第192話「シャケ、悪役令嬢を拾う」
「うわーん!……ぐす……ワタシ、本当は知らない土地で一人ぼっちで怖くて、辛くて、苦しくて……うえーん!」
「え?え!?えええええ!!!だ、大丈夫!?どうしたの!?」
何、何、何なの!?何なんですかぁ!?
適当に思い付いた理由を答えたら彼女、なんか突然泣き出してしまったぞ!?
ど、どうしよう……。
そう思ってオロオロしていたら、
「うう……ごめん……ぐす……なさい……あの方のことを思い出したら嬉しくなって……安心して…しまって…ぐすん……でも、安心したら急に魔法が解けて泣けてきちゃって……」
急にそんなことを言い出した。
「魔法?」
「エク○ペクト パ○ローナム!」とか、「さすがお兄様!」とか、「おのれ存在Xー!」とか?
「はい、実は昔のワタシはとっても弱くて……でもある時、あの方が強くなれるように魔法の言葉を掛けてくれたんです……」
「ほう……それはどんな?」
魔法の言葉と名前を言えない『あの方』といえば……ヴォ○デモート卿か?
「それは……ごめんなさい、秘密です。でも、本当にその言葉のお陰でワタシは強くなれて……それから今までずっと強いワタシでいられて……でも、それが今急に解けてしまったんです……そしたらワタシ……また自分に自信がなくってしまって……全てが怖いんです……すん」
と、エリザは泣きながら本音を話してくれた。
ああ、なるほど。
そう言うことか。
彼女は元々引っ込み思案の大人しい性格だったが、『あの方』とやらに洗脳?されて、今この瞬間まで気を張って生きてきたと。
恐らく魔法というのは、彼女を勇気付ける為の言葉だったのだろう。
で、彼女はそれに縋って生きてきたと。
まあ、今日まで彼女が頑張れたのだから、結果的にはよかったのだろうが……もし間違った方向にぶっ飛んでたらどうするのだったのだろうか?
例えば、昨日の朝に遭遇した痛々しい悪役令嬢ルックの少女とか。
アレは見た目もそうだが、喋り方まで悪役令嬢然としていて強そうだったし。
うーん……それにしてもあの娘は一体なんだったのだろうか?
破目○ラのファンか?
……ではなくて!
兎に角、どんな方向性であれ、こんないたいけな少女を洗脳するような奴は最低だな!
……う、なんだ!?急に心に重いものが……。
ま、まあ、いいか。
えーと、兎に角!彼女は気丈にも自身のことより私に害が及ぶことを心配してくれていたが、本当は怖かったんだな。
だが、そんな追い込まれた状態でも他人を思いやれるということは、この娘は本当に心優しい性格なのだろう。
……とか考えて、私が勝手にほっこりしていると、次の瞬間。
「うえーん!」
ガシッ!
何故か再び声を上げて泣き出したエリザに抱きつかれてしまった。
「え?ええ!?」
当たり前だが、女性の扱いに慣れていない私はパニックになり掛けてしまった。
だが、不思議と身体が自然に動いて優しくエリザを抱きしめていた。
そして、私はそのまま彼女を抱きしめた状態で、頭を撫でながら泣き止むのを待った。
……。
…………。
………………。
それから約十分後。
「……あ、あの、お見苦しいところをお見せしてしまってごめんなさい」
何とか泣き止み、冷静になったエリザが恥ずかしそうに謝ってきた。
「え?いや、全然大丈夫だよ」
私は微笑を浮かべながらそう答えたが、実際は全然大丈夫ではなかったりする。
繰り返すが私は女性に慣れていないから、いきなりこんなシチュエーションになってもドキドキして緊張するばかりだし……。
だから、巷のハーレム系主人公のように女の子の匂いや感触を楽しむ余裕など皆無だったし……。
いや、勿論余裕があってもそんな犯罪者チックことはしないけども。
「それより、エリザはこんなところでどうしたの?」
私はくだらないことを考えるのをやめ、もう一度そう聞いた。
すると、彼女は、あっ!という顔になり、
「ええっと、それは……あ!いけませんわ!ゆっくりお話ししている時間はありませんの!繰り返しになりますが、ワタシと一緒にいては貴方にまでご迷惑を……」
ん?
ああ、そう言えばさっきも、もう逃げない、とか言ってたな。
つまり、彼女は追われる身ということか。
うーん、確かに彼女の言う通り、一緒にいて、しょっぴかれるのは困るなぁ。
今は色々と忙しいし、朝一で捕まるわけにはいかないし。
というか、この時間、この状況だと別の罪状で捕まりそうだ。
もしそうなったら、朝刊の見出しは多分……。
『元皇太子マクシミリアン王子、青少年健全育成条例違反で逮捕!』
とかかな?
嫌過ぎる……前科持ちになるのもさることながら、特に罪状が嫌だ……。
それぐらいならまだ国家反逆罪とかの方がカッコいい?気がする。
いや、そうではなくて!
今からどうするか、だよなぁ。
お言葉に甘えて逃げるか?
だが、見捨てるのは心が痛むし……。
あ!あと彼女、絶対訳ありっぽいんだよなぁ。
何故かと言うと、この少女は一見貧しい物乞いのように見えるが、多分そうではない。
実は先程から気になっているのだが、彼女の仕草や言葉遣い、またさっき抱きとめた時の感触から体付きも痩せているようには感じなかったし。
恐らくは高貴な身分だったのだろうと思う。
と、昨日から頭をフル活用し続けてきた影響で私の頭は非常に冴えている為、珍しく色々と気付けた。
どうだ!私だってやれば出来るんだよ!……たまにはね。
……でもなくて、えーと、目の前のこの子をどうするか?だったな。
多分、正解はさっさとこの場を立ち去ることだ。
だが、自分に構わず行ってくれ、とそう言うことが言える心優しい女の子を見捨てるという選択肢は……私には取れそうにない。
だが、助けるにしても何が良いのだろうか?
有り金を全部渡して見送るのがいいのか、仕事か孤児院でも紹介するのがいいのか……彼女は何を求めているのだろうか?
と、私が思った瞬間。
きゅるるるるる……。
「あっ!……恥ずかしい」
エリザのお腹が可愛く鳴り、彼女は恥ずかしそうに俯いた。
なるほど……よし、決まったな。
「エリザ、良ければ家で一緒に朝食でもどう?」
「え?宜しいのですか!?……コホン、いえ、やはり貴方様にご迷惑をお掛けする訳には……」
私の誘いにエリザは一瞬、目を輝かせた。
お、揺れてるな。
よし、時間も無いしプッシュプッシュ。
「大丈夫だよ、遠慮しないで?それにウチは安全だからさ」
因みに何故我が家が安全かと言うと、それは昨日、当然のように父上の配下が私を迎えに来たからだ。
それはつまり、私が常に監視されているということなのだ。
だから、良くも悪くも何かあったら直ぐに誰かが来る筈。
結論、ある意味とっても安全。
とか思いながら、テレビショッピング用のエセスマイルで言ってみると……。
「はうっ!……で、ではお言葉に甘えて……」
よし、上手くいった。
さあ、捕まる前に移動だ!
……。
…………。
………………。
それから私はエリザを自宅に連れ込み、シャワーを浴びさせ、早めの朝食を食べながら色々と話をした。
そこで私はあることを思い付き、可愛らしく一生懸命に朝食を頬張るエリザに声を掛けた。
「ねえ、エリザ」
「むぐ、むぐ……ごくん。はい、ランベールさん、何かございまして?」
すると、緊張から解き放たれ、精神的に無防備になった彼女が自然な笑顔で答えた。
あ、可愛い……。
そして私はそんな彼女のサファイアのように美しい瞳を真っ直ぐに見つめながら言った。
「うん、実は……君が欲しいんだ」
……と。
「ふぁ!?」
皆様こんにちは!
作者のにゃんパンダです。
最近更新ペースが落ちてしまってすみません、もっと頑張りますm(_ _)m
さて、今回のお知らせなのですが、実は先日、本作の連載開始一周年を迎えました。
そして、勿論ここまでやってこられたのは全ては、読者の皆様の応援のお陰でございます。
本当に応援ありがとうございました!
……と、いうことで日頃の感謝の気持ちを込めまして連載開始一周年記念&夏休み企画をやりたいと思います!
内容は、年末の企画と同様に作中でヒロイン達に喋らせたい内容を募集……にしようかと思ったのですが、今それをやると私は多分死んでしまうので、もっとシンプルなものにすることにしました。
それはズバリ、応募頂いた方の中から抽選で読者様のお名前を作中に登場させます!
具体的には、この少し後にあるセシルやマリーの遠征パートで彼女達に燃やされる砦や占領される都市、そしてモブキャラ等の名称に、応募して下さった読者様の名前をランダムに入れたいと考えております。
ただ、そのまま作中に入れてしまうとおかしな雰囲気になってしまうので、作品に合うように少し変えさせて頂く予定です。
例えば私『にゃんパンダ』だったら……、
某ヒロインを隠れ巨乳設定へ変更することを頑なに拒んだ底辺作家パンニャンダは、翌日変わり果てた姿で発見された。
とか、
ニャンパーニュ砦はセシロクマの苛烈な攻撃によって灰塵に帰した。
とか、
ニャンパンの街はコアクマリーの陰謀で疑心暗鬼に陥り、味方同士で争い合う阿鼻叫喚の地獄と化した。
……のような感じで考えております。
もし、ヒロイン達に蹂躙されたい!とか、こっそり作中に登場してみたい!と言う方がいらっしゃいましたら、感想・コメント等で夏休み企画に応募する旨を明記して下さいませ(^^)
あと、どんな形で作品に登場したいか、という希望も有れば併せてご記入下さい。
可能な限り、ご希望に添えるように頑張りますので!
ではでは、今回もお読み頂きありがとうございましたm(_ _)m
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