第183話「テレビショッピング:RE④」
「ご安心下さい!勿論考えておりますとも!」
私は最高の営業スマイルを浮かべながら、深刻そうな顔の宰相に告げた。
さあ、後半戦の始まりだ!
「さて宰相閣下、諸外国との関係や動向がご心配とのことでしたが……」
「ええ」
そして、私の言葉に宰相が頷いたところで、
「それが何だと言うのです?」
私はサラリと、とんでもないセリフをぶちかました。
「な、なんですと!?」
すると、宰相の深刻そうな顔は即座に驚愕へと変わった。
よしよし、後半戦も掴みは完璧だな。
私はそんな二人の方を見て、わざとらしく二人が何故そんな反応をするのか分からないという顔をしながら、宰相閣下のセリフに答える。
「閣下、何をそんなに恐れておられるのですか?言うまでもありませんが、我がランスはこのイヨロピア大陸でストリア帝国と並ぶ大国なのですよ?今更多少の苦情がなんだと言うのです?」
「え、いや、しかし流石にそれは……」
「そ、そうだぞ息子よ!それでは我々が保って来た平和が……」
すると、宰相閣下に加えてやっと復活した父上の二人が納得出来ない、と反論して来たが……。
勿論、そんなことは予想済みだとも!
私は不敵な笑みを浮かべながら告げる。
「ではお聞きしますが、万が一我が国が国際的に孤立したり、連合した諸外国と戦争になったとして……何が困るのです?」
ただ事実を。
「「!?」」
「我が国が本気で戦って勝てぬ国などそうはありませんし、更に言えばストリアという最強の同盟国がいるではありませんか。しかもその同盟はマリーという存在で担保されおりますから、磐石ですし」
「確かにそれはそうですが、折角の平和が……」
「だが、やはり戦争は……」
まだ難色を示す二人。
しかし、彼らがそう思うだけの理由があることを私は知っている。
それはこの二人が疫病で国力が弱った時期から必死で宥和政策を進め、戦争を避けながら国を守って来たということだ。
だから、これは当然の反応ではある。
そして、更に言えば二人が取った政策は正解の一つだったのだとも思う。
何故なら、現にこうして我がランス王国は平和を保ちつつ、大国として存在し続けているのだから。
しかし、いつまでもそのままで良い訳ではない。
確かにその政策は十分に成果を上げ、国力はある程度回復した……しかし、そろそろ次の方針を考える時期が来ているのだ。
一定の成功を収めたからと言って、いつまでもそれにしがみついていてはいけない。
世の中は常に変化し続けているのだから。
それに加え、二人が宥和政策に固執する理由は、単純に国力の回復だけではなく、当時余りに多くの人の死や悲しみをその目で見てきたということもある。
ましてやこの二人は……。
うーん……それを考えると正直、余り気が進まない。
しかし、私の命が掛かっているのだ!
二人には申し訳ないが辛い過去と向き合って貰うとしよう。
「えー……ここでお二人には少々厳しいことを申し上げますので、先に謝っておきます。どうかご無礼をお許し下さい。さて、では話の続きですが、あの疫病で母上やスービーズ公爵夫人の他、多くの人々を失ってからお二人は弱気になりました。それもあって平和と宥和を重視した消極的な外交政策を取り、極力戦争を避けて来た。そして、その結果ある程度の成功を収めましたが、その代償として……我がランスは他国に舐められ気味ですよね?」
「「っ!?」」
「その方針が失敗だったとは言いませんし、現実的な選択肢だったとも思います。しかし、時間が経ち状況は変わりました。いつまでも過去に囚われていてはいけません!辛い過去から、悪夢から目を覚ますのは今なんです!」
そして、力強く私がそういうと、
「……む、た、確かに妻を失って以来弱気だったかもしれない……やはり、息子の言う通りにすべきなのか?」
「……恥ずかしい話だが、殿下の言われた通り、必要以上に争いを避けて来たのは事実だ……変わるべきは今か?」
二人は苦しそうに言った。
よし、あと少し!
「そして、今そのチャンスが目の前にあるのです!そんな我が国の失われた威光を取り戻すことが出来るのです!今回の遠征で『悪党は絶対に許さない!』という我が国の強い意志を見せることにより、諸外国にそれを知らしめることができます!我が国で狼藉を働いたのが、たとえ他国の王子であったとしても容赦はしない、今後舐めたことをしたらその代償は高く付くとのだと!」
「「それは最もなのだが(ですが)……」」
と、ギリギリまだ二人は粘っているが……。
さあ、トドメだ!
「確かにいきなりそう言われたら困惑してしまう気持ちは分かります。しかも自分で対応しなければならない、となれば余計に心配になるのは当たり前ですよね?……しかし!」
「「っ!?」」
「ご安心下さい!なんと今回は特別に面倒な隣国の外交官を追い払うアフターサービスを無料でお付け致します!優秀な当社のスタッフがご自宅まで直接お伺いし……いえ、私が外務省に直接出向き、責任を持って連中を追い払います!」
勿論、本当は自信などまるで無いが、今はこの場をやり過ごすことが先決だから仕方ないのだ。
「「!!??」」
うん、父上達の反応もいい感じだ。
「コホン……失礼。兎に角、私が責任を持って全て対応致しますので、その点はご安心を!」
そして、私は自信に満ち溢れた顔を作りながら言った。
すると二人は、
「なんと頼もしい!」
「息子よ!立派になったな!父は嬉しいぞ!」
完全に落ちた。
あと、褒められると照れるな。
「さ、さて!ご納得頂けたようですので、一度ポイントのおさらいをしましょうか」
それから私は照れを誤魔化すようにテンション高くそう言った。
「「おさらい?」」
二人は困惑するが、私は無視して話を続ける。
「では、今回ご紹介した商品No.1『バイエルライン侵攻』のメリットはまず、戦争に伴う大量の消費によって、小麦農家を始め、商人、職人など多く民に仕事と金を行き渡らせ経済を回すことが出来、また戦後に余った小麦を高値で買わすことで外貨を獲得出来る点です」
「「ふむふむ」」
「次に、治安。先日の粛正の影響で仕事に溢れた浪人達を大量に雇用し、一気に治安を改善させます。また、それにより金も回ります。しかも、その資金は先日取り潰した貴族連中から没収したものがあるので、実質無料で遠征が出来ます!更に賠償金を得られる可能性も高いので、それどころか大幅な黒字になること間違いなしです!」
「「おおー!」」
やはり無料という響きは強いな。
「更に今回の遠征によってランスの力を諸外国に見せ付け、他国を戦わずして屈服されられます!そして、鬱陶しい他国の外交官達を当社が責任を持って追い払うアフターサービス付き!さあ、これだけのメリットがあるこの商品、如何でしたでしょうか!?」
と、おさらいを終えて私が二人に問うと、
「是非欲しい!」
「直ぐに欲しい!」
ちょっと引くぐらいに食い付いてきた。
よし、貰った!
だが、まだだ!
「ですが、お待ち下さい!」
「「!?」」
「もう一つあります!今なら特別に、特別にですよ!?私が自ら現地へ赴き、責任を持って全て上手く纏めてご覧にいれます!」
と、ダメ押しの一撃を叩き込んだのだが。
「な、お前が自ら現地へ!?色んな意味で危なくない!?」
「殿下自ら出向くですと!?捕食されますよ!?」
なんか反応が思ったのと違うぞ。
……捕食?
言い間違えか?
……ああ!多分私が敵に捕まる心配のことだろうが、最前線に出る訳ではないから大丈夫だろう。
「勿論そのようなことが起こらないように万全の体制で臨みますから大丈夫ですし、それに多少の危険は承知の上です!兎に角、私が責任を持ってことに当たりますから、安心してこの商品をお使い頂けます!」
「息子の身が心配だ……」
「殿下の貞操が危険だ……」
むう、なんかここに来て心配されまくりだな。
意外と二人は過保護なのだろうか?
まあ、今はそれよりも……。
「さて、ではいよいよ気になるお値段の発表です!」
「で、でもこれだけのメリットがあると言うことは……」
「お高いんでしょう?」
私がそう言うと二人が不安そうにこちらを見たが、私はそれに笑顔で答える。
「……と、思われるでしょう?でも、でもですよ!?ここは日頃の感謝を込めまして、当社がお客様の為に限界まで頑張らさせて頂きました!では、気になるお値段ですが……」
「「……ゴクリ」」
「お二人のデスマーチと第一王子(私)の自由……」
「「た、高い……」」
「……のところ、今回はこの番組をご覧の皆様だけの特別価格、ズバリ!私の『命の保証』と『全権の委任』でのご提供です!」
そして、私は高らかに値段を叫んだ。
さあ!どうだ!?
「え?ええ?そ、それはまさか!」
「つまり!?」
「私に本件に対する全権をお与え頂き、加えてお二人が私のやり方に一切口を出さないというお約束を頂けるのならば、全て上手く片付けてご覧にいれます。そして!」
「「そして!?」」
「今なら便利な分割払いもご利用頂けますし、金利、手数料も全て当社が負担致します!ただし、これは今回だけの特別価格で、数量も限定となっております。是非、お早めにお電話下さいませ!」
「「う、うおおおお!買った!……当社?分割?電話?」」
あ、テンション上がり過ぎてやり過ぎた……。
「さ、さて、ご納得頂けたようですので、次の商品に参りましょうか!」
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