第185話「テレビショッピング:RE⑥」

 私は似非スマイルのまま自信を持って即答した。


「ズバリ、『接待』です!」


 と。


「「!?」」


 これには流石の二人も驚いている。


 まあ、当然だ。


 普通、いきなり接待なんて単語を出されたら驚くのが当たり前だし。


「具体的に言えば、ストリアとの関係の強化です」


「そ、それは一体?」


「どういうことなのですか?」


 さあ、後半も張り切って行こう!


「はい、まずこの件の最大の特徴はストリア軍と共同で侵攻するという点ですよね?つまり、今回の遠征を成功させれば、この共同作戦を通じてストリアとの絆を深めることが出来るのです!」


「まあ、そうだな」


「はい、仰る通りです」


 と、ここまでは割と当たり前の内容なので二人も普通に頷いているが、しかし!


 大事なのはここからである。


「しかも!しかもですよ!?今回の遠征には総大将としてオットー皇子が、更に彼の初陣を見届ける為に付き添いとして母親の皇太子妃と祖母の皇妃という、ストリアの皇族が三人も同行してくるのです!この機を逃す手はありません!」


 と、私は力説したのだが、


「ま、まあ確かに……」


「友好を深めるチャンスではありますが、そこまで重要なのですか?」


 残念ながら、二人はまだこの重要性とチャンスに気付いていない。


「はい、一連の騒動の中でも特に重要なことです!いいですか?昔から現在、そしてこれからもストリアとの同盟は、我が国の安全保障にとって最重要なのはお分かりですよね!?ではもし、これが破綻すればどうなるのか?現在、既に行動を起こしている我が国は窮地に立たされるでしょう。ですから、この同盟は何が何でも守らねばなりません」


「当然だな」


「確かに……あ、ですが殿下、先程ご自身がマリー殿下という担保があると……」


「はい、マリーという存在が担保になっているのは本当です。しかし、考えてもみて下さい。もし、今回の遠征で我々ランス側に落ち度があり、ストリア皇族達の不興を買ってしまったとしたら?更にそれが皇帝の耳に入ったとしたらどうでしょうか?あのストリア皇帝のことですから、これ幸いとマリーを強引に連れ去った上、同盟を破棄なんてことになりかねませんよ?(適当)」


 取り敢えず二人の危機感を煽ってみたが……。


「「あっ!?」」


 よし!二人共、青い顔になったな。


 うん、もっと押してみようか。


「どうです?ことの重大さがお分かりになりましたか?我々は一歩間違えれば大変なことになってしまうのです。つまり、今回のコモナ遠征はいわば諸刃の剣!順調にいけば我が国は盤石、逆にしくじれば死あるのみ!(多分)」


「ど、どうしよう……」


「これは困りましたね……」


 よし、更に二人の危機感を煽れた。


 このままの勢いでやるぞ!


「ですから!その為には『接待』あるのみ!」


「「な、なるほど!」」


「ランスが生き残る為には遠征に同行してくるストリア皇族達に『接待攻勢』をするしかありません!何が何でも、数日後にここへ到着するストリアの皇族達を完璧にもてなし、満足させるのです!あと、ついでにストリアの軍の兵士達にも美味い酒と料理等を提供しましょう。彼らが国に帰ってから我が国は良い所だったと宣伝してくれるように。あとは……戦利品である金の半分をストリアに譲れば完璧ですね」


「「!?」」


 と、ここで納得しかけていた二人が、私が言った金の半分を渡すというセリフに動揺した。


「ええ!?たった三千の援軍で、しかも戦闘は無いか、あってもほぼ我が国が担当するというのに!?」


「殿下、それは流石にやり過ぎなのでは?」


 そして、私の大胆な提案に二人は反論を口にした。


 しかし、当然これも予想通り。


「いいえ!ここは気前良く行くべきです!寧ろ、そんな端金は全て渡してもいいぐらいです!」


「「端金!?」」


「お二人共、良く考えてみて下さい。初陣を飾ったオットー皇子が勝利と莫大な金を持ち帰る……そして、その孫の姿を見た皇帝は大いに満足することでしょう!それを考えればその程度の金など安い物です!更にコモナの領土とカジノの利権は我が国のものになるのですから、金など今後いくらでも稼ぐことができますよ。つまり、目先の事だけを見てはダメなのです!」


「「!?……た、確かに……」」


 よしよし、納得したな。


 だが……次が問題なんだよなぁ。


 宰相閣下は兎も角、父上がヘソを曲げないか心配だ。


 だが……ええい!ままよ!


「さて、ではご納得頂けたところで肝心の接待についてなのですが……具体的な内容はさておき、その前にホスト役を決める必要があります。まず、オットー皇子はマリーに任せましょう。彼はマリーによく懐いているとのことですからね。問題はそれよりも……」


 と、私が言い掛けたところで、


「マリーに男だと!?許さんぞ!折角婚姻が無くなったというのに!」


 父上が発狂した。


 おいおい……。


 と、私が思ったところで、これまた宰相閣下が父上を黙られる。


「黙れ髭……コホン、それより問題は殿下の仰る通り、皇太子妃と皇妃のお二人の担当ですが……人選が難しいですね」


 そして、冷静に言った。


 まあ、実は私の中で人選は決まっているのだが。


「そうなのです。因みに条件としては、情報によると二人とも爽やかなイケメンが大好物だそうなのですが……しかし、当然ですが顔が良いというだけではいけませんし、家柄や礼儀作法や教養……そして何よりウィットに富んだ会話で相手を楽しませることが出来なければなりません」


 私はしかつめらしい顔でそう言った。


 すると、二人も難しい顔になり、


「そんな都合の良い人間……」


「そう簡単には……」


 とそれぞれ呟いた。


 その瞬間。


「と、思うでしょう!?ですがご安心下さい!我が社がきちんとサポート致します!実は既に適切な人物を見つけてあるのです!」


 私はいきなりハイテンションになり、甲高い声でそう叫んだ。


 そう、生け贄は既に決めているのだ。


「おお!流石、我が息子!」


「ありがとうございます殿下、それで……それは誰なのですか?」


 私のセリフを聞いた二人は歓喜し、早速それは誰かと尋ねてきた。


 当然、私はそれに答えなければならないのだが……ああ、これには少し良心が痛むな、両親だけに。


 だが、これも私が生き残る為!


 そして、この国の為(多分)!


 彼らには犠牲になって貰おうか。


「誰と言われましても……私の目の前にいらっしゃいますが?」


 私は笑顔でそう言った。


「「………………え?」」


 それを聞いた目の前の二人がフリーズした。


「スービーズ公、お願いします」


 しかし、私はそれに構わず笑顔のまま無慈悲にそう告げた。


「え?わ、私……でございますか!?」


 すると、普段冷静、冷徹、冷酷な宰相閣下が珍しく盛大に取り乱した。


「はい!容姿、家柄、コミュ力等全ての条件を満たせるのは貴方を含めて二人しかおりませんので」


 そして、私はしれっとそう答えた。


 スービーズ公、ごめん!(๑>◡<๑)っ


 だが、そこは大国の宰相、直ぐに冷静さを取り戻し、


「ま、まあ……確かに、ストリアの皇族のホスト役ともなれば、私が駆り出されるのは分からないではないのですが……それは兎も角、殿下は先程二人とおっしゃいましたね?あの……もう一人は一体?」


 そう聞いてきた。


 凄い、大人だ。


 私はそんな彼に感心しつつ、


「やはり気になりますよね!?さて!ではここでまたまたまた父上に問題です!」


 テンション高く答えた後、突然父上に向かってクイズを出した。


「えー、なんでここでワシに!?」


 そして、驚く父上をスルーして私は続ける。


「はい、では問題です!この接待におけるもう一人の適任者とは誰でしょうか?……それでは行きましょう!ランス、不思議発見!」


「え?ええ……う、うーん……イケメン、家柄、教養、そして高いトーク力………………はっ!分かったぞ!自信があるし、ここはスーパーヒ◯シ君だ!」


「おお!流石父上、では答えは?」


 スーパー◯トシ君?


 そして、父上は自信満々に答える。


「それは……我が息子、マクシミリアン、お前だ!」


 ドヤー!という顔をしながら。


 だが、しかし。


「……父上、残念!」


 答えはハズレだ。


「えー!?違うの?」


 父上、なんか悔しそう。


 とか、私が思っていると、


「……違うに決まっているだろう。殿下は現在幽閉中の設定なのだから、堂々と表舞台に立てる訳がなかろうが!」


 既に恒例となっている宰相の鋭いツッコミが飛んできた。


「ズズズーン(◞‸◟)」


 そして、いつも通り撃沈。


 だが、父上には申し訳ないが今回はここで終わりではない。


 寧ろ、今からが本番!


「では不正解だった父上は……その似合わない髭をボッシュートです!」


 そして、私は突然そう告げた。


「「ええ!?」」


 これには父上だけでなく、宰相閣下まで仰天した。


 さて、父上には悪いが強制執行だ。


「みんな、入ってくれ!」


 そして、私は部屋の外へ向かって叫んだ。


「「「はっ!」」」


 するとドアが開き、大量のメイドさんが入室してきた。


 メイド軍団参上。


「「!?!?」」


 これを見た二人は混乱しているな。


 よし、さっさと終わらせよう。


「メイド諸君、父上を『本来の姿』にして差し上げろ!」


「「「ははっ!」」」


 私が鋭く命じると、メイド軍団が勇ましく返事をして父上を取り囲んだ。


「え、ええ!?ちょ、ちょっとま……」


「では陛下、失礼致します」


 そして、メイド長が無慈悲にそういった後、問答無用で作業が始まったのだった。


「や、やめろ!く、来るな!あ、ああああああああああ!」


 十分後。


 完璧な仕事をしたメイド軍が去って行った直後。


「うう、みんな寄ってたかってワシをいじめて……酷すぎる……シクシク(;ω;)」


 そこでは一人のイケメンが泣いていた。


 見た目は三十代ぐらい……いや、二十代後半といっても通用しそうな感じで、サラサラの金髪に透き通るような青い瞳の整った顔立ちをした青年?だ。


 その姿は私に似ているが、少し歳をとったような感じだ。


 いや、親子なのだから私が似ている、というが正解なのだろうか?


 まあ、この際そんなことはどうでもいい。


 それにしても……。


「久しぶりに父上のこの姿(父上イケメンver)を見たが……うーん、やはり超絶イケメンだな」


 私が劇的なビフォーアフターを決めた、いやトランスフォームした父上(イケメンver)を見ながら呟いた。


「はい、仰る通りでございます」


 すると、横で宰相閣下がそれに同意した。


 そう、今更だが実は父上は超絶イケメンなのだ。


 では何故、今まで超絶似合わない口髭を生やしたり、無駄に髪を肩まで掛かるぐらいに伸ばしたり、ゴテゴテした趣味の悪い装飾品を付けていたかというと……理由はなんと母上だったりする。


 何でも父上は母上と結婚してからも、その美貌と誰にでも優しい温厚な性格のお陰でモテまくり、それを見た母上が激怒&嫉妬して、わざとダサいテンプレ王様ルックにさせた上、一人称もワシにさせてしまったのだ。


 うーん、今思えば母上って結構ヤバい人だったりするのかなぁ。


 女性の嫉妬って怖い……。


 まあ、私の知り合いの女性は温厚で常識がある淑女ばかりだし、大丈夫……大丈夫だよね!?


 と、私がそんなことを考えていると、


「……なあ息子と友よ、最近ワシの扱いが酷くない?」


 父上が涙目で問うてきた。


 え?そんなの気の所為ですよ、多分。

 

「そんなことはないですよ?あ!父上、見た目に合わないのでその『ワシ』という一人称も禁止です」


 私はすっとぼけてそう言ったあと、父上に更に注文をつけた。


「ふぁ!?」


「大丈夫ですよ父上、それを強要した母上はもう心の中にしかいないのですから」


「……ま、まあ、それはそうなのだが……」


 と、父上が私の言葉に答えた、その時。


 パリン!


「「「!?」」」


 部屋に置いてあった花瓶がひとりでに倒れて割れ、私達三人は凍り付いた。


 まさか母上!?


 いや、偶然……だよな?


 ま、まあいいや。


 話を進めよう!


「……さ、さて!話を戻しましょうか。えー、まずクイズの答えですが……もうおわかりですよね?接待役は宰相閣下と父上です」


「え?」


 だが、父上はポカンとしていた。


 え?この展開で気付いてなかったの?


「……でしょうね」


 逆に宰相は諦めたように言った。


 そう、これぞ私が考えた完璧なキャスティング。


 まあ、折角そこにあるのだから使わないと損だし。


 さて、一応言い訳をしておくか。


「本当は私がやるべきなのは分かっています。しかし、残念ながら現在私は公の場に出ることが出来ません。ですので大変遺憾ではありますが、お二人にお願いするしかないのです。非常に重要で大変で負担の大きいお役目ですが、どうか宜しくお願い致します」


 私は申し訳なさそうにそう言って頭を下げた。


 すると、二人は快く私の言葉を受け入れ……。


「「ええー……」」


 ……てないな。


 なんかメチャクチャ嫌そうな顔をしているぞ。


 仕方ない、脅迫するか。


「これもランス安寧の為ですので、どうか宜しくお願い致します。ああ、もしどうして嫌だ、ということでしたら代わって差し上げてもいいですよ?ですがその場合、私には他にやることが山程ありますので、それを代わって頂きますが?」


 そして、私がそう問うと。


「「……やります」」


 あっさりと、落ちた。


 ふー、良かった、何とかなったな。


「そうですかそうですか!ありがとうございます!では決まりですね!」


 よし、二つ目の商品の押し売りに成功!……じゃなかった、二つ目も無事に売れたな。


「「……」」


 なんか目の前の二人はめっちゃテンション低いが……まあ、いいや!


 気にせず次だ、次!


「さあ、では気を取り直して三つ目の商品に参りましょう!」


 そして、再び似非スマイルを顔に貼り付けた私は甲高い声でそう叫んだのだった。

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