第188話「テレビショッピング:RE⑧」

 情報局の諸君、ありがとう。

 

 さあ、ここからは私の仕事だ。


「……さて、いかがでしたでしょうか。と言うことで三つ目の商品は『国内の悪党の撲滅』です!」


「「!?」」


「では、早速具体的なメリットをご説明致しましょう!」


 さて、導入はショップジャ◯ン風だったが、ここからは再びタカ◯社長に力を借りるとしよう。


「まずは一つ目、当たり前ですが治安の改善です。この国に住まう皆が安心して暮らせるというのは、何より重要なことですよね」


 まあ、悪党を撲滅する作戦なのだから当然だが。


「「ふむふむ」」


 当たり前だが、二人の反応も普通だ。


 さて、ではメインに行こうか!


「続いて本命の二つ目です。治安が改善すれば当然、人出が増えたり、輸送、販売等も安心して出来ますから経済的にもプラスです。しかも!先程申し上げたバイエルライン及びコモナとの戦争による好景気と相まって、大きな効果が期待できるでしょう!」


「「おおー!」」


 よし、二人共素直に感心している。


 いい感じだ。


「更に景気が良くなれば当然、人、物、金が動き、集まります。そして、世の中が豊かになって余裕が出来た人間が求めるのは娯楽です。主に飲む(飲酒)、打つ(ギャンブル)、買う(娼館等)ですが、これらを仕切るのはご存知の通りマフィア等の反社会勢力ですよね?ですから私は……」


 と、私が言い掛けたところで、


「なるほど、そうなる前に先に連中を刈り取ってしまおうというのだね?」


 父上が穏やかに言った。


「はい、父上」


 ん?なんか父上、イケメンに戻ったら喋り方まで変わったぞ。


「ですが……」


 それから、それだけではないんです!とテンション高く私が続けようとしたところで、


「それだけではありませんよね?」


 冷静な宰相閣下にそう言われてしまった。


「あ、はい……」


 あのー、期待してくれるのはいいのだけど、私のセリフを取らないで欲しいなぁ。


「……コホン、勿論です。それだけではなく、今言ったシノギ……じゃなかった、娯楽産業を……我々がまるっと頂いてしまうのです!」


 そして、私は期待に応えるようにドヤ顔でそう言った。


「「ええ!?」」


 ようやく少し落ち着いていた二人は、ここで再び仰天した。


 ふっ、これで今回も頂きだな。


「折角マフィアを潰すのです。この絶好の機会を逃す手はありませんよ。それに、この手の娯楽産業はどうせ直ぐに悪党との黒い繋がりが出来てしまいますから、それぐらいなら……」


「我々、つまり国で管理すべきだというのだね?」


 再び父上が私の言葉を引き継いだ。


 父上、冴えてるな。


「はい、父上。今回の悪党撲滅を機に、酒類の管理・課税、公営ギャンブルの実施、そして国による娼館の金銭面・衛生面での管理を行います。そうすれば今後、娯楽産業を国がコントロール出来ますし、何より……」


「「何より?」」


「国庫に莫大な収益をもたらしてくれます!」


 そう、世の中はやはり金だ!


「「おお!」」


 案の定、二人共目を輝かせている。


 どうだ!これでもう、二人は私に逆らえまい!


 だが、まだだ!まだ、終わらんよ!


「更にこれだけではありません!」


「「!?」」


「今回の撲滅作戦は国が、それも父上が民の為に率先してやったことにします!それを全面に押し出せば王家のイメージアップは間違いないですし、加えて我が王家は戦争での勝利と併せ、国民の絶大な支持を得られることでしょう!」


「「!!??」」


「更に更に!」


 私の怒涛の連続攻撃はまだまだ続く。


「「まだあるの!?」」


「今回の撲滅作戦で捕らえた悪党共を『労働力』として活用致します!捉えた連中は残らずフィリップが担当するアユメリカ植民地で使い潰す……いえ、彼の地の礎となるのです!そうすれば監獄の管理費や脱獄を心配する必要はありません!フィリップは優秀ですから、きっと連中を有効活用してくれる筈です」


「「なるほど!完璧だ!」」


 これで今回も完全に二人共堕ちたが、しかし!


「更に更に更に!」


 まだあるんだよなぁ。


 既にオーバーキルな気もするが、折角色々と考えたのだし、全部喋りたいから最後まで二人には付き合ってもらうとしよう!


「「?!?!?!」」


 二人は驚き過ぎて言葉が出ないようだが。


「今回の作戦を行うことで、新編されたばかりの情報局に手柄を挙げさせれば、彼らの地位を向上させることが出来ます!当然、彼らの地位と権限が大きくなれば今後働きやすくなる筈ですし、忠誠心も上がるでしょう」


 まあ、かと言って情報局がかつてのフーバー長官時代のFBIのように強くなり過ぎても、それはそれで困るのだが……。


 もしレオニーが貴族や政治家等の弱みを握りまくって絶大な権力を持ったらどうなるのだろうか?


 ……うん、今後彼女には高級なお中元とお歳暮を必ず届けるとしよう。


 と、私がしょうもないことを考えていると、


「まさか、ここまで……」


「多くのメリットがあるとは!流石です殿下!」


 二人が私を絶賛してくれた。


「ありがとうございます!……では気になるお値段に参りたい……のですが、ちょっと待って下さい!」


「「もしかして、まだあるの!?」」


「はい!勿論です!最後のメリット、それは……今回の作戦中に、お二人にとって目障りな連中を纏めて片付けてしまえば良いのです!」


 そして、私はニヤリと嫌らしく笑いながらそう言い放った……のだが。


「「え?……マジで!?」」


 なんか、若干引かれた?


 ちょっとショック……。


 だが、私はここで止まる訳にはいかないのだ!


 何とかこのままの勢いで次に繋げなくては!


「お二人はこの国の最高権力者とNo.2ですから当然、政界、財界、軍、そして貴族などなど、まだまだ国内に敵が多いですよね!?ですから今回の悪党撲滅作戦のどさくさに紛れて根こそぎ邪魔は連中を片付けてしまえば良いのです!本作戦は国全体で行う大掛かりなものですから、ちょうど良い目眩しになりますし!」


 と、私は力説したのだが。


「そ、それは流石に……」


「やり過ぎでは?」


 目の前の二人は日和っていた。


 おい!


 はぁ、仕方ない。


 喝を入れるか。


「は?何を甘いことを言っているのですか!」


「「ひぃ!」」


「お二人とも政治家でしょう!ランス繁栄の為、公共の福祉の為、多少の犠牲は仕方がないでしょうが!それに、別に私は連中を皆殺しにしろ、と言っている訳ではありません。仲良く西インディア諸島の砂糖キビ畑等で強制労働させるのが良いと思います」


「「ほっ……」」


 それを聞いた二人は少しホッとした様子だ。


 あの辺りはマラリアや黄熱病等のリスクがかなりあるし、長生きはできないだろうが……。


 全く、なんだかんだ言って二人共、甘いなぁ。


 まあ、そのお陰で私が助かったと言うのはあるが……。


 いや、今はそんなことよりシメだ!


「さて、では話を戻しますが……只今ご紹介したこの商品、『国内の悪党の撲滅』は如何だったでしょうか!?治安の改善や娯楽産業からの莫大な収益、無償の労働力の確保、情報局の地位の向上、そしてお二人の政敵の排除等、数多くのメリットを享受することができます!更に当然ですが便利な分割払いもご利用頂けますし、勿論金利・手数料も当社の負担です!しかも!しかもですよ!?今なら同じ物をもう一つお付けして……」


「「おお!……ん?(同じ物をもう一つってどゆこと!?)」」


「お値段据え置きの特別価格、ズバリ!私の『命の保証』と『全権の委任』でのご提供です!それではお電話をお待ちしております!また商品には数に限りがありますので、お早めに!」


「「う、うおおおお!安い!今すぐ買いだ!……電話?数に限り?」」


 あ、テンションが上がり過ぎてまたやってしまった……。


「え、えーと……ご納得頂けたようですので、最後の商品に参りましょうか!」


 そして、私は誤魔化すようにそう言ったのだった。

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