第187話「テレビショッピング:RE⑦」
ピエール達との打ち合わせと準備を終え、私は父上の部屋に戻った。
すると、
「……そうか、そうか!分かってくれるか!ありがとうアメリー!これも大事な息子の為だからね!」
「……そ、そうなんだよナディア!ここで頑張れば将来セシルの為にもなるんだよ!だから安心してくれ!」
と、何も無い空間に向かって話し掛けている父上と宰相閣下の姿があった。
うーむ、どうやら二人共、相当お疲れの様だな。
まあ、なんか怖いし、これ以上は触れないでおこうか……。
「父上、宰相閣下、今戻りました」
「む?おお、マクシミリアンか!丁度良かった。今話が付いたところなんだ」
「殿下、お疲れ様です。私も無事お役目を果たせることになりましたので、ご安心を」
私が戻ったことを告げると、二人共一仕事やり遂げたような清々しい笑顔でそう言った。
「……そうですか。えー……で、では早速三つ目の商品のメリットについての説明に移りたいのですが……まずこちらをご覧下さい!」
「「?」」
「二人共、入ってくれ!あと、他のメンバーは裏方宜しく!」
私が入り口の方に向かってそう叫ぶと、ドアから情報局所属の若い男性局員ピエールとネリーという美少女局員が入って来た。
因みに、今は二人共街を歩いているような普通の私服姿だ。
あ、そう言えば彼らとはひと月ぶりに会った筈なのだが、何だか割と近くにいたような気がするのは不思議だ。
特に今日初めて会った筈のネリーという美少女局員は、頻繁に会っていたような気さえする。
が、今はそれどころではない。
目の前では二人の入場と同時にシュバっとやってきた他の局員達が、書割や小道具等の準備を手際良く終えようとしていた。
よし、準備完了だな。
それにしても暗部改め情報局員達は凄いな。
私が突然協力を要請し、無理難題を押し付けてしまったのにも関わらず、彼らは完璧な仕事をしてくれた。
感謝感謝。
後で菓子折りでも渡すとしよう。
さて、ではいよいよ『ショップリアン』の始まりだ!
「よし、始めてくれ!」
私がそう言うと、いつの間にか部屋の中に準備された演劇用の背景(普通の街並み)の前に、壊れたリンゴの屋台と大袈裟に頭を抱えたネリーが現れた。
そして、冒頭での第一声は、
「はぁ、困ったわ……」
と、壊れた屋台の前で頭を抱えたネリーがそう言った。
すると、傍からピエールが登場し、
「やあ、ネリー!こんなところでどうしたんだい?HAHAHA!」
過剰な程に白い歯をキラリと光らせながら、わざとらしく言った。
あー……脚本を書いた私が言うのもアレだが、どうしたも何も、目の前に壊れた屋台があるのだからそれで困っているに決まっているし、友人なんだからここでリンゴを売っていることも知っていそうなものだが……それはスルーだ。
「え?ああ!こんにちはピエール。ねえ、ちょっと聞いてよ〜!最近、不景気と貴族の粛正の影響で治安がもの凄く悪くて困ってるの!」
そして、その声にネリーが顔を上げ、大袈裟なジェスチャー付きでそう答えた。
すると、
「えー!何だってー!」
これまた大袈裟にピエールが驚いて見せた。
まあ、これも普通に考えたら別にこの場所だけではなく国全体で治安が悪いのだから、ピエールも分かっていそうなものだが……。
こんな脚本ですまんな、二人共。
それから今度はネリーがプンプンと怒りながら、
「ねえ、見てよ!このお店もさっきゴロツキのみかじめ料を断ったら嫌がらせで壊されちゃったのよ!悔しい!」
腰に手を当ててそう言った。
「ワーオ!それは大変だね!」
ピエールが再びわざとらく大袈裟に驚く。
「そうなの!しかも私だけじゃなくて、街の人達皆んな同じような理由で困ってるの!ああ、これなんとかならないかしら?」
ネリーはそう言ってから、片手を頬に当てて考えるようやポーズを取った。
すると、ピエールがまたまたキラリと白い歯を光らせながら、
「なるほど……でも!大丈夫!そんな時は……レオニー様を動かして悪党を滅ぼせばいいんだよ!」
と、ドヤ顔で言った。
そう言えばアレってどうやって光らせてるのだろうか?
「ええ!?そうなの!?」
「そうさ!」
「でも〜、それ凄く難しそうだわ〜」
ネリーは驚いた後、今度は不安そうに言った。
すると、ピエールは自信満々でそれに答える。
「安心してよネリー!やり方はとっても簡単なんだ!」
「ええ!?本当に!?」
「ああ!本当さ!やり方は、その辺にいるレオニー様に一言、治安が悪くて街で暮らす殿下が困っています、と言うだけなんだ!ね、簡単でしょう?」
え?私?
と言うか、あんなセリフあったか?
「ワーオ!それは簡単でいいわね!私も早速試してみようかしら!」
あ、アレ!?
何か展開が少し違くない?
アドリブか?
だがまあ、私にはどうしようもないし、見守るとしよう。
そして、直後に暗転してピエールが消え、代わりにレオニーの等身大パネルが現れた。
それからネリーがそれに向かって話し掛けた。
「レオニー様〜ちょっと聞いて下さいよ〜、実は最近街の治安が悪くて殿下がお困りなんです〜」
すると、背後で誰かアテレコしている人間がいるらしく、
「え!?治安が悪くて殿下が……私のマクシミリアン様がお困りですって!?くっ、なんてこと!今すぐ原因を調査し、全てを殲滅しなさい!……ええい!私も出る!」
そう答えてから、パネルをコミカルに揺らしながら去って行った。
うーん、今のレオニー役の声は割と似ていたが……本物の彼女はこんなこと言わないだろう。
まあ、別にいいけど。
そして、その後街が炎に包まれている絵に変わり、
「こうして道端のセコい商人からマフィア、そして悪徳政治家まで悪片っ端から滅ぼされ、街は平和になりました。めでたしめでたし」
と言うナレーションが入って茶番が終わった。
いや、茶番と言っては失礼か。
この短時間で情報局員達が頑張ってくれたのだし。
まあ、最後の方はストーリーが少し……いや、大分変わっていたが、アレぐらいなら何とかなるからいいか。
因みに、今更だが何故こんな寸劇を入れたのかと言うと、ジャパ◯ット風のやり方だけだと二人共飽きるかと思い、少し趣向を変え今度はショップジャ◯ン風にしてみたのだ。
さあ、これが吉と出るか凶と出るか……。
さて、ここからは私の仕事だ。
「……さて、いかがでしたでしょうか。と言うことで三つ目の商品は『国内の悪党の撲滅』です!」
「「!?」」
「では、具体的なメリットをご説明致しましょう!」
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