第148話「番外編 バッドエンド集②」

『神は言っている、ここで死ぬ運命さだめではないと――』


 セシロクマに蹂躙されたシャケが、その短い生涯を終えた瞬間、謎の声が彼の魂に直接そう告げた。


「ふぁ!?」


 そして場面は戻り、再び婚約破棄騒動の直後へ。


 シャケが記憶を取り戻してアネット達と別れ、大慌てで廊下を歩いているところから。




 気がつくと、私は一人で廊下の真ん中に立っていた。


 ん?あれ?これは一体……というか私は何をしていた?


 だが、まずは……、


「大丈夫だ、問題ない(キリッ)」


 と、言わなければいけない気がしたので取り敢えず言ってはみたものの……。


 さて、えーと、これからどうしようか。


 あ、そうだそうだ。


 今、私は追い詰められているのだった。


 確か私は色々やらかして自室へ逃げ帰るところだったな……。


 それを思い出した瞬間、急に気が重くなり、胃が痛んだ。


 はぁ、本当に一体何故こんなことに……。


 あ!これは失礼、お見苦しいところをお見せ致しました。


 皆様、初めまして。


 私はシャケミリアン=ルボンと申しま……。


 中略。

 

「では、私が助けを求めるべき相手は……」


【選択肢を選んで出荷先を決めて下さい】


 ①クリア済み

 

 ②可愛い義妹のマリーなら、きっと私を助けてくれるに違いない!


 ③ここは第三者である私付きのメイド、レオニーに意見を聞いてみようかな?


 ④いや、ここは愛を貫き、アネットと裁きを待つべきか


 ⑤??? まだ選択出来ません


 ⑥??? まだ選択出来ません


 さてと、何だかセシルに関わったら干からびそうな気がするから……ここはやはり、安心の身内に頼るべきだよな!


 ということでここは、②を選択だ。


 ……あと、クリア済みってなんだ?




「可愛い義妹のマリーなら、きっと私を助けてくれるに違いない!」


 よし、ここはやはり可愛く、そして賢い義妹に泣きつこう。


 彼女ならきっと、何とかしてくれるだろう!


 では、早速マリーを探しに行こうか。


 ……。


 …………。


 ………………。


 約十分後。


 私はマリーの私室に来ていた。


 実はさっき彼女を探していた時に、偶然近くにいたメイドに聞いてみたら、先程部屋戻ったと教えてくれたのだ。


 さあ、行こうか。


 そして、私がドアをノックして声を掛けると……。


「マリー、いるかい?」

 

「……はい、お義兄様。マリーはここにおりますよ?」


 と中から声がした後、マリー自身がドアを開けて、あざとく顔を少しだけ出した。


 うん、マリーはいつ見てもあざと可愛いなぁ……ではなくて。


「そうか、よかった。実はマリーにお願いがあってね……」


 私はそう言って彼女に用件があることを伝えた。


「左様でございますか、ではまずは中へどうぞ」


 すると、ネグリジェ姿の天使のようなマリーは私を中へ導いてくれた。


「ああ」


 そして。


「それでリアンお義兄様、如何されましたの?」


 ソファに向かい合って座った後、マリーが心配そうな顔で聞いてきた。


「ああ、実は……」


 私はそれから全ての事情をマリーに話した。


 ……。


 …………。


 ………………。


「……ということなんだ。だから……」


「だから、私に助けて欲しい、と?」


 賢く、察しの良いマリーは自分で結論を口にした。


「ああ、そうなんだ。もう頼れるのはマリーしかいないんだ!こんな愚かで情けない義兄だが、どうか助けて欲しい」


 そこで私は頭を下げた。


 賢く可愛い、十三歳の少女に。


「ぐふふ、自らシャケがネギ背負ってやってくるなんて……なんという幸運!何というチャンス!……コホン。そんな、リアンお義兄様!頭など下げないで下さいませ!私がお義兄様の頼みを断る筈ないでしょう?」


 するとマリーは優しい笑みを浮かべてそう言ってくれた。


 ああ、良い子だなぁ。


 なんか変なことが聞こえた気がしたけど、まあ、いいか。


「そうか、ありがとう」


「いいえ。では早速、髭と、もやしと、シロクマ……コホン。お義父様、宰相様、セシル姉様の三人と話を付けてまいりますわ」


 あれ?なんか今酷いあだ名を聞いたような?……ま、まあ、いいか。


「ただ……」


 マリーはここで初めて深刻そうな顔になった。


「ただ?」


 ん?どうした?なんか不安になるじゃないか。


「あの三人はとても危険なのです。正直、お義兄様に何をするか分かりません」


「うん、確かに……」


 その通りだ。


 あの三人が怒ったら何をしてきても不思議はないからな。


「そこでお義兄様には身の安全を確保して頂く為、避難をして頂きたいのです」


「え?避難?でも、どこに?」


 この国で安全な場所なんてあるかな?


「私の生家、ブルゴーニュ公爵領のお屋敷ですわ」


 するとマリーは、難問にサラリと答えて見せた。


「ああ!なるほど確かにあそこなら安心だな」


「はい、ではお義兄。善は急げです!さあ、お行きになって?」


「え?あ、ああ……って、うわっ!」


 その直後、私は問答無用でマリーの部下達によって馬車に押し込まれ、そのまま最短でブルゴーニュ公爵邸に連れて行かれたのだった。




 約一ヶ月後。


「平和だなぁ、全くマリーには感謝しかないなぁ」


 私はブルゴーニュ公爵邸のバルコニーから、目の前に広がる美しい田園風景を眺めながら呟いた。


 あれから約一ヶ月、私はブルゴーニュ公爵邸で隠遁生活を送っていた。


 ここに来てから一ヶ月。


 美しい景色。


 美味しいワイン。


 高いレベルで訓練された使用人達。


 と、何不自由の無い快適な生活を送ってきた。


 ただ一つを除いて。


 それは……。


 ここで私は無駄だと知りながら、バルコニーから地面へ続く階段に足を乗せようとした、次の瞬間。


「殿下」


 ほら、やっぱり。


 背後から声がして、そちらを見れば、一人の若いメイドが無表情で立っていた。


「ん?なんだい?」


 私は敢えて分からないフリをしながら答えた。


「何度も申し上げておりますが、殿下の安全の為、お屋敷の外へ出ることはできません」


 すると若いメイドは、いつもの慇懃な態度でもう何回目になるか分からないセリフを繰り返した。


「……ああ、わかってるよ」


「さあ、屋内へお戻り下さいませ」


 そして、有無を言わさないという感じのメイドに促され、私は屋内に戻った。


 とまあ、こんな感じなのだ。


 つまり私はこのひと月、屋敷の外へ、それこそ庭にすら出たことがないのだ。


 手厚く護衛をしてくれるのはありがたいのだが、流石にこれは過保護が過ぎるのではないか?


 勿論、こちらからマリーに頭を下げて頼んだ手前、文句も言えないが。


 まあ、そもそもあの可愛いマリーに文句なぞつけられる筈がないけどな!


 ……はあ、でも一体いつになったらここを出られるのだろうか?




 数日後。


「リアンお義兄様!お会いしたかったです!」


「やあ、マリー!私もだよ!」


 今日、約ひと月ぶりにマリーが王都からやって来た。


「それにしてもマリー、父上やセシルとの話し合いから滞在先の用意まで、本当に助かったよ。ありがとう」


 そして、私はマリーにまず、諸々のお礼を言った。


「そんな!私、お義兄様の為ならどんなことだって致しますわ!」


 するとマリーは健気にもそんな嬉しいことを言ってくれた。


 やはり、良い娘だなぁ。


「本当にありがとうな、マリー」


「いいえ!それでお義兄様、ここでの暮らしは如何でしたか?」


「いやー、快適そのものだったよ?マリーには感謝しかないよ」


「そうですか、それは良かったです!なんと言っても……」


 と、そこでマリーが声のトーンを落とし……、


「お義兄様は一生この屋敷の中で暮らすのですから」


 顔をニタァと歪ませ、そう告げた。


 え?


 どゆこと?


 お兄ちゃん、意味が分からないのだけど?


「え?マ、マリー?一体何を言って……」


 取り敢えず、私は恐る恐る聞いてみるが……。


「何を言っても何も、全ては言葉通りの意味ですが?」


 即答。


「え?」


「お義兄様は一生この屋敷の中で私と暮らすのです!」


「あ、あのマリー、なんで中限定なの?」


「そんなの決まっていますわ!外はシロクマやビッチのようなヤバい女共がウヨウヨしていますから、危険でいっぱいなのです!」


 いや、意味が分からないのだけど……?


「で、でも庭にすら出られないのは……マリー、僕は君に凄く感謝しているのだけど……そのー、少しくらい自由が欲しいなぁ、なんて……」


「は?自由?」


「ひぃ!?ご、ごめんなさ……」


「何を仰っているのですかお義兄様?

勿論、自由に泳ぎ回って頂いて結構ですよ?ただし、この生け簀の中で」


 そして、マリーが凄くいい笑顔でそう告げた。


「え?泳ぐ?生け簀?」


 私がマリーの言葉を理解できず、ただただ戸惑っていると……。


「リアンお義兄様、私達これからここでずーっと一緒です♪」


「え?」


 その後、皇太子マクシミリアンの姿を見た者はいない。


 バッドエンド②『生け簀のシャケ』




 猛獣図鑑No.2


 コアクマリー(学術名ハラグロウ=ブラコーン=セクハーラー)


 コアクマリーは、イヨロピア大陸の中部から東部にかけて生息する腹黒い生物である。この生物は、小悪魔という単語が入った一見可愛らしい名称をつけられているものの、実際は、小悪魔→悪魔→大悪魔→魔王(見習い)と順調に進化を遂げている為、非常に腹黒く危険である。

 しかし、魔王進化時に姉ットにそれをキャンセルされてしまった為、現在は魔王(見習い)のまま止まっているので、当面はこれ以上凶悪になる心配は少ない。

 特徴は、セシロクマ同様に幻のリアン鮭から特殊成分を摂取しないと死んでしまう点で、成分が足りなくなると凶暴化した上、腹黒さが増す。また、アルコールを摂取し過ぎると、身近な同性に対してセクハラを始めるのも特徴の一つである。

 ただ、この生物の場合はセシロクマのように獲物を独り占めしようとはせず、捕食者全体で分配しようとするので、一見善良に見えるが、実は上手く調整役になることで、シャケの一番大きくて美味な部分を確保しようと企んでいるとんでもない腹黒である。

 しかし、基本的にセシロクマその他の凶暴な猛獣があまりに予想外の暴れ方をする為、計画は上手くいっていない。それどころか、裏方で損をすることが多く、セシロクマ同様にいつもお腹を空かせている。


 キャラクター解説


 マリー=テレーズ=ルボン 十三歳 腹黒いちびっ子(少しでも身長を大きく見せる為、常に高めのヒールを着用している)


 では、クイズの正解から。


 正解は、『コードギ◯ス』のナ◯リーと、『レー◯ガン』の白◯黒子でした。


 元々マリーは腹黒いナ◯リーを勝手にイメージして書いていました。そこにプラスしてセシルお姉様大好き!愛してます!みたいな感じにする予定で黒子をイメージしたのですが、正直セシ・マリの関係がだいぶ違う感じになってしまったので、その路線は消えました(^_^;)


 次回はレオニー……なのですが、人格面ではオリジナルキャラなので、ビジュアルのみ(髪型は除く)参考にしたキャラ当てです。


 ヒントは、三期もアニメが作られたアンデッドが主役の某超有名なろう系作品の戦闘メイド(人間ではない)の一人です。


 あと、彼女の忍び装束は、星の海を旅するRPG 3の隠密キャラをイメージしております。


 さて、ではマリーの紹介ですが、作中で彼女自身が語っていたように、当初はメインヒロインになる予定でした。で、今の路線に変更になった時は、最初のマリーの過去回想を辺りを思い出して頂くと分かるのですが、物語の語り手にしようかと思っていました。あれらの話はその名残りですね。そして、更なる路線変更でいつの間にか腹黒いちびっ子王女になり、今ではツッコミとメタネタ担当として活躍している訳です。加えて、何故か姉ットとリゼットと一緒にユニット組んでるし……一体何故こうなったでしょうか?最早それは私にもわかりません(^_^;)

 ですが、もうこうなったらいっそのことアイドルユニットとしてデビューさせてみようかな……ん?また誰か来たのかな?………………え!?や、やめてー!誰か助け……。

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