第152話「番外編 シークレットエンド」
略。
「では、私が助けを求めるべき相手は……」
【選択肢を選んで出荷先を決めて下さい】
①クリア済み
②クリア済み
③クリア済み
④クリア済み
⑤クリア済み
⑥ 仕方がない、不本意だが弟のフィリップに助けを求めてみるか
うーん、何故だかどれを選んでも確実にバッドエンドになる気がしてならいんだよなぁ。
くっ、業腹だが、ここはあのいけすかないモテモテイケメン第二王子こと、弟のフィリップにダメ元で縋ってみるか……。
ということでここは、誠に遺憾で不本意ながら⑥を選択だ。
僕、もうゴールしてもいいよね……。
「仕方がない、不本意だが弟のフィリップに助けを求めてみるか」
私はため息と共にそう呟いた。
はぁ、アイツは間違いなく私を小馬鹿にしながら、理不尽な見返りを求めてくるに違いないが……。
しかし、命と引き換えならば仕方がない訳で、今は耐えるしかないんだよなぁ。
ああ、無能って辛い……。
さて、では早速フィリップを探しに行こうか。
……。
…………。
………………。
約十五分後。
私はフィリップの私室の前まで来ていた。
実はさっき、偶然近くにいたジャージー牛みたいなメイドに聞いてみたら、
「フィリップ様ならぁ、先程お部屋に戻られたようですよぉ」
と、眠そうな目をしながら教えてくれたのだ。
嫌だなぁ、近頃のアイツは特に態度が悪くて、本当に苦手なんだよ。
一体、私が何をしたというのだ!
と、叫びたいところだが……。
兎に角、仕方がないのだ。
生きる為には覚悟を決めて、土下座でも、靴にキスでも、何でもするしかないのだから。
さあ、行こうか。
私はドアをノックし、
「フィリップ、私だ、マクシミリアンだ。少し話があるのだが?」
緊張で若干、上擦った声で言った。
ああ、緊張する。
すると、少し間があってから、
「え!?本当にマクシミリアン兄上ですか?わざわざ訪ねて来てくれるなんて嬉し……じゃなかった、コホン、少しお待ちを」
イケメン特有?の爽やかな声で返事があった。
ん?一瞬だけ嬉しそうな感じに聞こえた気がするが……気の所為だろう。
それから直ぐにドアが開き、フィリップは私を部屋へと招き入れた。
そして、上等な革製のソファに私を誘い、お互い腰を落ち着けたところで、まずはフィリップが口を開いた。
「それで兄上、お話があるとのことでしたが?まあ、想像はつきますがね、クク」
予想通り見下したような顔で、嫌味たっぷりに。
くっ、このイケメン野郎……。
だが、ここは我慢だ、我慢。
「ああ、多分その予想はあっている……先程の婚約破棄の件だ」
「でしょうね」
私が屈辱に耐えながら何とかそういうと、返ってきたのは冷たいその一言。
ぐぬぬ……。
「ああ、そうだ」
「それで私に何をしろと?アネット嬢との婚姻を認めるように、父上に口添えをして欲しいのですか?それとも怖くなってやっぱりセシル嬢との婚姻を果たすことにしたから、それを父上にとりなせと?はたまた全てを捨てて逃走するから手伝えとか?フッ……」
続いて優秀なフィリップは、即座にそう言ってきた。
相変わらず私を小馬鹿にしたような顔で。
ああ、どうしよう。
本気でこいつ殴りたい……。
だが、それでも私は何とかそれを我慢し、情けない心中を打ち明けた。
「いや……それが、正直分からないんだ。どれを選んでいいか、何をしたらいいか、全く……」
「ふっ、呆れましたよ兄上。情けない。現皇太子にして、かつて神童と呼ばれた貴方がこんな無様な姿を晒すことになるとは……」
すると、当然のように厳く、咎めるような視線がこちらに向いた。
「全てはお前の言う通りだ……だが!」
と、そこまで言ってから、私は恥も外聞もなく両手でフィリップの手を掴み、縋った。
「え?」
当のフィリップはいきなりのことに、珍しく動揺してクールなイケメンフェイスを崩し、目を見開いた。
私はそれに構わず両手を掴んだまま、上目遣いにフィリップを見つめた。
「え?ええ!?兄上!?」
当然、弟は戸惑っているが、今はそんなことは関係ない。
「頼む、助けてくれフィリップ!私にはもうお前しかいないんだ!」
「ふぇ!?」
そう、私は決めたのだ。
恥もプライドも捨てて、情けなく兄弟の情に縋ろうと!
「何でもするから!あるものは全部お前にやるから!頼むよ!」
「はわわ……手、兄さんが僕の手を……握ってくれてる……」
あ、嫌がってる?ここは一旦離すか……。
「あ!すまないフィリップ。今離すから……」
と、そこまで捲し立てた時、フィリップが嫌がっていることに気付いた私が手を離そうとすると、
「ダメ!このままが……いいです……」
「え?」
フィリップがよくわからない事を言った。
え?このままがいい?
何故?
とか思っていると、
「ねえ、兄さん……」
フィリップが心なしか、ほんのりと顔を赤らめながら私を呼んだ。
その姿はまるで……少女のようだ。
まあ、元々中性的な顔立ちのイケメンだから、そう見えてもおかしくはないのか?
「ん?なんだ?」
「今、兄さんは、もし私が兄さんを助けてあげたら何でもする、何でもくれるって、そう言ったよね?それは本当?」
「ああ、勿論だとも」
「本当に……本当?」
フィリップは私が言った条件を、何故か潤んだ目でこちらを見ながら確認してきた。
「え?ああ、絶対だ。約束するよ」
「……わかった。だったら私……兄さんを助けてあげる」
「ほ、本当か!?」
「うん、でもその前に……知っておいて欲しいことがあるんだ」
「知っておいて欲しいこと?」
「うん……」
すると、フィリップは頷いてから、何故か上着のボタンを上から順番に外し始めた。
何かを恥じらう乙女のように。
「ふぁ!?え?ちょ!おまっ!」
え!?何?何?何なんですかー!?
目の前でいきなりストリップを始めた弟の姿に、当然私は大パニックだ。
そして、慌てる私を他所にフィリップは上着を脱ぎ捨てると、今度はそれに続いてシャツのボタンにも手を掛けた。
「!?」
え?ええ!?フィリップって、まさかそっちの趣味が!?
いや、流石にそんなアーッ!な展開はちょっと……お兄ちゃんにはレベル高過ぎだって!
くっ、仕方がない……ここは貞操と尊厳を守る為、早くここから逃げ出さなければ!
でもここを逃げたら命が………………いや、もういいか。
どうせ何をしてもバッドエンドな気がするし、もう疲れた。
諦めて大人しく父上に首を差し出し、潔く最期を迎えよう……。
と、ソール◯ェムが真っ黒に染まり、私が全てを諦め掛けたところで、
「に、兄さん……約束、守ってね?代わりに僕の秘密も見せるから……」
フィリップは真っ赤な顔でそう言うと、ゆっくりとシャツの前を開いた。
「うう……」
当然、そこには男らしい引き締まった上半身が……なかった。
「え?フィリップ……お前、それ……」
そこにはあったのは、胸に晒しを巻き、腰のあたりに詰め物をしてシルエットを誤魔化した、女性の上半身だった。
「うん、これが僕の秘密。僕、本当は女なんです……」
と、フィリップはいつものクールなイケメンボイスではなく、少女のような可愛らしい声で言った。
しかもボクっ娘!?
「え?そんな……」
でも、確かにフィリップの裸って見たことなかったし、でも、え?ええ!?
「えーと、どこから話そうかな……まずは……実は僕たち、兄妹じゃないんだ」
そして、更に爆弾投下。
「え?!兄弟じゃない?」
『兄弟』じゃなくて『兄妹』だ、という意味ではなくて、血の繋がりが無いってことか?
「あのね?リアン兄さんって、本当は一人っ子なんだよ?」
「!?」
「実は母上……王妃アメリー様は兄さんを産んだ後、子供を産めない身体になってしまったんだ。でも、当然後継が一人だけじゃ何かあったら困る訳で……そこで親戚の中から顔が似ている子供を密かに弟、つまり第二王子にしようとしたんだ。だけど、そのタイミングで似ている男の子が誰もいなくて、仕方なく僕が選ばれたという訳なの」
「そんな……」
「だから僕は……兄さんの弟でも、王族でもないんだ……遠縁ではあるらしいけど……」
と、少し寂しそうな顔で少女は言った。
「……」
「あ、名前も本当はフィリップじゃなくて、フィルって言うんだ」
「フィル……」
「でね、リアン兄さん」
「ん?」
「話は戻るんだけど……僕、どんな事をしても兄さんを助けるから……お願い、僕のものになって下さい!」
「え?お前のものに……なる?」
「うん、僕……ずっと……ずっとずっと兄さんが好きだったんだ!」
「フィル!?……え?でも、最近はずっと私に冷たかったような……」
「それは……えっと、ごめんなさい、僕の嫉妬です」
フィリップ改めてフィルは、ペコリと頭を下げた。
「嫉妬?」
「うん、僕はこんなに兄さんのことが好きなのに絶対にこの想いが届く事はない……なのにセシルちゃんやマリーちゃんは好きなだけ兄さんに甘えることが出来た……逆にその所為で僕は兄さんと過ごす時間を奪われてしまったのに。しかも、セシルちゃんは兄さんと婚約までして!僕はそれが許せなかったし、悔しかったし、悲しかったんだ……だから、僕はいつもセシルちゃんの事を恨みがましく見ていたし、兄さんに意地悪してたんだ……本当にごめんなさい」
フィルは肩を震わせ、目に涙を溜めながらそう告白した。
なるほど、セシルを見ていたのは好きだからなのではなくて、嫉妬だったのか。
ああ、私は本物のバカだ。
「そうか、色々気付いてやれなくて本当にすまなかった……フィル」
そして、今度は私が頭を下げた。
「いや、兄さんの所為じゃないよ!」
「いや、諸々のことに気付けなかった私が全部悪いよ。全く、本当に私の目は節穴だ……なんと言っても、大事な弟がこんなに可愛い妹だったことを見抜けなかったのだからね」
「え!?か、可愛いだなんて!もう、兄さん、恥ずかしいよ……」
フィル、可愛いな。
「コホン!そ、それで話を戻すけど……さっきの約束通り、僕はリアン兄さんを父上やシロクマや小悪魔から絶対に守ってみせるよ!だから……」
「だから?」
ん?シロクマ?小悪魔?
「僕と契約して、旦那様になってよ!」
え?どこのインキュベーダー?
まあ、それは兎も角、フィルはずっとこんなダメ人間のことを想ってくれていた訳だし、ここはその想いに応えてやるべきではなかろうか。
私は覚悟を決めて答えた。
「……わかった。結婚しよう、フィル」
その後、フィリップ……いや、フィルは本当に私がしでかした諸々を上手く処理してくれた。
そして、私とフィルは全ての秘密を公表した上で、めでたく結婚することになった……のだが。
直後、それに納得出来ないセシルとマリーとアネットが反乱を起こしてトゥリアーノン宮殿を包囲し、あわやランス史上最大の攻城戦が勃発する直前までいった。
しかし、セシルとマリーとフィルの三人を正妻に、加えてアネットを側室にするという条件で和解し、流血は回避された。
何故か諸々の混乱の責任を取らされて父上と宰相が隠居させられたが。
そして、私はと言えば恐ろしい新妻達によって、強引に国王マクシミリアン二世にされてしまったのだった。
シークレットエンド『TS!シャケブラザー!』
猛獣図鑑 付録
フィリップ(学術名ヤヴァイ=ブラコーン)
この生物は、イヨロピア大陸中部にあるトゥリアーノン池付近に生息する肉食獣である。特徴は、その池に住むリアン鮭の世話が大好きな点だが、少しでも鮭が自分から遠ざかると嫉妬に狂い、関係ない生物を捕食し始める。
ただし、前述の猛獣達と比べればこの程度可愛いものである。
なお、現在フィリップは、他の生物を食い散らかしたことや、リアン鮭に対して自らの命すら厭わないほど狂信的な為、危険と判断されて遠方の動物園に移されることが決まっている。
キャラクター紹介
フィリップ=ルボン 十七歳 元プレイボーイ、ロリコン、売国奴、現シャケ教の教皇にして狂信者で、シャケの為なら喜んで殉教する程度のヤバさを持っている
本編ではラスボスとして登場したこのフィリップですが、実は割と本気で男装ヒロインにしようかと思っていました。
ですが、最初にアネットその他の女性達と関係を持ってしまった、という設定を入れてしまい、整合性が取れなくなってしまったので断念しました。
因みにその設定の場合は、フィリップ(フィル)はシャケのことが大好きなのに何も出来ないばかりか、シロクマと小悪魔が好き放題した結果、大切なシャケとの時間を奪われてしまい、それが原因で闇堕ちします。そして悪事を重ねますが、最後はシャケのキスによって目を覚まして妻の一人になる、という予定でした。
つまり、今回のルートはその簡易版ifルートという感じですね。
ですが、残念?ながら、本編では男のままですので、彼には今後新大陸での開拓に勤しんでもらう予定です。
あ、因みにフィルは、着痩せする設定で、セシロクマ以上姉ット以下のプロポーションです!
あと、ご報告があります。お待たせしました!漸く構想が纏まり、準備が出来ましたので次回から第二部を始めさせて頂きますので、よろしくお願い致します。
さて、バッドエンド集も今回で終わりですし、折角ですからフィリップ女体化バージョン(フィル)にはたっぷりとファンサービスを……ん?あれ?おい、TSしてないしゃないか!って来るな!来るなぁ!……アーッ!
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