第150話「番外編 バッドエンド集④」
『次の土曜の夜、君を未来に送り返してやる!』
レオニーに半殺しにされたシャケが、暫くのちにその生涯を終えた瞬間、謎のセリフが彼の魂に聞こえた。
そして、何故かデ◯リアンに乗って時計台への落雷と同時に、時空の彼方へ飛び去る夢を見た直後。
「ふぁ!?」
目の前が暗転し、気がつくと四度目の婚約破棄騒動の直後へ戻っていた。
気がつくと、私は一人で廊下の真ん中に立っていた。
ん?あれ?これは一体……というか私は何をしていた?
だが、まずは……、
「誰にも腰抜けなんて言わせない!」
と、言わなければいけない気がしたので、取り敢えずセリフを叫んでみたものの……。
さて、えーと、これからどうしようか。
あ、そうだそうだ。
今、私は追い詰められているのだったな。
確か私は……。
中略。
「では、私が助けを求めるべき相手は……」
【選択肢を選んで出荷先を決めて下さい】
①クリア済み
②クリア済み
③クリア済み
④いや、ここは愛を貫き、アネットと裁きを待つべきか
⑤??? まだ選択出来ません
⑥??? まだ選択出来ません
さてと、何だかセシルやマリー、そしてレオニーに頼ると死亡フラグな気がするから……ここはやはり、ブレずに愛を貫くべきだよな!
ということでここは、④を選択だ。
……お!これで残る選択肢は???の二つのみか。
「いや、ここは愛を貫き、アネットと裁きを待つべきか」
やはりここは余計なことを考えず、アネットとの愛を貫くのが良いに違いない!
では、早速アネットを探しに行こうか。
……。
…………。
………………。
約十分後。
私は舞踏会場付近に戻って来ていた。
実はさっき偶然近くにいたホルスタインみたいなメイドに聞いてみたら、
「ああぁ、あのピンク髪のビッチ……じゃなくてぇアネット様ならぁ、まだ会場の近くにいるはずなのですぅ」
と、眠そうな目をしながら教えてくれたのだ。
そして、私が会場付近の廊下まで来ると、ちょうどアネット一行がいるのが見え、取り敢えず声を掛けるか……と思ったが……。
どうやらそれは難しいようだ。
何故なら、現在進行系でアネットwith私の取り巻き連中が逮捕しに来た近衛兵に対してアネット以外が盛大に暴れているから。
困ったな……何とかしないと。
まあ、私の名前を出して遊びまくっている取り巻きのヤリチン連中など、別にどうなってもいいのだが(いや、寧ろ去勢されてしまえ!)。
うーん、一応交渉してみるか。
そこで私は連中に気付かれないようにこっそりと近づき、
「なあ君、少しいいかな?」
私は取り敢えずその場で一番偉そうな、中年の近衛兵に話しかけた。
「ん?なんだ?今忙しい!邪魔だ!あっちへ行け……なっ!殿下!?」
すると、彼は取り込み中に話しかけられたことに苛立ちながら返事をしかけたところで、私に気付いて目を見開いた。
「ああ、如何にも私だ。で、君に頼みがあるのだが」
「た、頼みと申しますと?」
私がそういうと、中年の近衛兵は困惑した。
「アネットと少し話がしたいのだ……二人だけで」
そして、私が用件を告げると、
「え?あ、いや、それはいくら殿下でも困ります!」
彼は焦った顔でそう言った。
まあ、そうだろうな。
普通、このタイミングで私が話しかけたら……。
「彼女を逃したり、一緒に逃亡する可能性を恐れているのだな?」
と、思うよな。
「え、いや、その……」
流石に腐っても王族の私に面と向かってイエスとは言えず、彼はダラダラと脂汗を流しながら言葉に詰まってしまった。
可哀想に、すまんな。
「良い、そう思うのが当然なのだから」
そう思って私がフォローしてやると、
「は?殿下?……失礼ですが、本物ですか?」
困惑顔の彼から非常に失礼な言葉が返ってきた。
この無礼者め!手打ちにしてやろうか!……と、今はこんなことをしている場合ではないな。
「失礼な、本物だよ!で、そこで提案なのだが……」
私はここで近衛兵に対して、アネットと私の私室で面会したいこと、またその際、逃げられないように入り口に見張りを立てることを提案した。
「まあ、そういうことでしたら……でも、少しだけですよ?」
すると、近衛兵は渋々ながらそれを認めてくれた。
「ありがとう、感謝するよ」
そして私は彼に礼を言うと、先に部屋へと戻った。
それから少しすると、
「ちょっと!痛いって!もう!」
そんなセリフと共に、拘束されたアネットが乱暴に部屋へと連れてこられた。
「では殿下、終わりましたら、お声掛け下さいませ」
続いて、アネットの拘束を解き、近衛兵はそう言って部屋を出た。
二人きりになったところで早速、私は声を掛ける。
「やあ、アネット。先程ぶりだな」
すると彼女は、
「イタタ……ん?ああ、そうね王子様」
いつものような、ゆるふわボイスではなく、粗野でダルそうな感じの口調でそう返して来た。
「え?アネット?」
何だか今までとは違う彼女の雰囲気に私は困惑した。
「何ビックリしてんのよ、王子様だっていつもの天然ゆるふわモードのアタシが素じゃないって、何となく気付いてたんでしょ?」
と、アネットは、今度は不貞腐れた顔で言った。
「え?ま、まあな……」
私は顔を引き攣らせつつ、何とかそう答えた。
そっかー、驚いたな。
多少は猫を被っているのかな?ぐらいは思っていたが、まさかここまでとは。
まあ、でも……。
「今更何よ?アンタがしくじった所為で全部お終いなのに……話すことなんかあんの?」
今度は責めるような目で言った。
「え?あ、いや……まだ父上とは話をしていないよ、だがまあ、どのみち……」
「結果は同じって訳ね」
そう、今更無駄な足掻きだろう。
「だな」
「で、まだ何かあんの?」
「ああ、勿論だよ、だから君を呼んだ。結論から言おう、アネット……」
「ん?」
「この先も、私と一緒に来てくれないか?」
するとアネットは、
「……は?アンタバカなの?」
呆れ顔でそう言った。
酷い……。
「……酷いな」
そして、怒ったような顔になり、猛然と話し出した。
「今のアタシを見てわかるでしょ?アタシは下町育ちで、金と王妃の地位に目が眩んでアンタに近づいた卑しい女なの!それにアンタ以外の男達と関係を持ったビッチなの!だから……」
「だから?」
「アンタにアタシは相応しくないのよ!これがアタシの本性なのよ!」
と、そこまで一気にアネットは捲し立てた。
「そうか。だが、私はそんなこと気にしないし、むしろ今の自然体の君のが好きだよ?」
それに対して、私は素直な感想を述べた。
まあ、私にはもう失うものも無いし、多少のことは気にしない。
「なっ!何をバカなこと言ってんの!アタシのことバカにしてんの!?」
すると、アネットは顔を真っ赤にして怒り出した。
「バカなものか!私は素の君と話してみて、確信した。君は良い奴だと」
「なっ!?」
「何しろ、今まで迫る機会はいくらでもあったのに、未だに私とは深い関係になっていないし、今だって自分からわざわざ相応しくないと忠告してくれたり、それにメイドその他の臣下の者達の評判もいいし」
「うぅ……」
私がそう指摘すると、漸くアネットは大人しくなった。
ちょっと可愛いかも。
「なあ、アネット。君は確かに色々やらかしてしまったかもしれないが……根は優しくて良いやつだと私は確信している。だから、どうか私を助けると思って、この先も一緒に来てくれないか?」
「もう……バカ。どうなっても知らないわよ?」
するとアネットは、気恥ずかしそうな顔をしながら、そう言ってくれた。
「そうか、ありがとうアネット」
その後、私は父上の前で真摯に謝罪し、反省していることを伝えた。
その結果、私は皇太子の身分を剥奪された上で、遠方の植民地の総督になることになった。
そして、ひと月後。
私は海上にいた。
勿論、アネットと一緒に。
実は現在、私達は任地の西インディア諸島へ向かう為に移動しているところだったりする。
これはひと月前の騒動の直後、私とアネットは早々に船便に乗せられ、厄介払いされた為だ。
そして、船は順調に航海を続けてキャリブー海に入り、この旅も残り僅かになった、そんなある日の夜。
私はアネットに連れられて、夜中に甲板に出ていた。
当然だが海上の為、辺りには何も存在せず、漆黒の闇に包まれている。
だからこそ、現代とは比べものにならないほど美しい満点の星空を、恋人と独占すると言う贅沢を味わえているのだが。
「うわー!星が綺麗!」
「ああ、そうだな」
私はアネットと船上から、空いっぱいに広がる、まるで宝石のように煌めく星々を望みながら、そんなやり取りをしていた。
「アネット」
そんな時、私は唐突に彼女の名を呼んだ。
「ん?」
「ありがとうな」
「え?急にどうしたの?王子様」
美しい夜空に見惚れていたアネットが、少し驚いたような顔で言った。
「改めてお礼を言いたくなってね。こんな全てを失ったバカな男について来てくれて……本当に感謝してる」
「も、もう!照れるじゃないの……でも王子様、それは違うの」
「違う?」
「そう、感謝するのはアタシの方だもん。あんなに沢山悪いことしたのに……今はこんなに幸せなんだから……それにね?」
「それに?」
「夢が叶ったの」
「夢?」
「そう、夢。小さい頃からの。昔、絶望のどん底にいたアタシを救ってくれた、あの王子様と一緒に居たいっていう夢が、ね」
「え?それってどういう……うわっ!」
と、アネットがハニカミながらそう言った時、ちょうど船が大きめの波に突っ込んだ。
そして、予想外に大きく船体が傾き、運悪く手すりにもたれかかっていた私は……。
「ああああああああああ!」
甲板から落下し、そのまま真っ黒な夜の海に飲み込まれた。
「王子様ー!」
その後、懸命の捜索にも関わらず、彼を見つけることは出来なかった。
翌朝。
付近の無人島の砂浜に、一匹のシャケが打ち上げられていた。
そして、目を覚ましたシャケが何とか立ちあがり、周りを見渡すとそこは……美しく透き通った青い海と、ヤシの木が生えた白い砂浜が広がっていた。
「……ん?ここは?えーと、私は船から落ちて溺れた後、意識を失って……ここに流れ着いたのかな?」
まあ、運が良かったな。
だが、気の所為だと思いたいが、人気が無い気がする……。
「おーい!誰かー!」
取り敢えず叫んでみるが、当然返事はない。
え?折角助かったけど、これってまさか……無人島でひとりぼっちということ?
ジョニー=◯ップとか、トム=ハ◯クスの映画みたいに?
え?マジで?
嘘でしょう!?
「誰かー!助けてくれー!」
その後、シャケは長い無人島生活を強いられることになったのだった。
バッドエンド③『シャケ アウェイ』
……。
…………。
………………。
【条件(全てのバッドエンドを回収)を満たした為、新しいルートが解禁されました】
猛獣図鑑No.4
姉ット(学術名コアクマー=ノ=ホゴーシャ)
姉ットは、イヨロピア大陸中部に生息する猛獣で、特徴は他の猛獣達と比べて自身の戦闘力が低く、また権力もないにも関わらず、それらと互角に渡り合ったり、過酷な環境でも生き抜くことが出来るだけの高いタフネスとバイタリティを持っている点が挙げられる。
更に、繰り返しになるがこの生物自体の戦闘力はコアクマリー同様に大したことはないが、コアクマリーに加えセシロクマにも何故か有効なMPダメージを与えることが出来る。また、実は戦闘系の才能があり、ノリで適当に繰り出した強パンチが必殺技として通用する程であり、訓練をすればかなりのものになる可能性が高い。ただし、獅子ニーには滅法弱く、攻撃どころか、その姿を見ただけで萎縮してしまう。
なお、この生物は元々、猛獣のカテゴリーには入っていなかった。本来は穏やかな気性で、心優しい心根をもつ生き物だったが、不運にも過酷な環境での生存競争を強制され、闇落ちした。その結果、トゥリアーノン池に生息する魚を乱獲して食い散らかすという事件を起こしてしまい、保健所に捕獲された。その後、遠くの成金動物園に売り飛ばされる予定だったが、幸か不幸かコアクマリーに目をつけられ、彼女の下僕となった。それからはパンチラホルスタインと共にブラック労働を強いられ、現在は文句を言いながらもツッコミ役兼保護者としてコアクマリーのことを実の妹のように可愛がりながら、共にシャケを食べられる日を心待ちにしている。
なお、近々アイドルユニットMa☆Ri☆Aとしてデビューさせられるとの噂がある。
キャラクター紹介
アネット=メルシエ(ルフェーブル) 十八歳 ピンク髪の苦労人兼小悪魔の保護者
アネットは当初、冒頭に出て来てザマァされ、そして隣国へ嫁いでフェードアウトするだけ、という予定のキャラクターでした。
ですが、地下牢での会話の後、彼女の生い立ちを書いている時に考えが変わり始め、今に至ります。
まず、彼女の生い立ちがかなり重い感じになってしまったのですが、これは私がアネットという悪女を考えた時、動機は何だろうか、と思ったところから始まりました。
続いて自らの身体を使ってまでこれだけ大きな騒動を起こした彼女には、一体どれほどの過酷な過去があったのだろうか、と考えました。その結果、皆様がご存知の壮絶な彼女の過去が出来上がった訳です。
それで次は、そこまで書いたところで彼女に愛着が湧いてきまして、どうせ他国へ嫁いで行ってしまうのだし、少し出番を作ろうかな、と思いました。
その結果、拷問パートで見せしめで水責めにされました(アネット、なんかごめん……)これは本来の明るい彼女を出したかったので、お笑いとツッコミ担当にしようと思ったからです。そして、お茶会に呼ばれてリゼットと一緒に酷い目に遭った後彼女と友達になったり、またその後の遠征パートも含めてマリーと心の距離が近づき、気が付けばフィリップ断罪パートでマリーの口からハッキリとそれが語られるに至りました。
そこまで書いた時、私はもう彼女を他国へ手放すことはやめようと決めました。そして、遂に居酒屋パートでマリーの女官兼保護者となり、無事マ・リ・ア三人でユニットを形成するに至ったのです。
ただ、彼女がここまでのキャラクターになれたのは、間違いなくアネットを幸せにしてあげてほしい!という読者様方の多くの声が私を動かしたからです。
ですから、アネットは皆様のお陰で今がある子なのです。本当に応援をありがとうございました。
さて、ということなのでアネットには応援して下さった皆様へのファンサービスをしてもらいましょうかね!際どい衣装でのアイドルデビュー回とか、お風呂回とか、雨に濡れて服が透けるとか、そのエロボディを皆様に存分に堪能して……ん?また誰か来たぞ……。でも出る気ないし、窓も補強したし、対策は完璧だから今度こそ大丈夫……え!?必殺技でドアを破壊したぁ!?……ご、ごめんなさい!私が悪かっ……ああああああああ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます