第147話「番外編 バッドエンド集①」

 場面は婚約破棄騒動の直後。


 我らがシャケことマクシミリアンが記憶を取り戻し、アネット(更生前)や取り巻き達と別れ、大慌てで廊下を歩いているところから。




 「何故だ、何故……今このタイミングなんだ……」


 その時、私は追い詰められていた。


 空虚な廊下の真ん中で、一人そんなセリフを呟いてしまうぐらいに。


 はぁ、本当に一体何故こんなことに……。


 あ!これは失礼、お見苦しいところをお見せ致しました。


 皆様、初めまして。


 私はシャケ……ではなくてマクシミリアン=ルボンと申します。


 現在ピチピチの刺身に出来るぐらい鮮度の高い十八歳で、大国『ランス王国』の第一王子にして、皇太子です。


 つまり未来のキングサーモン(国王)な訳で、将来は安泰。


 加えて、美しく聡明に見えて実は暴れん坊な気がする公爵令嬢の『セシル』という婚約者もいました。


 そう、いました。


 え?何故過去形なのかって?


 それは……婚約破棄をしたから。


 つい、さっき。


 しかも、それに伴うあらゆるリスクも考えず、自分から一方的に。


 端的にいって最悪の選択でした。


 え?では何故そんな馬鹿な事をしたのかですって?


 答えは簡単。


 婚約者セシルや義妹マリーの愛が重過ぎてが恐ろしかったから……ではなく、


 真実の『愛』を見つけたから。


 いや、正確には『見つけたと思っていた』から。


 ついさっきまでは。


 そして何故、過去形なのか?と、思われたことでしょう。


 それは突然『失った記憶』を取り戻したことによって、まやかしの『愛』など存在しないと強制的に気付かされたから。


 その瞬間からパニック寸前になった私は、取り敢えず冷静になる為に生け簀……じゃなかった、自室に戻ろうと考えて、今に至るのです。


 はぁ、本当、なんて馬鹿なことをしてくれたんだ、さっきまでの自分……。


 と、そんなことを考えながら、再び歩き出そうとしたその時、私はふと思いました。


「いや、待てよ?時間が無い中、一人で考えても無駄な足掻きではないのか?だったら誰かに助けを求めた方が良いのではないだろうか?うむ、きっとそうに違いない!だったら、私が助けを求めるべき相手は……」


【選択肢を選んで出荷先を決めて下さい】


 ①ここは素直に謝ってセシルに赦しを乞おう!

 

 ②可愛い義妹のマリーなら、きっと私を助けてくれるに違いない!


 ③ここは第三者である私付きのメイド、レオニーに意見を聞いてみようかな?


 ④いや、ここは愛を貫き、アネットと裁きを待つべきか


 ⑤??? まだ選択出来ません


 ⑥??? まだ選択出来ません


 ……うーん、ここはやはりメインヒロインっぽいセシルが正解な気がするし、手堅く行こうか。


 あと、出荷って何だよ……。


 私は無難に①を選択することにした。




「よし、ここは素直に謝ってセシルに赦しを乞おう!」


 うん、やはりここは小細工などせず、素直に赦しを乞うべきだろう。


 優しいセシルならきっと赦してくれる筈。


 では、早速彼女を探しに行こうか。


 ……。


 …………。


 ………………。


 約十分後。


 私は人気の無い廊下の片隅で、泣いているセシルを発見した。


「うう……ぐすっ……リアン様ぁ……」


 ああ、身勝手な理由でこんなにも可憐で儚い美少女(貧乳)を傷付けてしまったなんて……心が痛むな。


 私がそんなことを考えていたら、ふとある物が目に入った。


 ん?何故か近くにある展示用の甲冑がボコボコになっているな……まあいいか。


 さあ、早く謝ろう。


「セシル」


 私は柱の影で泣いている彼女に声を掛けた。


「ぐすっ……やっぱりパッドで誤魔化していたのがバレて嫌われてしまったのでしょうか?それとも超イケメンのリアン様に色目を使った女共を始末したのがバレたのでしょうか?くっ、こんなことならあのアネットとかいうビッチもさっさと始末しておくべきでした!ぐぬぬ……ふぇ!?リ、リアン様ぁ!?」


※これは本編とは別の世界線の話です!本編の彼女は決して気に食わない女共を殺ったりしていません!


 すると、何かブツブツ言っていたセシルが顔を上げ、私に気付いて慌てた。


 おい、なんか今コイツとんでもないことを言っていたような気がするぞ……まあ、いいか。


「リアン様!ど、どうしてここに!?」


 セシルは私が突然現れたことに動揺しながら、そう聞いてきた。


「勿論、君を探していたんだよ」


 私はそれに優しく答えた。


「わ、私を?」


「ああ、君に謝りたくて……」


「ふぇ?私に謝る?」


 よし、今だ!


 ここで私は勢いよくガバッと頭を下げた。


「セシル、本当に済まなかった!どうか、愚かな私を許して欲しい!」


 そして、心から謝罪をし、赦しを乞うた。


 頼むよセシル!


 もう土下座でも靴にキスでも何でもするから許してくれ!


 じゃないと私が死んでしまう!


「え?ええ!?……はわわ!……えーと……は、はい、勿論です!」


 するとセシルは一瞬パニックになった後、快く謝罪を受け入れてくれた。


 ああ!メルシーセシル!


 これで助かる!


「そうか、ありがとうな、セシル」


「当然です!リアン様はあの悪い女に騙されていただけで、何も悪くありませんから!それにご安心を!あの女はきちんと後で始末しておきます……あ、でも……」


「でも?」


 でも、なんだろう?……って、あれ?今セシルの奴「あの女はきちんと後で始末しておく」とか言わなかったか?


 き、気の所為だよな?


「でも私ー、今回とっても辛くてー、凄く凄ーく悲しかったんですー…… ヨヨヨ〜」


 と、ここで急にセシルが目に涙を溜めてわざとらしくそう言った。


「……」


 何かめっちゃわざとらしいが、それでも女性の涙を見るとなぁ……。


「ですから、埋め合わせをして欲しいな、なんて……」


 まあ、いいんじゃないか?


 悪いのは100パーセント私だし、むしろ贖罪の機会を与えてくれるのはありがたいし。


「埋め合わせ?勿論だとも。私に出来ることならどんなことだってするよ!」


 私は笑顔で即答して見せた。


 さて、セシルは何を望むのだろうか?


 金か?宝石か?豪華な離宮か?……それとも、かぐや姫みたいに不可能な宝を用意してこいとか?


 あ、出来れば貴様の命で許してやろう!とかはやめて欲しいなぁ。


 と、私がそんなことを考えていると、


「本当に?」


 セシルが上目遣いで確認して来た。


「本当に本当だよ」


 私はエセスマイルで答えた。


「本当に本当に本当ですか?」


 すると重ねてセシルが確認して来た。


「本当に本当に本当に本当だよ」


 そんなに心配なのかな?


「本当に本当に本当に本当に本当?」


 更にセシルが繰り返し確認して来た。


 だから本当だって!しつこいよ!


 てか、一体何をさせる気だよ!?


 ぐっ……だが、悪いの自分だし、今この女の機嫌を損ねては自身の命に関わるのだ。


 キレちゃダメだ、キレちゃダメだ、キレちゃダメだ……。


「だから、本当に本当に本当に本当に本当に本当だって!」


 無理やり心を落ち着かせた私は、引きつった笑みを浮かべつつ何とかそう答えた。


 ああ、なんかもう頭がおかしくなりそう……。


「くくく……そうですか、そうですかぁ。リアン様、今言いましたね?もう、撤回は出来ませんよ?うふふ」


 私の言質をとったセシルは俯き加減で口をニヤリとさせながら怪しく笑った。


 え?何!?


 美少女なだけに余計に怖いのだけど……。


「あ、ああ……それで、私は何をすればいいのかな?」


「ええっと、それについては落ち着いた場所でゆっくりとお話ししたいので、まずはリアン様のお部屋へ参りましょうか」


 私がそう聞くと、セシルは笑顔でそう提案してきた。


「え?私の部屋?ああ、分かった」


 まあ、確かにこんなところで話す内容ではないからな。


「さあ、参りましょう!」


 そして、セシルがそう言った直後。


「ああ、行こうか……ぐぇ!」


 その華奢な身体からは想像もつかないような恐ろしく強い力で私の襟首を掴んで歩き出した。


「え!?」


 私はそのまま強引に自室の前までズルズルと引きずられて行った。


 部屋に到着するとセシルは躊躇なくバーン!とドアを開け放ち、ついでに私を中へ放り込んだ。


 片手で。


「ぶっ!セシル、何を……」


 ベッドに頭から突っ込んだ私が声を上げたのと同時に、後方からガチャリと音がした。


「!?」


 慌てて振り返ると、セシルが後ろ手でドアに鍵を掛けたところだった。


「うふふ……リアン様……じゅるり」


 そして彼女は舌舐めずりをしながら、まるで血に飢えた肉食獣のような目でこちらを見た。


「ひぃ!」


 私は本能的な恐怖を感じ、思わず情け無い声をあげて後ずさった。


「リアン様……どこへ行こうというのです?」


 そう言うとセシルはゆっくりこちらへ近づいてきて、遂にベッドに上がった。


 そして獰猛な笑みを浮かべたまま、這うようにこちらへやって来る。


 そして、


「ふふふ……えい!」


「セ、セシル?……うわっ!」


 彼女はそのまま私を押し倒した。


「え!?ちょ、ちょっと待てセシル!」


「待ちません。ふふふ、魅力的過ぎるリアン様が悪いのですよ?私ずっと待ってたのに……それなのにリアン様は私を放置して他の女を見てばかり。本当に寂しかったのですから……だから」


 彼女は切なそうな顔になってから、


「私、お腹ペコペコなんですよ……」


 意味不明なことを言った後、目をギラギラさせながら再び進撃を開始した。


「は!?わ、私が悪かったから!何でもするし謝るから!一旦落ち着こうか!」


 生命その他色々の危機を感じた私は必死に叫びながら彼女を押し留めようとするが、まるでダンプカーでも相手にしているかのように無力だった。


「ハァハァ……じゅるり」


 そのままゆっくりとセシルがその美しくも恐ろしい顔をこちらへ近づけてきた。


 そして遂に彼女の息遣いがわかるような距離まで迫ってきた。


「ま、待て!話せば分かる!」


 私はそのセリフと共に最後の抵抗を試みるが……。


「リアン様……もう、逃がさない!」


 それは失敗し、セシルはその青く美しい瞳を血走らせて台無しにしながら更に接近して来る。


「セ、セシル?ひっ!?く、来るな!来るなぁ!」


 私がそんな最期の悲鳴を上げた直後……。


「……ガウッ!」


「ああああああああああああああああああああ!!!」


 ………………。

  

 …………。


 ……。


 翌朝、皇太子マクシミリアンの部屋からはスヤスヤと幸せそうに眠る一頭のシロクマと、カラカラに干からびた状態で天に召された一匹の憐れなシャケが発見されたのだった。


 バッドエンド① 『シャケの一夜干し』




 猛獣図鑑No.1


 セシロクマ(学術名ヒンヌー=バカヂカーラ)


 セシロクマはイヨロピア大陸中部に生息する最強の陸上生物である。

 特徴は『リアン様成分』という特殊な成分を定期的に摂取しないと死んでしまう点である。またそれが少なくなったり、身体的特徴をバカにされると凶暴化してしまう点にある。

 なお、その特殊な成分は王都にあるトゥリアーノン池のみに生息するリアン鮭という希少種からしか摂取することが出来ないが、その匂いや姿を眺めるだけでも生命維持に必要な分を摂取することは可能である。

 しかし、実はセシロクマにはそれを捕食する機会が頻繁にあるにも関わらず、この生き物はその凶暴さに反して非常に臆病な為、いつも獲物を逃してばかりで常にお腹を空かせている。

 だが、最近事故が起こった際、意図せずリアン鮭を少し齧ってしまった為、千年分の成分を強制的に摂取することとなり、当面は凶暴化の恐れは少ないと言われている。

 

 キャラクター解説


 セシル=スービーズ 十七歳 貧乳(パッド補正あり)


 まずはクイズの答えを。


 正解は、『まぶ◯ほ』の宮間◯菜でした。


 ごめんなさい、流石に難しかったですよね、反省していますm(_ _)m


 それに『俺◯』の新垣あ◯せと、『魔◯科高校の劣等生』の司波◯雪のエッセンスを加えたイメージで書いています。


 あ、赤騎士の時は、それに加えてニャ◯子さんも入っています。


 しかし、最近では殆ど原型が残っていないくらいにぶっ飛んだオリジナルキャラに変貌してしまったような気が……。


 なので今回のクイズは非常に難しいものになってしまったと反省しています、本当にごめんなさいm(_ _)m


 で、次回はマリーなのですが、ヒントは、某絶対遵守の王の力とか出てくるロボットアニメのキャラの一人を腹黒くしたイメージです。


 それに加えて、学園都市で超能力とか使うアニメに出てくるキャラの一人のエッセンスを加えている感じです。


 まあ、こちらも殆ど原型が残っていない気がしますが……。


 さて、セシルの紹介に戻りますが、彼女は元々、婚約破棄されて退場するだけの脇役として登場しました。しかし、構想の変化に伴い、脇役→マリーとのダブルヒロイン(と言いつつ実質的な単独メインヒロイン)→四人(今後さらに増える予定)のヒロインの一人という流れを辿ったキャラクターです。


 実は作品が今の流れになった後も、最初は彼女がラストでリアンと結ばれて終わる予定でした。


 具体的にいうと、本来は第131話「ご褒美」で、セシルがリアンの前で兜を取って正体を明かした上で愛を告白し、リアンがそれを受け入れキスで応えるというもので、その後は二人で皇太子夫妻として幸せに暮らす、というエピローグで終わらせる予定でした。


 ですが、作品を書き進めていくうちに、そんな普通の終わらせ方では読者の皆様が納得する筈がない!もっとぶっ飛んだ展開にしなければ満足出来ないに違いない!(確信)ということで、内容を強引に変更して今に至ります。

 

 もし、この話がセシルにバレたら私はきっとタダでは済まないことでしょう……ん?来客かな?………………え!?ちょ、ちょっと待って!話せば分か……ああああああああああ!

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