第121話「帰還と報告と噂⑤」
「「!?」」
私の提案を聞いた二人は、少し驚いたような顔になった。
今回、私はレオニーやリゼットをはじめとした暗部の面々と共に汗を、いや血を流して思ったのだ。
是非、彼らの忠誠と働きに報いてやりたい、と。
そして、私はその暗部に対してどのような褒美が良いかを、自分なりに考え抜いた。
その結果、このような形で報いてやろうと思い至ったのだ。
それに、理由は他にもある。
そもそも国家にとって重要な存在である諜報組織が、ぞんざいに扱われているのは非常に宜しくない。
何故なら、歴史的に情報を軽んじた国家や軍隊の末路は、大概悲惨なものになるからだ。
このままではランスもそうなりかねない。
そして、それは私の今後の生活に直結するのだ。
これから先、私がスローライフをおくる上で、万が一ランス王国という国自体が無くなったり、弱ったりしたら……。
国の滅亡は言わずもがな、弱って治安や食料事情が悪化したら、国内は間違いなくヒャッハー!な世紀末だ。
とてもスローライフどころではない。
と、いうような理由もあり、今回の提案に至った訳だ。
まあ、上手くいくかは未知数だし、ダメなら諦めるしかないが……。
その時は、色々な私物(賄賂)を売り払った代金から、少し融通してやることで、暗部の連中には納得してもらおう!テヘッ!
閑話休題。
「何?暗部の改革だと?」
父上がそう聞き返してきた。
「はい、彼らの存在は今やこの国にとって欠かせません。しかし、私が考えるに、彼らはそれに見合った環境や待遇、そして権限等が与えられておりません。これは由々しき事態です」
そして、私はしかつめらしい顔で、キッパリとそう言った。
「ふむ……確かにそれは……お前の言う通りだな」
それに対して父上は、鷹揚に頷いて見せた。
お、良い感じだ。
事の重要さを理解してくれたか?
よし、ドンドン行こう!
「今後もし、何かのきっかけで彼らが不満を抱き、その忠誠が揺らげばランスという国そのものが大きく揺らぐことになります」
「うむ」
「それは絶対に避けねばなりません。そこで、更に具体的な提案なのですが……」
「ああ」
よし、行ける!
「彼ら暗部を、正式な国の機関として認めて頂きたいのです」
私はここで結論をハッキリと述べた。
「何!?」
これには父上達も驚いているようだ。
そして、この機を逃さず私は話を続ける。
「それに伴い、今回私が編成したプロジェクトチームと暗部本体を統合し、更に軍や他の官公庁等から人員を集めて拡充、その上で必要な権限と十分な予算を与えます」
「なんと!」
「ほう、なるほど……」
私の話におっさん二人が、感心している。
うん、悪くない反応だ。
「僭越ながら、名称も考えておきました。その新たな機関の名は……『ランス王立情報局』で如何でしょうか?」
まあ、普通だな。
自分で言うのもアレだが。
「……うむ、悪くない、いや素晴らしい!流石だマクシミリアン!見事な提案だ」
「流石ですね、殿下。目の付け所が素晴らしい!実は……我々も似たようなことを考えておりました」
取り敢えず、父上達は褒めてくれたし、良かった……って、え?そうなの?
二番煎じだったかー……。
まあ、私如きが思いつくことを、この二人が思い付かないはずはないか……。
「なるほど、では私は余計なことを言ってしまったようですね」
と、そんなセリフと共に私がちょっと凹んでいると。
「いえ!とんでもない!『似たような』とは言っても、我々が想定していたものはもっと小規模で限定的なものなのです!」
宰相が慌ててそれを否定した。
「そうなのですか?」
「はい!しかも、今まで様々なしがらみや予算の都合で、それですら実現出来なかったのです。しかし、今回の殿下のご活躍による貴族達の弱体化で、それらの条件がクリアされ、暗部の改革が可能となったのです!」
お!と言うことは……。
「では?」
と、私が問うと父上は、
「うむ、お前の提案を全面的に採用する。この後、すぐに準備させよう」
「ありがとうございます、父上」
良かった、何とかレオニー達に報いることが出来たな。
「何、むしろ礼を言うのはこちらの方だ。繰り返しになるが、これは必要なことだったのだ、マクシミリアン。感謝するぞ」
「勿体なきお言葉です、父上」
と言ってから、私はそこで一拍置いて次の話に移る。
「では、二つ目のお願いなのですが……」
「うむ、何だ?」
また何か有益な提案があることを期待しているのか、父上も宰相も目を輝かせているが、
「我が弟、フィリップと話をさせて頂きたいのです」
と、私はそこで告げたのだった。
「「!?」」
数分後。
「では父上、宰相閣下、失礼致します」
そう言ってマクシミリアンが恭しく一礼し、王の部屋を出た直後。
「……命を掛けて成果を上げたアレを騙すのは正直、心が痛むな……」
国王シャルルが、ため息と共に目を伏せ、悲しげに呟いた。
「ああ、全くだな、友よ……だが王族たる者、仕方のないことだ……それにあの方は今回、王たるに相応しいその器の大きさを、我々に示してしまったのだから……」
そして宰相、スービーズ公エクトルもそれに同意し、静かにそう呟いたのだった。
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