第138話「第二王子(執行猶予中) フィリップ=ルボン①」
場面はフィリップにあてがわれた臨時の部屋で、涙ながらに美形の兄弟が抱き合っているという、腐女子達の餌食になりそうな展開を迎えたところ。
「フィリップ、ケイベックはここから遠く離れ、雪に覆われた過酷な土地だが……お前ならきっと出来るよ、体に気をつけてな」
「はい!リアン兄さん!」
そして、麗しい兄弟愛によってダークサイドに堕ちた弟が目を覚まし、兄が優しくそう言って部屋を去ったあとのこと。
「ありがとう、リアン兄さん……」
その時、僕はドアの向こうに消えた兄さんに向かってそう呟いた。
そして、思った。
ああ、僕はなんてバカだったんだ、と。
それと僕は何故、あんなにも優しくて大好きだった筈のリアン兄さんを憎んでいたのか……と。
しかも、それに加えて僕は多くの人を傷付け、迷惑を掛けてしまった。
一体何故、僕はあんな愚かなことをしてしまったのだろうか。
悔やんでも悔やみきれない。
でも……(不謹慎かもしれないけど)嬉しかったのは、兄さんはそれでも僕を見捨てずに、優しく諭して目を覚まさせてくれたことだ。
あの幼い頃のように。
だから、本当に嬉しかった。
リアン兄さんが……変わらず昔のままだったから。
なのに……なのに僕は……。
繰り返しになるが、一体何故あんなことをしてしまったのかな。
一応、憎しみに囚われておかしくなってしまったのは自覚し、理解しているが……。
正直きっかけや、いつから自分が変わってしまったのか、その辺りのことや、直接的な原因がまだよくわからないんだよな。
だが、今はそれを考える時ではない。
何故なら、ケイベックへの出発まで、あとひと月もないから。
つまり、時間がないのだ。
今は兄さんがくれた償いのチャンスを、最大限に活かすことだけを考えないと!
すなわち、僕は皇太子の地位を兄さんに引き継ぐまでの間、ケイベックの発展に努めなければならないのだ。
そして、多分その後役目……いや、償いを果たした僕は恐らく……。
まあ、それが当然の結末だな。
取り敢えず、今はそれは考えないことにして、と。
さて、時間もないし、早速現状の確認と整理、そして目標の設定をしようか。
まず、現状の確認と整理。
僕は重大な罪を犯してしまった。
多くの女性を傷付け、悲しませてしまった。
そして、結果的に国を売り払おうとしてしまった。
当然だが、代償として本来ならば早々に死罪になるのが妥当だ。
しかし、こんな僕にも多少の利用価値があるらしく、遠方の植民地で厳重な監視の元、数年間総督を務めることになった。
しかも、その間皇太子の地位も僕が持つことになるとか。
正直、意味が分からなかったが、理由を聞いて納得した。
なんとリアン兄さんは、暫く市井で生活することを希望しているのだとか。
ああ!流石はリアン兄さん!
あの人は民と共に生きることで、今後王として必要なことを学ぼうというんだ。
そんな大胆なことを考えるなんて、僕には無理だ。
やっぱり兄さんは凄い。
あの人は昔から色んなことを沢山知っていて、斬新な考え方が出来た。
それはまるで、違う世界から来たように!
そして僕ら凡人とは違うものを……何もいうか、新しい価値観を持っている気がしたんだ。
そんな兄さんを僕は、昔から尊敬していたし、大好きだった。
いつも、あんな風になりたくて、その背中を追っていた……筈なのに。
なのに……なんで、なんで、こんなことになっているんだ……。
全く、僕はなんてバカなんだ……。
おっと、脱線してしまった。
今は時間がないのに。
後悔は墓石の下でするとして、次だ、次!
さて、ではそんな僕が、具体的に今しなければならないことはなんだ?
それは当然、務めを果たすこと。
では、務めとは?
皇太子兼総督として、将来兄さんが治める国の一部になるケイベックの地を豊かにすることだ。
ならば、今はその為の準備をする時だ。
確か、ケイベック行きの船団が出発するのは約ひと月後。
それまでに必要な人、モノ、金、を準備しなければならない。
まずは……金だな。
正規の僕の王室費に加えて、裏金やルビオンから提供された工作費、そしてそれらを運用して蓄えた金を合わせて、三百億程ある筈だ。
これらを早急に回収して、手元に集めなければ。
次に、その金で本国でしか調達出来ない物資や、技師、学者などの専門家を出来る限り雇う。
そして、それらを収容することが可能な船団も手配しなければならないな。
ああ!しまった!
それより先に、まずは父上に相談しなければ!
今の僕には兎に角、信用がない。
相談なく勝手動いて、謀反と勘違いされては困るからな。
勿論、簡単にはいかないだろうけど……それでも僕は頑張るんだ。
傷付けてしまった女性達や、迷惑をかけてしまった者達、それにリアン兄さんの為に!
さあ時間がない、早く父上と面会しなければ!
「おい!誰か!誰かここへ!」
………………。
…………。
……。
それから数時間後。
僕は突然のことに狼狽する侍従を急かし、何とか父上と宰相と面会することが出来た。
当たり前だが、僕のことを信用出来ない二人は、終始疑いの眼差しを向けてきた。
しかし、それでも僕は怯まず何とか二人を説き伏せ、監視付きという条件で自由に動けることになった。
本来ならば不可能な願いだが、リアン兄さんと話をして決めたという事実を告げると、渋々という感じで承諾してくれたのだ。
ありがとう兄さん。
やっぱり兄さんは凄いや。
そして、部屋を出た僕は父上にお願いして付けて貰った監視兼側近達を使い、急いで準備を始めたのだった。
それから早速、僕は側近兼監視役達を引き連れて関係部署を回り、調整を始めた。
いくつかの調整を終えたあと、次へ向かおうと廊下を急ぎ足で歩いていると、突然前から僕を呼ぶ声がした。
「おい、フィリップ」
この忙しい時に邪魔をするのは誰だと、僕は若干の苛立ちと共にそちらを見た。
すると、そこにいたのはなんと……。
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