第136話「王女付き女官 アネット=ルフェーブルwithマリー②」
「ん?……え?ええ!?お、王子様!何でここに!?」
私の横には何と王子様が立ってた。
え!?何、何、どゆこと!?
「ああ、色々あって気分転換に少し歩きたくなったのだ」
アタシが内心パニックに陥っていると、王子様は優しく答えてくれた。
「そ、そうなの?」
「ああ、そうなのだ……」
そう答えた彼をよく見れば、少し疲れた顔をしてた。
気分転換……何かあったのかな?
でも、見た感じそこまで深刻そうには見えないから、大丈夫だとは思うけど……。
あ、もし癒しが欲しかったら私を使ってくれても……なんて思ったり。
でもアタシにそんな資格はないわよね。
あ、それより折角王子様に会えたことだし……。
「あ、あの!王子様……」
「ん?」
さあ、言うわよ!
「あの、その……お、お花……ありがと」
アタシはハニカミながらそう言った。
ああ、ダメ。
王子様を前にすると全然ダメ。
これじゃ純情な小娘みたいじゃないの!
「ああ、いやいや、あれはほんの気持ちだ」
アタシが葛藤していると、王子様は苦笑しながらそう言った。
「そう、気持ち……うふふ」
そっかー、ほんの『気持ち』かぁ。
ふふ、嬉しいなぁ。
「ところでアネット、こんなところで何をしているのだ?」
アタシが愛を感じていると、王子様がそう聞いてきた。
「え?ああ、人を待ってるの」
「そうか」
……。
ダメ、会話が終わっちゃう!
こんなチャンス多分もう無いし、アタシもっと王子様とおしゃべりしたい!
何か言わないと!
「うん……ねえ!ちょうど暇だったからお話しましょうよ!」
そう思ったアタシは、咄嗟にそう言って王子様を引き留めに掛かった。
「ああ、いいよ」
すると、王子様は快くそう答えてくれた。
「ふふ、やった!」
よし!
「それで、花嫁修業の方はどうだ?内容がハード過ぎると、かなり文句を言っていたようだが……」
ぐっ……王子様、笑顔でいきなり答えづらい話題を……。
「え?あ、あー……えーと……無くなった」
でも、悪いことじゃないし言っても大丈夫よね?
「は?」
それを聞いた王子様は意外そうな顔をした。
そんな顔も素敵。
「実はアタシ、訳あってコモナ行きの話が無くなったの。それで、その代わりにマリー様付きの女官になることになったの!」
「ほう、マリーの女官か……大出世だな。嫁入りより良かったんじゃないか?」
「うん!」
アタシが経緯を説明すると、彼は素直に喜んでくれた。
ちょっと嬉しい。
「では今も仕事の一環で待機中なのか?」
「うん、そうなの。マリー様の予定が長引いてるみたいで、待ちぼうけなの」
アタシはやれやれ、と肩をすくめて見せた。
まあ、こうして王子様とお話が出来てる訳だから、遅れてくれたマリーには感謝だけど。
「そうか、まあ頑張れ、応援してる……ただ」
「ただ?」
ここで王子様が深刻そうな顔になった。
「君は私と同じでセシルに相当な恨みを買っている筈だから、今後は色々と気をつけろよ?身の危険を感じたら直ぐにマリーに助けを求めるんだぞ?」
あ、なるほど!
王子様はアタシを心配してくれたんだ!
嬉しい!
でも、ごめんなさい!
アタシも王子様もセシルに恨まれたりしてないから大丈夫なのよね。
というか、本気であの化け物に恨まれてたら、今頃アタシ達絶対生きてないし……。
女の恨みは恐ろしいからね。
「え?ああ、セシル……様ね、心配してくれてありがとう、王子様。でもアタシは大丈夫だから……とっくに命の危機(腹パン)を迎えたから」
アタシは内心でそう思いつつ、取り敢えず無難に流した。
「えーと、何かあったのか?」
「ううん、何でもない!兎に角、アタシこれからは女官として頑張ることにしたの!今までいっぱい他人に迷惑を掛けたから、その分一生懸命働くの!」
そして、アタシは決意を表明した。
アタシ頑張る!貴方の為に!
「そうか、それは良いことだ」
すると王子様はアタシを見て優しく微笑んで、
「アネット、頑張れよ」
その言葉と一緒にアタシの頭にポンと手を置いて、優しく撫でてくれた。
「ふぇ!?お、王子様!?」
えええええ!?
な、なな、何このご褒美!
まだ何もやってないのに……。
でも最高!
「ああ、すまない、つい癖で……」
そこで、アタシの反応を勘違いしたのか王子様は撫でるのをやめようとした。
だから、アタシは……。
「あ……やめないで?もっと……んっ……」
思わず続けるように言ってしまった。
きゃ、恥ずかしい!
「あ、ああ、わかった……」
すると王子様は嫌な顔一つしないでナデナデを続けてくれた。
優しいなぁ。
「嬉しい、最高に幸せ………………ああ、ダメ!アタシ、もう我慢出来ない!」
でも、それがいけなかった。
アタシは嬉しすぎて、幸せ過ぎて、早々に心のリミッターがぶっ壊れちゃったの。
その瞬間にアタシの心からは、好きという気持ちが溢れ出して、そのまま我慢出来ずに王子様の目を見て言ったの。
「あのね、王子様。実はアタシ……ずっとずっと前から貴方のことがす……」
そして、遂にアタシの気持ちを伝えようとした、その瞬間。
ボゴォ!
突然何かが飛んできて、アタシの頭に直撃した。
「ぐえっ!」
アタシは乙女にあるまじき声を上げながら崩れ落ちた。
「大丈夫か!?」
「うう……いったーい、たんこぶ出来たかも」
心配した王子様が慌ててアタシに声を掛けてくれる中、チラリと靴が飛んできた方向を見るとそこには……。
鬼が居た。
いや、正確には鬼のような顔をした小悪魔が居た。
そして、人を殺せそうな程鋭い視線をこちらへ向けていた。
あ、ヤバ……今の見られちゃったか。
でも、ハイヒールを投げつけることなくない!?
刺さったらどうしてくれんのよ!
「ん?靴?これは一体?」
王子様が側に落ちているハイヒールに気付いて首を傾げている横で、
「もう、何てことすんのよ……あの小悪魔!」
アタシは毒付いた。
でも、お陰で正気に戻った。
これ以上何か言ってしまう前に、無難にお話ししてお別れしよう。
「ところでアネット、君はマリー付きの女官になったのだよな?私の可愛いマリーの様子はどうだ?」
ここで王子様が話題を変え、マリーの様子について尋ねてきた。
「え?ああ、マリー……様?もう絶好調よ!今日もブラックさ全開で元気に暗躍して……ぶへっ!」
アタシがマリーの様子を話し始めた瞬間、再びどこからともなくハイヒールが飛んできて、アタシの頭に直撃した。
もう!何よ!
本当のことをちゃんと答えたのに!
「ううー……いったー……もう!だから、さっきから何すんのよ!……はいはい、そういうことね、わかったわよ……ごめんなさい王子様、小悪魔がお怒りだからもう行かないと」
アタシはこれ以上の会話は小悪魔の嫉妬が限界に達してしまうと察して、王子様とのおしゃべりを諦めた。
「そうか、わかった……小悪魔?」
王子様は了解しながら首を傾げた。
「じゃあね、王子様!」
アタシはそれをスルーしてから、王子様にお別れを言って歩き出した。
と、そこで王子様が背を向けた状態のアタシに向かって言った。
「ああ、そうだアネット」
「ん?なーに?王子様ー」
ん?なんだろう。
アタシが振り返ると。
「マリーに会ったら、(家族として、世界一可愛い義妹として)『愛してる』と伝えてくれ」
は?え?
王子様、今なんて?
ガタガタ!ドスン!
ん?それに今どこからか音がしたような。
ああ!マリーか!
あの何事にも動じない小悪魔が、盛大にキョドってるわ!
珍しい。
でも、まさかの……。
「え?王子様って、もしかしてシスコン?」
「まあ、そうかもな」
あれ?認めちゃった。
「まあ、別にいいけど……取り敢えず了解したわ、王子様」
でも、ちょっとだけ妬けるわね。
「ありがとう、アネット。あと……」
「ん?何?」
まだマリーに言伝?
一体、どれだけマリーのこと大事なのよ……。
「今更だが、私にもちゃんとマクシミリアンという名があるのだから、次に会った時は名前で呼んでくれ」
はいはい、ちゃんと伝えとくわ……よ?
え?
えええええ!?
「ふぇ!?あ、アタシなんかが王子様を名前で!?で、でも、こんなチャンス………………よし!」
アタシは意外過ぎる言葉に頭がショートしそうになったけど、ギリギリで耐えてから、一呼吸置いてから笑顔で叫んだ。
「リアン様!ご機嫌よう!」
ありがとう、王子様。
大好き。
皆様ご機嫌よう。
最近ブラックだの魔王だの言われているマリー=テレーズです。
いきなりですが、私キレています。
何故なら、私が貴族の奥様方とのお茶会という拷問を受け、疲れ果てて戻ってみれば……。
何とそこでは、私の女官がよりにもよってお義兄様を誘惑しようとしているではありませんか!
あのビッチめ、許せません!
ですが、もう止めに入るには時間が……くっ!
こうなったら実力行使です!
私はそう決めると躊躇なくハイヒールの片方を脱ぎ、片足を大きく上げながら全身を使ってアネットへ全力投球。
そして……命中!
ターゲット、デストローイ!
ふう、危ないところでした。
ギリギリで私の想いが届きました。
全く、お義兄様はお優しいですからね。
万が一、アネットの気持ちを受け入れてしまったら大変です。
そして、アネットは私の気持ちに気付いたようで、諦めて次の話題に移りました。
お、今度は私のことですか。
アネット、分かっていますね?
さっきの埋め合わせができるのです。
主人であるこの私をしっかり称えるのですよ?……てぇっ!?
あのアバズレ!
また裏切りました!
お義兄様になんてことを言うのですか!
誰がブラック企業の元締めですか!
誰が貴族の新たな派閥争いで暗躍中ですか!
幾ら本当のことでもお義兄様に言うなんて……許せない!
アネットを粛清することに決めた私は、もう片方のハイヒールを手に持って投球モーションに入りました。
そして、
「くらえ!大○ーグボール二号!」
私はそう叫んで、再び全力投球したのでした。
※申し訳ありません、結局二月中には第一部を完結出来ませんでしたm(_ _)m
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