第118話「帰還と報告と噂②」
通用口での立ち聞きを終えた私は、今度こそ父上の私室へと向かった。
そして、先程の話や今後のことなど、色々と考えながら長い廊下と階段を進み、漸く目的の部屋まで来た。
「それにしても……やはり、いざここに来ると緊張するな」
私はそこで、ひと月前の婚約破棄騒動や、ここでやったテレビショッピングを思い出しながら呟いた。
「だが、今日はあの時とは違う。努力して成果を出し、それに対する報酬を受け取りに来たのだ。何も恐れることはない……筈だ」
私は自分に言い聞かせるようにそう言うと、扉の前に控えている侍従に目配せをした。
「はい、畏まりました」
すると、彼はそう言って年季の入った重厚な扉を恭しく開けた。
「失礼致します」
そして私は静かにそういうと、部屋の中に入った。
ひと月ぶりに入った国王の私室は、簡素だが上品な雰囲気で、この前と全く変わっていない。
まあ、ひと月しか経っていないし、当たり前か。
だが、不思議と体感時間的には半年ぐらい、小説で言うと100話ぐらいあった気もするのだが……気の所為だよな。
ん?……あと、今気付いたが……前回とカーテンの膨らみが違うような……なんかスマートになったか?
ああ!今日は護衛が隠れていないのか。
おっと、今はそんなことを考えている場合ではないな。
私はそこで意識戻して一礼し、
「ただいま戻りました、父上、宰相閣下」
慇懃にそう告げた。
「おお、マクシミリアン!ご苦労だったな」
「これは殿下、ご帰還をお待ちしておりました」
ひと月前とは違い、そんな私を国王と宰相は朗らかな表情で迎えてくれた。
お、なんか二人共、機嫌がいいな。
話がしやすくて助かる。
「お気遣い痛み入ります……さて、まずは遠征の報告を……」
そして、私は早速遠征の顛末と成果の報告を始めたのだった。
………………。
…………。
……。
「……と、途中で危機を迎えましたが、暗部をはじめとした部下達、そしてセシルの善意によって私は救われました」
と、そこまで話したところで、
「そうか、それは良かった。お前が無事で何よりだ」
「全くです、殿下にもしものことがあったら、それはランスの一大事ですし」
何故か、やたらと気遣われた。
何故?
まあ、いいか。
「温かいお言葉、ありがとうございます。それにしても宰相閣下……」
と、ここで私はスービーズ公の方を向いた。
「はい?」
「やはり、貴方の娘は、セシルは素晴らしい女性ですね」
「は?セシルがですか?」
私の突然の言葉に、クールな宰相閣下がキョトンとしている。
「はい、彼女は一方的に婚約破棄をした、私のような愚か者を善意で救ってくれましたから」
と、私は微笑を浮かべながら、セシルを褒めた。
しかし、宰相閣下は、何故か非常に微妙な顔になってしまった。
「え?あ、いや、多分……そんな美しいものではなく、愛情という名の欲望と、打算に塗れているかと……」
え?愛情?……ああ!そうか!セシルは赤騎士と禁断の愛を育んでいたのだったな。
やはり、だから助けてくれたのだな。
赤騎士め、隠さなくてもいいのに。
「だとしても、結果的に私は命を救われたのです。感謝はするべきでしょう。閣下、叶うことならば、セシルに私の感謝の意を伝えて頂きたいのですが」
「は、はぁ……畏まりました、殿下。ただ、アレにそんなことを伝えたら大変なことに……」
さてと、セシルへの礼も伝えたし、話を戻すか。
そこで私は、再び父上の方へ向き直った。
「さて、話を戻しますが、僅かに残った敵の残党はストリア方面へ逃亡を図ったようです。しかし、事前の要請に応えてストリア軍が国境付近に展開してくれており、問題なく片付きそうです」
「うん、そうか」
父上は鷹揚にうなづいた。
「あ、そういえば捕虜に関しては、スービーズ軍と暗部に一任してきましたので、後ほどそちらから報告があるかと思います」
そして、私はそう付け加えた。
すると……。
「あ、ああ……捕虜か……」
「いるといいですね、捕虜……」
そんなセリフと共に、何故かおっさん二人の顔が引きつっている気がするが、気の所為だろう。
さあ、続きだ。
「あとは……今回の作戦で取り潰した貴族連中から接収した領地や財貨ですが、宰相閣下、今後の管理や運用等、これらの引き継ぎをお願いします」
「はい、心得ております。殿下が命を掛けて得たこれらのものは、必ず国の為に役立てるとお約束致します。そして、万事抜かりなく、引き継ぎを行うことを確約致します」
「宜しく頼みます……これで報告は以上です、父上」
と、ここで私は報告を終えた。
「うむ、ご苦労だった」
さて、いよいよ本題に入るとしようか。
緊張するな。
「……ところで父上。私はこれで、ひと月前に提案した案件に関して、全ての条件を達成したと自負しております。つきましては……」
「ああ、よくやったな、マクシミリアン。正直、ひと月であれら全ての条件を達成してしまうとは……流石としか言いようがない。見事だ」
父上は満足そうに言った。
「ありがとうございます、父上」
「いやはや、全くです!見事な手際でしたよ、殿下」
「恐縮です」
ん?宰相閣下まで褒めてくれてる?
うーん、ここまで褒められると、逆になんか怖いな。
「それでだ、我が息子よ。それらの事柄を踏まえ、最終確認をしたい……」
父上はそこで一度言葉を切り、真っ直ぐこちらを見て言った。
「本当に廃嫡で良いのか?」
それに対して、私は自信を持って即答する。
「はい、勿論です」
それを見た父上は渋い顔になったが、再び問うてくる。
「……そうか、一応言っておくが、
このひと月での成果を考えれば、廃嫡どころか、皇太子の地位を譲る必要もない。それどころか、私は……お前を将来王座に据えたいと思うのだが、どうだ?」
え?これは一体どういうことだ?
私を王座に据えたい、だと?
……な!?まさか!
このひと月、私が頑張ってそこそこ有能なところを見せてしまった所為で、廃嫡が惜しくなったとでもいうのか!?
ふん、しかし、騙されるものか!
どうせ甘い言葉で釣って、体よく使い倒した上、無印王子のまま飼い殺す気だろうが。
しかし、そうはさせるものか!
「お心遣い、ありがとうございます父上。ですが、私の心は決まっております」
私は、キッパリとそう告げた。
それに父上は、
「どうしてもか?」
重ねて問うて来た。
「はい」
そこで更に、宰相閣下まで……。
「殿下、私からもお願い致します。どうか、考え直して頂けませんか?」
ここまで私を持ち上げ来るとは一体……ああ!なるほど!
彼らも人の親、私のような無能にわざわざ気を遣って、花を持たせてくれようとしているのか!
全く、親の気遣いを汲み取れないとは……本当に私は無能だな。
反省反省。
「花を持たせて頂き、感謝しております。ですが、もういいのです」
「「……」」
そういうと、彼らは黙ってしまった。
「父上?」
そして、渋い顔の父上が、ゆっくりと口を開く。
「むう……わかった、お前の望み通り、廃嫡を認めよう」
そして、遂に……遂に!
私は、その言葉を父上から引き出した。
よし!やったー!遂にゴールだ!
「ありがとうございます、父上」
長かった……だが、これで王族という身分や不自由な生活ともお別れだ!
ヒャッホー!
と、私が心の中で浮かれていると、次の瞬間。
「ただし……数年後だ」
いきなり意味のわからない一言が飛んできた。
「…………………………は?」
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