第120話「帰還と報告と噂④」
「ご理解頂きありがとうございます、殿下。では今の話を踏まえた上で、我々から提案があるのですが……」
私が内心で頭を抱えていると、宰相が微笑を浮かべてそう言った。
「提案?」
彼の意外な言葉に、私は思わず聞き返した。
この状況で提案とは……やっぱりあと数年はしっかり働け、とかかな?
まあ……廃嫡の為には、それぐらい我慢するべきなのかもしれないが……。
数年後、また期限を引き延ばされそうだし、怖いなぁ。
でも、逃げられないし……大人しく数年後まで社畜をやるしかないか……はぁ。
と、私が抵抗を諦め掛けたその時。
「はい、我々から提案があります。実はこちらで殿下の廃嫡までのプランを考えてみましたので、それをご検討頂きたいのです」
宰相が絶妙なタイミングでそう言ってきた。
流石は政治家、絶望した私が思わず飛びついてしまいそうなタイミングで、蜘蛛の糸を垂らしてきたな。
というか、よく考えてみたら今の私の状況は、カンダタそのものだよなぁ。
皇太子としての責務を果たさないばかりか、突然の一方的な婚約破棄という罪を犯し、地獄に落ちた間抜けな私が、必死で助かろうと足掻いているのだから……。
閑話休題。
「なんと!私の為にわざわざ時間を割いて考えて下さったとは!それで、内容は?」
私は取り敢えず、わざとらしく大袈裟に驚いておいた。
まあ、実質的に選択肢なんて、無いも同然なんだし……。
それに……内容はどうせ、『死ぬ気で働け』でしょ?
はいはい、やりますよ!
やればいいんでしょ!
と、私が投げやりな気持ちで不貞腐れていると、宰相が説明を始めた。
「まず、先程お話させて頂いた事情がありますので、廃嫡自体は数年後、国内の情勢が安定してから、ということになります」
「はい」
まあ、そうだろうな。
そして、貴方達が約束を守るならな。
「しかし、実際には数日後に殿下は、実質的に自由の身となります」
「はいはい、数日後には自由の身ですね………………は?え!?じ、自由!?……と、いいますと?」
余りに予想外なセリフに、思わずキョドってしまった……。
で、一体どういうつもりだ?
数日後に『自由の身』だと?
……わからん。
父上達は私をどうしたいのだ?
そんな私を他所に、宰相は話を続ける。
「はい、仰る通りです。繰り返しになりますが、殿下は数日後に自由になれます。流れはこうです」
と、そこで彼は何処からか書類を取り出し、私に見せながら再び話を始めた。
「まず数日以内に準備を整え、身勝手な婚約破棄や職務を放棄しての放蕩等を理由に、殿下から『皇太子』の地位だけを剥奪し、世間に発表致します」
「はい」
まず、私を無印の王子にするのだな。
「続いて、新たにフィリップ殿下を皇太子に任命します。その上でマクシミリアン殿下には、表向きは僻地で幽閉ということにさせて頂きます」
「ほう」
表向き、ということは……。
「申し訳ありませんが、マクシミリアン殿下には数年後まで王子という身分でいて頂くことになります。しかし、それはあくまで最初に申し上げた通り、数年後に国が安定し、また婚約破棄騒動の熱りが冷めるまでのことです。あとはそれを待って、適当なタイミングで廃嫡を発表するのです。如何ですか?」
と、そこまで一気に喋ると、宰相は私に問うてきた。
「……なるほど、確かに理にかなっていますね。ですが……」
表向き幽閉とは、実際にはどういう状態なのだ?
うむ……まさか、限定的な自由ではなかろうな?
例えば離宮の中だけは自由に動き回って良いとか。
と、美味すぎる話だけに、私は疑うが……。
「ふ、ご安心を。勿論、実際に幽閉したりは致しませんよ?」
それを見透かしたかのように、宰相は苦笑しながらそう答えた。
あ、良かった……。
「で、具体的には?」
だが、まだ信用できない。
「はい、廃嫡までの期間、殿下は表向き離宮で幽閉され面会謝絶と致します。しかし、実際には人目につきにくい僻地に屋敷を準備致しますので、そこを拠点にお過ごし下さいませ」
僻地に……屋敷?
お、これは……。
いや、待て。
いくらなんでも話が美味すぎる、が。
取り敢えず、もう少し話を聞こう。
「それで?」
「はい、その屋敷では自由にお過ごし頂けます。出入りは自由ですし、人目にさえ付かなければ、お仕事やご旅行等も可能です」
「なんと!それは……」
素晴らしい!
……いや、焦るな。
落ち着いて最後まで話を聞くのだ、マクシミリアン。
どこにどんな罠があるか、わからないのだぞ。
「……そして、数年間大人しく暮らした後は名実共に完全に自由、という訳ですね?」
私は慎重に確認を取りに行くが、
「はい、勿論です!廃嫡が叶えば、最早殿下を縛るものは何もありません。晴れて自由の身でございます」
年齢よりかなり若く見える宰相が、イケメンスマイルでそう答えた。
ああ、ズービーズ公マジイケメン!惚れそう……じゃなくって!
返事、返事をしなければ!
「なるほど、よく分かりました」
一応、私は平静を装って答えた。
「以上が私共からの提案となりますが、如何でしょうか、殿下。お気に召しましたか?」
そして、最後に宰相から確認をされたが、正直ここまで言われてしまったら、最早答えは決まっている。
「はい、勿論です。是非、そのプランでお願いします!」
私は二つ返事で提案を了承した。
その直後。
「畏まりました、殿下……あ、ただし、大変申し訳ないのですが、実は一点だけご了承頂きたいことが……」
と、宰相が言った。
「え、あ、はい。それは?」
え!?何それ怖い!
やっぱり罠だったか!?
ヤッベー、やっちまったか!?
「実はまだ、殿下が滞在するご予定の屋敷の改装が終わっていないのです……」
「は?改装?」
なんだ、そんなことか。
驚かせやがって……このイケメンめ。
「ですので、最初の数ヶ月は城下に家を用意致しますので、そちらでお過ごし下さい。勿論、行動は人目に付かないように気を付けて頂ければ、行動は自由です。宜しいですか?」
そして、イケメン宰相はそう言った。
「はい、異存ありません。本当に何から何まで……ご配慮ありがとうございます」
これは……やはり父上も宰相も人の親だった、ということだな。
まさか、ここまでしてくれるとは!
私は目の前の二人に心から感謝し、そして居住まいを正した後、深々と頭を下げた。
「宰相閣下、そして父上、私のような愚息の我儘を聞いて頂き、本当にありがとうございます」
それを見た父上達は優しく微笑むと、暖かい言葉を返してくれた。
「いや、気にするな息子よ。むしろ、今までお前の気持ちに気付いてやれなんだ私を許せ」
「勿体ないお言葉です、父上」
と、いよいよ話も良い感じに終わり掛けたその時、私はふと、あることを思い出した。
「あの……父上、実は最後に二つ程お願いがあるのですが……」
「ふむ、願いとな?これだけの成果をあげたのだ、可能な限り聞こう。それで?」
父上は、それを快く聞いてくれた。
では、早速。
「ありがとうございます、父上。ではまず一つ目は……『暗部について』でございます」
「「暗部?」」
私がそういうと、突然出てきた暗部という単語に父上達は怪訝な顔をした。
そして、私は更に言葉を続ける。
「はい、長年不遇な立場に置かれてきた彼らの待遇改善と……大規模な組織改革を提案致します」
「「!?」」
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