第201話「フィリップの初恋④」
「大丈夫ですよ、王子なら目の前にいますから」
と、困惑するアリア王女を僕はリアン兄さん風スマイルでお茶に誘いました。
「ふぇ?……えええええ!?はわわわわ!」
すると何ということでしょう。
今までずっとローテンションだったアリア王女が盛大に驚いて叫びました。
……あと、その姿がちょっと可愛いな、と思いました。
「さあ、参りましょうか?マドモアゼル」
それから僕は可愛く混乱する彼女をサロンへとエスコートし、そのままティータイムとなりました。
因みに何故、突然そんなキャラ崩壊が起きたのかを後から聞いてみたのですが……。
理由はなんと、今までいくら頑張っても王族の子弟にはまともに相手をして貰えなかった為、実は他国の……しかも大国の王子と挨拶の場以外で会ったことが無かったからだそうです。
アリア王女、苦労したんだなぁ。
可哀想そうに。
いや、それより問題はこれからです。
え?美少女と二人でティータイムなのに何が問題なのかって?
そんなの決まっているではありませんか。
女の子と二人きりでのお茶の経験がないので、何を喋っていいか分からないのです。
え?このヘタレめって?
仕方がないではありませんか……だって僕には『まともな』女の子の知り合いがいないのですから。
一応貴族の令嬢達と複数人でのお茶会の経験はそれなりにあるのですが……。
正直、全然楽しくないので適当に相槌を打ちながら当たり障りのないことを言って、リアン兄さん風の笑顔を浮かべているだけなんですよね……。
だって、何故かそれだけで令嬢達は満足してくれますし。
閑話休題。
兎に角、僕は何を話していいのか分からず困っています。
何かいい話題は……天気?お茶の味?いや、それでは十秒で会話が終わってしまう気がします……。
では……趣味とか、好きなものとか?
と言っても特別趣味は無いから……やはり好きなもの?
好きな?
……おお!好きなもの!
うん!こういう時に頼れるのは……やはりあの人だけだな!
つまり……。
助けて!リアン兄さん!(>_<)
ということで、無難にリアン兄さんを話題にすることにしました。
そして、部外者のいないサロンに入り、温かいお茶を飲んで少しだけリラックス出来ているように見えるアリア王女に僕は言いました。
「ところでアリア王女、リアン兄さん……マクシミリアン兄上とは会えましたか?」
まあ、そんなこと不可能だけど。
というか、万が一会っていたら彼女は今ここに……いや、この世にいなかっただろうし……。
僕がそんな物騒なことを考えていると、
「昨日ここへ到着した際に、一度ご挨拶をしたきりですわ」
と、苦笑しながら言いました。
アリア王女、安心したからか少し感情を見せてくれるようになったな。
可愛いな。
とか、僕が思っていると。
「あ、フィリップ王子」
と、今度は彼女の方から僕に話し掛けてきました。
「はい、何か?」
「私のことはアリアとお呼び下さいませ」
そして、意外なことを提案してきました。
「え?」
急にどういうこと?
僕が不思議に思っていると、
「一応同じ王族という括りではありますが、私など実質的に下級貴族のようなものですし……」
と、何だか申し訳なさそうに卑屈な理由を持ち出してきました。
それを聞いた僕は即答します。
「そういう理由ならばお断りします」
と。
「え?」
アリア王女は僕の予想外の反応に目を見開きました。
そんな彼女の反応を楽しみながら僕は、
「ですが、友人として親しみを込めて、ということならば喜んでそうお呼びします」
微笑を浮かべてそう言いました。
何となく兄さんならこんな風に言いそうな気がしたので。
するとアリア王女改めアリアは両手を口に当てて可愛らしく驚きました。
「ええ!?私なんかとお友達に!?」
「はい、そうです。何かおかしいですか?」
「わ、私なんかが……本当によいのですか?」
そして、恐る恐る上目遣いで確認してきました。
うん、アリアはやっぱり可愛いなぁ。
「いいも何も、こうして二人でお茶を飲みながら楽しくお話ししているではありませんか?ですから僕達はもう友人ですよ」
僕はちょっと強引かな?と、思いながら言いました。
「はい……はい!そうですね!」
すると彼女は目に涙を溜めながらそう言いました。
「あ、あともう『私なんか』と卑屈なことは言わないと、友人として約束してくれませんか?」
「はい!お約束しますわ」
「ふふ、ではアリア……これで僕達は友達だね?」
「あ、ありがとうございます!フィリップ王子!」
「アリア王……失礼、アリア。だったら僕のこともフィリップと呼んで欲しいな」
「そ、そんな……畏れ多いですわ」
「友達なら呼んでくれないと悲しいな……チラッ!」
僕はあからさまに落胆した顔をして言いました。
するとアリアは少し慌てた後、
「はわわ……え、あ、えっと……わ、わかりました、フィリップ様」
まだ涙が残っている顔で、はにかみながら僕の名を呼んでくれました。
僕は何故だか彼女が自分の名前を呼んでくれたことが嬉しくて仕方ありませんでした。
これは一体どういうことなのでしょうか?不思議です。
「ふぅ、今はそれでいいよ、アリア」
「はい、ありがとうございます!フィリップ様!」
と、アリアが嬉しそうにお礼を言ったところで、僕は話を戻すことにしました。
「それで話を戻すけど……リアン兄さんの印象はどうだった?」
これは僕には他に話題が無いのと、ちょっとした好奇心で聞いてみました。
するとアリアはキョトンとした後、
「え?マクシミリアン王子ですか?……えーと、美しくて……優しそうで……とても素敵な方だと思いました。もし近くで、しかもあの甘い声で優しく言葉を掛けられたら女の子はイチコロだと思いましたわ」
可愛らしく人差し指を唇に当てながら答えました。
それを聞いた僕は……。
「やっぱりそうだよね!?」
と、嬉しくなって叫びました。
まあ、実際には視線があっただけで大抵の女の子はイチコロなんだけど……。
あ……ということは、もし普段暴れているセシルちゃんと暗躍しているマリーちゃんがいなかったら兄さんは別の意味で大変なことになっていたのかもしれないなぁ。
と、僕がそんなことを考えていると、
「ふぁ!?は、はい……そう思います……あ、あの、フィリップ様?如何されました?というか何故急に貴方様が嬉しそうにされているのですか?」
アリアが不思議そうに聞いてきました。
え?アリアは何を言っているのだろう。
僕にとっては当たり前のことなのに。
だって兄さんが褒められたら嬉しいじゃないか。
「え?それは勿論、あの人が僕の誇りだからだよ!」
当然僕は即答です。
それから僕は夢中でリアン兄さんの素晴らしさをアリアに聞かせました。
実は僕、嬉しくなるとコレをついやってしまうので、大抵の貴族令嬢は固まるか逃げていくのですが、アリアは……。
「ふふ、本当にフィリップ様はマクシミリアン王子がお好きなのですね」
と、屈託のない笑顔でそう言いました。
「うん、大好きだよ!僕は将来兄さんの為に働くんだ!リアン兄さんは絶対にイヨロピア全体に号令を掛ける偉大な支配者になる、だからその時僕は兄さんの命令でどんな城でも落としてみせるし、どんな内政問題でも解決してみせる!そうやって兄さんの役に立つのが夢なんだ!」
そして僕が自分の夢を語ると、アリアはクスリと笑った後に言いました。
「そうやって大好きなお兄様のお話をされるフィリップ様は……とてもキラキラされていて素敵ですわ」
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