第189話「テレビショッピング:RE⑨」

「え、えーと……ご納得頂けたようですので、最後の商品に参りましょうか!」


 私は誤魔化すようにそう言った。


 ふぅ、これで遂に最後の商品。


 ああ、長かった……ここまで思い付く限り適当にでっち上げた理由を並べたててきたから、心身共に疲労困憊だ。


 正直、もう休みたい……もう、ゴールしたい……だが、ここで諦めれば全てが水泡に帰してしまう!


 あと少し、あと少しなのだ、自分!


 耐えろ自分!


 頑張れ自分!


 あと一つ終われば、私は生き残れるのだから!


 私は心の中でそう言って自身を奮い立たせると、最後のセールスに臨む。


 笑顔を作り、テンションを上げ、そして甲高い声で……。


「それではお待たせ致しました!最後の商品はこちら!『アユメリカの開拓民募集』です!」


 ジャン!(脳内SE復活!)


「「おおー!」」


「まず、この商品についてですが、表向きは文字通り、アユメリカへの移民を普通に募集するものなのですが……実際にはお二人がご存知の通り、我が国……いや、イヨロピア中の反乱分子を集めております」


 そして、私はあっさりととんでもない事実を告げた。


「やはり事実か……なあマクシミリアン、何故そんなことをしているんだい?」


 すると、すっかり穏やかなイケメンキャラにトランスフォームした父上が、そう聞いてきた。


 続いて、宰相閣下もそれに乗っかってくる。


「そうです殿下、何故わざわざそんなことを?まさか本当に新しい国を建てるおつもりなのですか?いや、それともまさか……一か所に反乱分子を集めて皆殺しに!?」


 そして、恐る恐るそう聞いてきた。


 失礼な!


 私がそんなことする訳ないだろう!


 なんてことを言うんだこの人は……。


 いくら私が生き残る為に必死だからと言っても、流石に大量虐殺を提案したりはしないぞ。


 それにそんなことをしたら物凄く恨みを買って、余計にああいう連中が増えてしまうだろうし。


 まあ、それはさておき。


 さあ、どんどん行こう!


「まあまあ、お二人共、落ち着いて下さい。きちんとご説明しますから」


「うん」


「はい」


 私がそういうと、二人共素直に頷いた。


「ありがとうございます。それで、イヨロピア中から反乱分子を集め、連中を纏めてアユメリカに送り出すその意味ですが、それは……」


「「それは?」」


「まず一つ目、当たり前ですが単純に国内の反乱分子を減らすことが出来ます」


 と、勿体ぶった割に私が答えたのは至って普通の答え。


「え?あ、ああ、そうだね……」


「はい、私もそれは同感ですが……」


 すると、私の答えが平凡過ぎて二人共、逆に驚いている。


 まあ、そうだろうな。


 だが、驚くのはここからだ。


「お二人はここで疑問に思われることでしょう。何故連中をさっさと捕まえて投獄してしまわないのか、と。そして、わざわざ手間を掛けて連中をアユメリカまで送り届けるのか?と」


「「そうそう、そう思う(思います)」」


「それはああいった連中を減らす為には、今までのように力で押さえ付けても逆効果で、根本的な解決にはならないからなのです!」


「え?で、でも……」


「何もしないと調子にのりますし……」


 私の言葉に二人共少し戸惑っている。


 まあ、そうだよなぁ。


 人間、意外と気付けないことは多いし。


「確かにそれも事実ですが、実はあの手の連中は力で叩くとかえって結束を強めてしまったり、より過激になったり、数を増やしてしまったりしますので、余計に危険なのですよ(多分)」


「「え?そうなの?」」


 そうなのだ……多分。


 何事も力尽くでは上手く行かない……筈だ。


 確かに昔、北風とか太陽が出てくる絵本にそう書いてあったし。


「ですから私は、このランスの王政を守る為、別のアプローチを考えました。それが……」


「危険分子のアユメリカへの移住だと?」


「はい、そうです。勿論、ただ漠然と募集した訳ではありませんよ?それでは誰も集まりませんし。ですから、私はフィリップに頼み、主犯格の者を説得して牢から出し、そして仲間を懐柔させました。その際連中には、アユメリカに理想の国を作らせてやる、その為に私が一時的に皇帝となって協力してやる、と言って……」


 ……ないけど。


 言う訳ない、というか言える訳ないじゃん。


 街中でニートやってたし。


「「そんな勝手な!?」」


 当然、このセリフに父上達は驚愕したが、私は彼らを安心させる為にそのまま話を続ける。


「まあ、お待ち下さい。勿論、そんなものは連中をその気にさせる為の方便ですよ。私には皇帝や国王どころか、王族でいるつもりもありませんし」


 皇帝?そんなの奴らに希望を抱かせる為の幻想ですよ。


 まあ、私が言った訳ではないけど。


「「……(いや、それはそれで困るのだが……)」」


 ん?なんか二人共微妙な顔だな?


 まあ、いいか。


「あと、更に連中を焚き付ける為に、ランス本国での政治活動は許さないが、その代わりアユメリカでは自由にして良いと約束してやります。そうすれば連中は世界中の仲間とこぞって移住をすることでしょう。また実験も兼ねて、様々な規制を緩和したり、新しい制度をアユメリカで実施してやれば更に連中は喜び、やる気を出してくれますよ」


 これぞウィンウィンの関係……だと思う。


「「なるほど!」」


「更にこの反乱分子を海の彼方へ追い払えるというメリットは、我が国ならず、イヨロピア全体にも利益があります」


「「?」」


「想像してみて下さい。このイヨロピアのどこか一か所でも革命が起き、成功してしまったら?恐らくそれは野火のように周囲に広がってしまうことでしょう。そうなればイヨロピア全体が炎に包まれることになってしまいます。つまり、今回の件によって我が国のみならず、イヨロピア全体の危険分子を減らせる訳です。それはつまり他国に恩を売れるということです」


「「ほほう!」」


「しかも!しかもですよ!?アユメリカに送り込んだ連中を安上がりな労働力として使うことができるのです!なんといっても連中は理想という名の燃料で動きますから。そして、その理想に元手は掛かりません!加えて先程の反社会勢力等の無償の労働力と合わせて使えば、開拓は大いに進むことでしょう!」


「「なんと!」」


「更に更に!経済的にもメリットがあります!アユメリカが上手く発展し、自由で開かれた素晴らしい新天地がある、という噂を聞いて移民が増えれば、彼の地はマーケットとしての価値も高まり、ランス本国の輸出も増えて儲かります!つまり、幻想を信じる反乱分子を使って開拓の促進と新たなマーケットの創造が出来るのです!」


 くっくっく、犯罪者と反乱分子を使って大儲けだ!


「「なんとー!」」


 そして、肝心の二人を見れば、この話を聞いて目を輝かせている。


 ふう、これで最後の商品もセールスは成功だな。


 だが、しかし。


「いや、まさかこんな理由があったとは!」


「殿下!二心を疑ってしまったこと、お許し下さいませ!……それでは早速他の件と合わせて手配を……」


 と、二人が言い掛けたところで私はそれを遮った。


「何勘違いしているんだ。まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ!」


「「!?」」


 さあ、次でティロフィナーレ……じゃなかった、グランドフィナーレだ!


「そして、気になる一番のメリットは……」


「「そ、それは!?」」


「アユメリカからルビオンを追い払います!」


「「!!??」」


「やり方はこうです。まず今回の件を使い、我が国と同じくアユメリカに広大な植民地を持つルビオンを誘き寄せます。ルビオンの連中は私とフィリップが父上と仲違いし、独立を目論んでいると勘違いしている筈です。それを知った連中は、我がランスをアユメリカから追い払う為、必ず私かフィリップのどちらかに接触してきます。そして、援助を申し出てくる筈です」


「「た、確かにありそう……」」


「そこで私かフィリップがその話に乗るふりして、独立の為の軍事的、経済的援助を要請します。そして、ルビオンの陸海軍がノコノコ出て来たところを叩きのめし、逆に連中をアユメリカから叩き出します!そうすれば最早、北アユメリカ大陸は我がランスのモノも同然です!残りの細々した他国の植民地など、金貨で引っ叩けば手放すでしょう!お二人共、このプランは如何でしょうか?」


 そして、私がテンション高く二人に問うと、


「「すんばらしい!」」


 私と同じぐらいテンション高く返事が返ってきた。


 よし、いい感じだ。


 あと、少し!


「ありがとうございます!ですが、まだ続きがあるのです!」


「「!?!?!?」」


「完全に北アユメリカ大陸を手に入れた暁には、それを拠点に更に勢力を拡大します。最終的には南北のアユメリカ大陸のみならず、更に西へ進みユージアル大陸をも手中に収めます!つまり、ランスが世界一の大国となるのです!(まあ、フィリップが頑張ればいつかは出来るんじゃないかなぁ)」


「「マジで!?」」


「マジです!(適当)そうなれば今後、強大な力を持つ我が国を脅かす存在は無くなります!つまり、我がランスはそこで『平和』という名の報酬を手に入れることが出来るのですよ!(きっと)」


 さあ、これで私の全てを出し尽くしたが……どうだ!?


「「おお!凄い!今すぐ買いだ、買い!……(ん?でもこれって……世界征服なのでは?)」」


 よし、決まったー!


 これで命が助かる!


 神様サンキュー!


「さあ、それでは気になるお値段の発表と、その後本日ご紹介した商品を改めて確認すると致しましょう!」


 そして、勝利を確信した私はテレビショッピングの神に感謝しながら、満面の笑みを浮かべて叫んだのだった。

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