船?おーい、トモカン!どっちの方角だ?」


 それを聞いたレオノールは真面目な顔になり、上を向いて怒鳴った。


「アッチ!アッチ!」


 するとトモカンと呼ばれた大型のインコのような鳥は、マストのてっぺんにとまった状態で片方の翼を北東に向けた。


「えーと、北東ぐらいか。おい!一人望遠鏡を持ってマストに上がれ!」


「了解!」


「それと副長!戦闘配置!」


 続いて鋭く命じた。


「戦闘配置、了解!」


 副長が返事をするが早いか、艦内ではドロドロと合図の太鼓が鳴らされ、船全体が慌しく動き出した。


 それを見たレオノールは頷いた後、再び上を見て怒鳴った。


「トモカン!もういいぞ!降りてこい!」


「アー!ワカッター!」


 すると、その大型のインコのような鳥はバサバサと翼をはためかせながら下に降りて来て、そのままレオノールの肩にとまった。


 そのトモカンを肩に乗せたレオノールの姿は、さながら女海賊だ。


 さて、先程から皆様はこの鳥はなんなのだろう?と思われていることだろう。


 実はこの鳥、先日レオノールのペットになったばかりのトモカン鳥という生物である。


 因みにトモカン鳥だが、この鳥はカクヨム諸島のみに生息する珍しい鳥で、見た目は大型のインコという感じである。


 加えて普通のインコより賢くかなりの人語を覚えられるのが特徴である。


 また何故、そんな鳥がこんなところでレオノールのペットをやっているのかと言うと、実はこの間エリザの乗っていた密貿易船を捕まえた時に、彼女が一緒に押収したのだ。


 その時にレオノールは近くの無人島に放してやろうとしたのだが、何故かこの鳥、レオノールの事を気に入って肩にとまったまま動こうとしなかったので、そのまま彼女のペットになったのである。


 そして、この賢い鳥はレオノールが仕事で構えない時は自主的にマストで見張りをするという謎の勤労精神を発揮している。


 余談だが、乗組員が面白がって勝手に色々な言葉を教えるのでレオノールは頭を抱えていたりする。


 閑話休題。


「偉いぞトモカン、よくやった!後で好きなだけナッツ食っていいぞ」


 良い仕事をしたトモカンにレオノールはご褒美をあげることにした。


 すると賢いトモカンはきちんとお礼を言った。


「オオー!サンキューツンデレ!」


 と。


「誰がツンデレだコラ!」


 それにレオノールが即座にキレると、トモカンは首を傾げたあと、


「ツンデレ、チガウ?……ダッタラ、ライオン?……アッ!ツンデライオン!ツンデライオン!」


 今度はそう言った。


 するとレオノールは自分がポ◯デライオンみたいに言われたことに更にキレた。


「はあ?アタシはドーナツか!おい!焼き鳥にされてえのか!……はぁ、鳥にキレても仕方ねぇか。つーか、誰だよ?トモカンにこんな言葉を覚えさせたやつは……」


 だが、彼女は懸命にも動物にキレる不毛さを悟り、ため息をついてそう言った。


「と、今はそれどころじゃねえんだった!見張り員!どうだ!」


「はい、北東に船が二隻います!えーと……小型の商船と……軍艦です!艦種はブリッグ(小型の軍艦)」


「は?軍艦だと!?」


「はい!アレは……ルビオンの国旗です!ルビオン艦が商船を追いかけているようです!」


 と、見張り員が報告するとレオノールは先程とは比べ物にならない程の怒りの形相になって怒鳴った。


「ルビオン艦が商船を追いかけてるだと?ここはランスの領海だぞ!ふざけやがって!……砲術長!」


「はい姐さん!」


「連中を追い払うぞ!ルビオン艦の鼻先に一発お見舞いして警告してやれ!だが今は戦争中じゃねえから初弾は絶対当てるなよ?」


「了解です!姐さん!」

 

 命令を受けた砲術長は威勢よく返事をした。


 そして直後、ズドンと彼は見事な腕で、逃げている商船に追い付き掛けていたルビオン艦の眼前に砲弾を叩き込んだ。


 だが、それでもルビオン艦は追跡をやめない。


 それを見たレオノールはニヤリと笑い、再び砲術長を呼んだ。

 

「ほう、まだ来やがるか……連中いい度胸だな、砲術長!」


「はい姐さん!」


「もう一回だ!だが、今度は片舷斉射(片側にある大砲の全門発射)だ!連中をずぶ濡れにしてやれ!」


「了解です、奴らの頭を冷やしてやるとしましょう」


 砲術長も同じくニヤリと笑い、下へ降りていった。


 その直後、テメレール号は容赦なく片舷斉射を撃ち込み、ルビオン艦の周りに多数の水柱を立て、彼らをずぶ濡れにしたのだった。




 ※夏休み企画の本日のゲスト出演はtomokan様でした。


 因みに他の方は猛獣達にやられたい、部下としてこき使われたい等のご希望が多かった為、構成の都合上もう少しだけお待ち下さいませm(_ _)m


 あと、夏休み企画のゲスト出演はまだまだ受付中ですので、本作に出演してみたいという方は是非ご応募下さいませ!

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