第190話「退出:RE」
「……と、私からの提案は以上です。それで父上、宰相閣下、改めて確認をさせて頂きますが、これら全ての件について、私に全権を与えて頂けるということで宜しいですか?」
全ての商品の紹介を終えた私は、それらのおさらいをした上で、二人に最終確認を行った。
「うん、勿論だ。頼むよマクシミリアン。僕らもストリアの貴婦人達のエスコートを頑張るからね。なあ、エクトル?」
「はい、殿下の足を引っ張らないよう最善を尽くす所存でございます」
すると、父上達は朗らかな笑顔でそれを承諾してくれた。
「ありがとうございます。ご期待に添えるよう全力を尽くします」
それを聞いた私は、そう言って深々と頭を下げた。
「さて、では具体的な内容や今後の予定の調整をしたいのですが、宜しいですか?」
そして、早速今後のプランを説明することにした。
「うん、いいよ。それでどうするつもりなんだい?」
「はい、まずこの後すぐに前回と同じような私直属の臨時編成のタスクフォースを設置し、作業に取り掛かります。メンバーも同じく暗部……失礼、情報局や各省庁から抽出したく思います」
「いいよ」
「ありがとうございます。次に大まかな予定ですが、まずはバイエルライン遠征軍への兵站の手配、次にコモナ遠征軍への兵站の手配、続いて国内の悪党撲滅作戦と娯楽産業の掌握、最後にアユメリカ移住希望者用の船団の手配を、と考えております」
「うん」
「勿論、この他にも詰め掛けている外交官達を追い払ったり、ストリアの軍と皇族を迎える準備したり、今後娯楽産業を管理していく為の研究等も並行して行います。そして……」
「そして?」
「ここ(王都)で必要な処置が終わり次第、私がそれぞれの現場へと赴き、火消し……じゃなかった、纏めて参りますのでよろしくお願いします」
と、私がしかつめらしい顔で一通り説明をして再び頭を下げたところで。
「え!?やっぱり自分で行くのかい?危ないよ?下手したら(猛獣達に)食べられちゃうよ!?」
「そうです殿下!非常に危険です!捕食されるのもそうですが、御身が無事でもそのまま現地で(猛獣達に)拘束されてしまうかもしれませんし……」
何故か父上達が突然慌て出した。
ん?そう言えばさっきも同じようなことで慌てていたような。
確かに戦地へ赴いたり、反乱分子と会うのは危険だが、流石に食べられたりはしないだろう。
バイエルラインに人食い族がいるなんて話は聞いたことがないし……。
「お二人共、先程も申し上げましたが心配し過ぎですよ。護衛もきちんと付けて行きますからご安心を」
「……そうか、気を付けてね」
「……どうか、気を強く持って頑張って下さい」
私がそういうと、二人共まるで私が死地へ赴くとでも言わんばかりの目でそう言った。
「は、はあ……頑張ります」
なんか引っ掛かる言い方だが……ああ!そうか!
実際に悲惨な戦場や醜悪な悪党、狡猾な反乱分子共を見て私がショックを受けないか心配ということか!
確かに百聞は一見にしかず、ここは二人のアドバイスを真摯に受け止め、心して掛かろう。
さて、時間もないし、動き出すとしよう。
「それでは父上、宰相閣下、早速仕事に掛かりたいと思いますので、これで失礼致します」
私はそう言ってから一礼し、部屋を出てドアを静かに閉めた。
お、終わったー!
ふぅー……緊張が解けてこの場にへたり込みそうだ。
だが、全力で頑張った甲斐はあったな。
これで、この場で捕まって打首になることは避けられた。
これで一安心……と、言いたいところだが、しかし。
むしろ問題はこれからだ。
何しろ、恐らく彼女達が独断で起こしたであろう騒動を、私の命でやったことにしてもらって、更に実際にそれらの事実を使って利益引き出してこないといけないし……。
その為には出来るだけ早くセシル、マリー、レオニー、フィリップと会って真意を確かめなければならない。
だが、しかし。
レオニーは兎も角、他のメンバーと顔を合わせるのは色々と気が重いなぁ。
ああ、胃が痛い。
だが、逃げたら打首エンドになってしまうし、ここは頑張らないと。
さて、では……まず、人を集めなければな。
「ピエール」
「はい!」
私が部屋の外で控えていた情報局員のピエールに声を掛けると、生真面目な感じの返事が返ってきた。
「寸劇お疲れ様、助かったよ」
「ありがとうございます!」
「約束通り、レオニーや君たちの立場が悪くならないように話をしておいたから安心してくれ」
「「「殿下!」」」
私が彼らを動かす為に適当にした約束を果たしたことを告げると、一堂に感謝の眼差しを向けられた。
ちょっぴり良心が痛むな。
「共に一ヶ月間働いた仲じゃないか!このぐらい当たり前だよ……では時間もないし仕事を始めよう。まずは前回同様に離宮に本部を設置する。あ!それと……」
「それと?」
「レオニーを呼び出してくれ。私には(仕事をする上で)彼女が必要だ」
マクシミリアンが退出した後。
部屋ではシャケと同じく緊張から解放されたイケメン二人が話を始めていた。
「……よし、今回は誰もカーテンから飛び出してこない」
「……良かった。わざわざカーテンを短くさせた甲斐があったな」
「うん、そうだね……いやー、それにしても凄かったねエクトル」
「ああ、全くだ」
「マクシミリアンが立派になってくれて嬉しいよ、流石は僕の息子だ!」
そして、イケメン化した国王シャルルが嬉しそうに言った。
「立派になったというのは同感だが、お前に似たわけではないと思うがな」
すると、その言葉とは裏腹に穏やか笑みを浮かべてエクトルは答えた。
「酷いよエクトル……まあ、確かに息子の中身は母親似だけど……」
シャルルは苦笑しながら言った。
「ああ、アメリーの頭の回転の速さと口上は凄かったからな。もし彼女が殿下のあの姿を見たら、さぞ喜んだことだろう……いや、今はそれより……」
と、そこまで言ったエクトルが、ここで真面目な顔になった。
「ん?」
「我々の進退を考えるべきではないだろうか?」
そして、突然とんでもないことを言い出した。
「え!?エクトル、いきなり何を!?」
シャルルは驚いたが、エクトルはそのまま話を続ける。
「なあ、シャルル。先程の殿下のお話を聞いて思わなかったか?殿下は我々などより遥かに高みにおられる。そして途方もなく先を見ておられる」
「それはそうだけど……」
「だからこそ思うんだ。多少強引でも我々がさっさと引退し、この国の全てを殿下に任せるべきなのでは、と」
「……エクトル、君の言いたいことはわかるし、正直それは僕もそう思うよ。息子は僕なんかより遥かに国王に向いているからね。でも、嫌がるマクシミリアンに強引に継がせるのは……ねぇ?」
「その部分は申し訳ないと思うが……だが、思わないか?ひと月前と今回の殿下の話を聞いて」
「何を?」
「あの方がいくら王位を拒絶しても、やはり王たる器を持つ者は無意識にそれを求めてしまうのだと」
「……確かに。本来なら黙って居なくなっても不思議ではないのに、それどころかこの国の為に働こうとしてしまうのだからね。やっぱり、息子は国王……いや、皇帝の器なのかもしれないね。あ、もしかして名前の所為かな?」
と、ここでシャルルが何か思い当たる節がありそうに言った。
「名前?……なるほど、名前か!畏れ多き建国王マクシミリアン一世陛下に因んで付けたあの名は、偶然ではなく運命だったのかもしれないな。ふむ……これはもしかして我々は……」
するとエクトルは納得した顔でそう答え、
「歴史が変わる瞬間に立ち会っているのかもしれないね」
そのエクトルの言葉を引き継いだシャルルが少し楽しそうに言った。
そして、
「……よし!決めた!この一連のマクシミリアンの計画が無事に終わったら、僕は引退する!」
清々しい顔でそう言った。
「シャルル……よく言った!あとは若い人材に任せて、我々はランスの……いや、世界の行く末をのんびりと見物するとしよう」
「ああ、それがいい。だけど、その前に僕らは求められた役割を果たさないと……でもその前に」
「?」
「一息つこうじゃないか。君も付き合えよ」
「ああ、勿論だ」
と、二人がそう言った時には既に、その背後にメイドと侍従がシャルル秘蔵のブランデーとグラスを乗せたワゴンと共に、音もなく立っていたのだった。
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