第186話「休むシャケと逃げるツンデレラ」

「さあ、では気を取り直して三つ目の商品に参りましょう!」


 と、再び似非スマイルを顔に貼り付けた私は甲高い声でそう叫んだのだった……のだが。


「と、言いたいところなのですが、ここで暫時休憩とさせて頂きます。父上達も少しお疲れでしょう?」


 と、気遣う素振りを見せながら私は言った。


 勿論、本当は次の商品を紹介する準備の時間稼ぎの為なのだが。


「む?休憩?あ、ああ……そうだな、そうしよう。実はさっきから急に肩が重くなって、首筋になんか冷たいものが……」


 すると、父上が疲れた(憑かれた)ような顔で賛成した。


「…………………そうですか」


 うん、聞かなかったことにしよう。


「それが良いと思います。実は私も少し疲れたようで……あと私もホスト役をやると決めてから、何だか背筋がゾクゾクするのです……風邪かな?」


 続いて普段クールなイケメン宰相が、珍しく疲れた(憑かれた)顔で言った。


「そ、そう、ですか……お大事に」


 うん、きっと気の所為に違いない。


 でも一応、後で母上とスービーズ公爵夫人の墓参りをしておこう……。


 さて、では時間も無いし、次の準備を始めようか。


「父上、少し外の空気を吸って参ります」


「はぁはぁ、何だか息苦しい……ア、アメリー……僕が悪かったよ、でもこの国とあの子の為に必要なことなんだ……分かってくれ……ん?あ、そうか、分かった……」


 私がそう言うと、父上が苦しそうに答えた。


 ……色々と大丈夫なのか?


 まあ、いいか。


 私は苦しみの中でシックスセンスを目覚めさせた父上をスルーして部屋を出た。


 すると、そこには情報局員のピエール他数名が待機していた。


「待たせて悪いな、ピエール、皆んな」


「いいえ!勿体なきお言葉!」


「そうか……では悪いが、早速この後の打ち合わせを始めようか」


「「「はっ!」」」


 そして私は待機していた情報局達と三つの目の商品の紹介の仕方について、打ち合わせを始めたのだった。




 一方、シャケが王宮でテレビショッピングを繰り広げている頃、王都のとある裏路地では……。


「おーい!あのバイオレンス・ゴールデンドリルはいたかー?」


「いや、こっちにはいない!畜生!あの暴力縦ロール女め!どこに行きやがった!?」


 と、エリザを探すランスの官憲達の声が響いていた。


「やはり、もうこの辺りにはいないのか?」


「そうかもしれないな……仕方ない、他を探すぞ!」


「おう!」


 そして、彼らの足音が遠ざかったところで……。


「……ふぅ、なんとかやり過ごせましたわね。しかし、しつこい連中だこと!アタクシが一体何をしたと言うの?」


 追われている張本人が樽の影に隠れながら愚痴をこぼした。


 そう、実は現在、我らがツンデレラはランスの官憲と鬼ごっこを繰り広げている真っ最中なのである。


「それに何故か隠れても隠れても直ぐに見つかってしまうし……もう、何なのよ!」


 そして、彼女自身が言っているように、エリザは物影に隠れても割と直ぐに見つかってしまうので、あれから殆ど休む間もなく逃げ回っていた。


 因みに理由は、至って単純。


 隠れるたびに盛大に金色のドリルが遮蔽物からはみ出てしまうからだ。


 つまり、彼女は大勢に追われながら何度も物影に隠れるのだが、毎回外から丸わかりで、しかも残念なことに本人はそれに全く気付いていないのである。


 流石はドジっ子ツンデレラである。


「ああ、もう!本当に何なのですか!アタクシはあのお方を一目見たいだけですのに!あとついでにお食事もしたいですのに!キー!」


 そして、怒り狂いながら更にそう叫んだのだが、実はここで彼女は重大な事実に気が付いていない。


 なんと、彼女は逃亡中に憲兵や情報局員達を病院送りにした際、お金も紹介状もおっことしてしまったのだが、その事実に気がついていないのだ。


「それにしても不思議なのは、道とレストランの場所を適当な平民に聞こうとしただけですのに、何故あれだけ大勢の官憲が、しかもごく短時間で現れたのかということです……はっ!まさか!あの冴えないモブ男A(モブミリアン)は特別なお方だった?……いえ、そんな訳ありませんわよね。どう見てもどこにでもいる冴えないモブでしたし。ああ、それよりもお腹が空きましたわ……これからどうしましょう……」


 と、エリザが惜しいところで正解を逃し、可愛くお腹を鳴らした、その時。


「おい!居たぞ!樽の影からドリルが見えてる!」


「おお!本当だ!バイオレンス・ドリルだ!」


 彼女のトレードマークを発見した憲兵達が叫んだ。


「だ、誰がバイオレンス・ドリルですの!?無礼な!今すぐここで成敗してやりますわ!ムッキー!」


 それを聞いた彼女は激怒し、樽の影から飛び出して憲兵達に襲い掛かった。


「て、抵抗するなら容赦は……ぐわっ!」


「と、止まれ!……ヴォエ!」




 ツンデレラの逃走はまだまだ続く。




※誠に勝手ではございますが、明日7月4日(日)の更新はお休みさせて頂きますm(_ _)m

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