第113話「朝チュン①」

 マ☆リ☆アwithレオニーが、ぶっ飛んだ祝勝会を堪能した翌朝。


 トゥリアーノン宮殿のマリーの寝室にて。


 清々しい朝を迎え、眩い朝日が差し込む窓の外では、チュンチュンと無邪気にスズメが鳴いている。


 そして、この部屋の大きなベッドの上では、抱き合うように眠るネグリジェ姿の美少女二人が、静かに寝息を立てていた。


 まさに、『朝チュン』。


「うみぅー……まな板シロクマなどぉ……もはや用済みなのれすー……ぎゅう」


「うぅ、く、苦しい……むにゃ……」


 因みに、その美少女(笑)二人とは、この部屋の主であり、ランス王国王女でもあるマリー=テレーズと、昨日突然そのマリー付きの女官に電撃任命されたアネットだった。


 幸せそう?に眠る彼女達は、見ての通り、禁断の主従百合的な関係に……ある訳ではなかった。


 実は昨夜、酔い潰れたマリーを、アネット、レオニー、リゼットの三人で苦労して部屋に運び込んだのだが、その際マリーが、


「いやー!アネットと一緒に寝るのれすー!ダメなら全員バックドロップの刑なのれすー!」


(((何か微妙に技が変わってる……)))


 と言って聞かなかった為、結局アネットがマリーと一夜を共にすることになったのだ。


 そして今、そんな彼女達を起こしにメイドルックのレオニーがやってきたところなのだが……。


 一見、いつも通りの無表情の彼女だが、心なしか疲れたような雰囲気を漂わせながら、マリーに声を掛けた。


「おはようございます、殿下。お目覚めのお時間でございます」


「ふみぅ?……ふぁー……あ、レオニー……おはようございます……くぅ」


 彼女の言葉に反応したマリーは、一応挨拶を返したが、再び夢の世界へ戻ろうとしてしまう。


「殿下、起きて下さいませ。昨夜に続き、係の者を困らせないで下さい」


 それを阻止すべくレオニーは、今度はマリーを軽く揺すりながら声を掛けた。


「むぅ……」


 だが、それでもマリーは起きない、いや、起きられない。


 実はマリーは、基本的に朝は低血圧気味なので、中々起きられないのだ。


「ああ、全く……今日は特に酷いですね」


 と、レオニーがダルそうに呟いたところで、横で寝ていたマリーの手下、もといアネットが目を覚ました。


「うん?……ああ、レオニー、おはよー」


 彼女は二日酔いに睡眠不足をプラスした酷い顔に加えて、ノーメイクでボサボサの髪という女子として致命的な姿でそう言った。


「おはよー、ではありませんよ、アネット様。女官が主人より後に起きるなど……」


 冷たくレオニーがそういうと、アネットは拗ねたような顔で、


「……仕方ないじゃない!昨日大変だったのはアンタも知ってるでしょ?」


 と、言い訳するが。


「確かに、昨夜はお楽しみでしたからねぇ……ですが、それはそれ、です。現に私はこうして、お二人を起こしに来ているのですが?」


 俺だって辛いんだよ!舐めてんのかテメェ?ああん?という恐ろしい顔で、レオニーがアネットを見下ろした。


「うぅ……き、気をつけます……てか『お楽しみ』って、どこの勇者よ……」


「ふぅ、さて、ではマリー様。おめざに甘い物を用意しておりますから、こちらへ」


 と、レオニーはアネットのツッコミをスルーし、まだまだ覚醒出来ていないマリーをベッドから連れ出した。


「ふみぅ……わかったー……」


 普段の彼女からは想像も出来ない、無邪気で無防備な可愛いらしい姿を見せながら、マリーは大人しくレオニーに手を引かれ、フラフラと身支度をする椅子に向かって歩き出した。


 と、そこで、


「マリー様、失礼致します」


 マリー付きの、正真正銘の普通の若いメイドがやってきた。


「うにぅ……くるしゅーない、よきにはかえー」


 寝惚けたマリーがそれに適当に答えた。


「……あの、マリー様。まだ何も言っていないのですが……」


 困り顔の若いメイド。


「で、要件は?」


 呆れ顔のレオニーが、代わりに要件を聞いた。


「あ、はい、実は……マクシミリアン殿下から……」


 と、若いメイドが答え掛け、マリーがリアンの名を聞いた、その瞬間。


「……リアンお義兄様!?どこ!?お義兄様はどこですかぁ!?」


 彼女はコンマ数秒でそれに反応し、突然カッ!と目を見開き、叫びだした。


 そして、鼻息荒く若いメイドに掴みかかった。


「ひぃ!?マ、マリー様!?何を!?」


「お義兄様は?お義兄様を出しなさい!」

 

 マリーは怯えるメイドに構わず、リアンお義兄様を出せ!と叫びながら彼女を揺さぶり続けた。


「マリー様、落ち着いて下さいませ」


 そんな彼女をレオニーが溜め息を吐きながら、襟首を掴んで引き剥がし、落ち着かせる。


「お義兄様ぁーーー!ハァハァ……で、貴方、何の要件だったのかしら?」


「は、はい!えーと、マクシミリアン様より、お花が届いております」


 それを聞いた瞬間、マリーは再び目を見開き、聞き返した。


「え?ええ!?リアンお義兄様から、お花!?本当に!?」


「はい、本当でございます……もう間もなく別の者が……あ、ちょうど届いたようでございます」


 と、その時部屋の入り口から両手いっぱいの、マリーゴールドの花束を抱えた別のメイドが入って来た。


「え、ええ!?あんなに沢山!?」


 そして、メイドがマリーの前にある机に、花束を恭しく置いた。


「こちらでございます」


「うわぁ!綺麗……お義兄様……ありがとうございます……うぅ」


 マリーはメイドの言葉もそこそこに、目の前にある巨大なマリーゴールドの花束を抱き抱え、目に涙を浮かべて喜んだ。


「あ……確か、この花の花言葉は……」


 更に彼女は、そこでマリーゴールドの花言葉を思い出し、


「変わらぬ愛と……悲しみ?え、これは……ああ!なるほど!この悲しみとは、お義兄様が私に会えなくて、そして私に寂しい思いをさせて悲しい、ということなのですね!……ああ、私もお会い出来なくて悲しいです、リアンお義兄様……」


 極めて恣意的な解釈をして、勝手に悲しみ出したのだった。


 そして、マリーはその美しい顔に大粒の涙を流しながら、より一層強く花束を抱きしめた。


「マリーは……マリーは!お義兄様のお気持ち、確かに受け取りました。私もリアンお義兄様を愛しております……ああ、私もう……何も怖くない!」


 そう呟いた彼女は嬉しさのあまり、感極まってそのまま泣き出してしまった。


「良かったわね、マリー……」


 とその時、そんな彼女を残して、静かに部屋を出た者がいた。


 そして、後ろ手で音を立てないように、そっとドアを閉めた彼女は、


「ちゃんと大好きなお兄ちゃんに愛されていて……アタシなんて、やっぱり……」


 寂しそうに呟いたのだった。

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