第100話「少女の皮を被った化け物14」
「はい、では次です!姉萌え変態王子のフィリップとルビオンの関係について、真面目に尋問を始めましょう!」
テンション高く、マリーはそう宣言した。
「はいはい、もう何でもいいわ……」
アネットはすでに諦めたらしく、投げやりにそう呟いた。
「で……話を戻すけど、なんであの事件のタイミングで、コイツとルビオンが付き合いだしたの?」
そして、話を戻し、素直な疑問を口にした。
そこで漸く真面目な顔に戻ったマリーは、説明を始めた。
「はい、それはルビオンが行動しようと思ったちょうどその時に、都合良くこの男がいた、というだけのことですよ」
「都合よくって、どゆこと?」
アネットはよくわからない、という顔でマリーに聞いた。
「では、まずルビオン王国側の思惑からお話しましょうか。ただし、何割かは私の想像ですが……」
「うん、それで?」
「はい、まずルビオンの思惑は長年の、それも三百年以上前からの仇敵である我がランスを、弱体化させることでした」
「うん、それは何となくわかるなぁ」
アネットが真面目な顔で頷く。
「当然、彼らは我が国へ介入しようと、常にその為の糸口を探していた訳です。そんな時にいたのが……」
と、マリーがそこまで言ったところで、
「なるほど!この姉萌え野郎がいいところにいた訳ね!」
アネットがフィリップを見ながらそう答えた。
「はい、その通りです。この姉萌え男が、ちょうどいいところにいたのです」
マリーがそれを肯定したところで……、
「姉萌え野郎……」
先程から影が薄いフィリップが顔を引き攣らせ、ボソボソと不満そうに呟いた。
しかし、悲しいことに女性陣には全くそれは聞こえていなかった。
マリーは彼の呟きに気付かず、更に説明を続ける。
「彼らは当時、こんな噂を聞きつけたのでしょう。他国にまでその名が轟いていた、将来有望な皇太子であるリアンお義兄様に対して、密かに強烈な劣等感と憎悪を抱いている愚かな第二王子、フィリップの噂を」
「なるほどー、それで?」
「はい、ルビオンの連中は恐らくそこで、この男を利用したランスの弱体化計画を立てたのでしょう」
「ふむふむ」
「内容としては、ざっくりいうと『第二王子フィリップを使ってランスを混乱させること』です」
マリーはそこでチラリとフィリップの方を見た。
「具体的にはまず、この男を人的、金銭的に手厚く支援して、第二王子派閥の貴族達に力をつけさせます。また、同時に親ルビオンになるように、金や女、または弱みを握る等の工作を行います。そのようにしてゆっくりと、しかし確実にランス国内にルビオンの影響力を浸透させるのです」
「うわー、壮大な計画ね」
そこまで聞いたアネットが感心したようにいった。
「はい、これらの工作には膨大な時間や労力、そして金銭が必要ですが、彼らはそれに見合うリターンがあると判断したのでしょう」
「へぇー、アイツら頭良いのね」
「はい、厄介なことに彼らの戦略や外交、そして諜報部門は非常に優秀なのです……もう、うんざりするほどに……」
アネットの言葉に、マリーが辟易しながら呟いた。
「で、でも!それと戦ってる貴方達って凄いわね!」
と、それを見たアネットが空気を読んで、テンション下がり気味のマリーを持ち上げた。
「いえいえ、それほどでも。で、話を戻しますと、先程の工作をしつつ、更にこの男にはリアンお義兄様を排除させようとする訳ですが……」
「ひえー、ルビオンの連中容赦ないわね」
「全くです。その後、あわよくばこの男を皇太子、ゆくゆくは国王に据えて、最終的にランスを完全に傀儡としてしまう、と連中の計画は大体こんなところだと思います……はぁ」
そこまで語ったマリーは、大仰にため息をつきながら話を締め括った。
「ルビオンってそんなヤバいこと考えてたのね……」
そこまで聞いたアネットが、今更隣国の危なさに気づき、身震いした。
「はい、でもそれだけではありませんよ?」
「まだあるの!?」
マリーの言葉にアネットは、大袈裟に驚いた。
「しかも恐ろしいことに、仮にそれらの工作が全て失敗したとしても、ランスには少なからずダメージが残りますが、反対にルビオンはほぼノーダメージなのですよ」
そして、渋い顔をしながら、マリーが補足した。
「ああ!なるほど!失うのはちょっとしたお金ぐらいだもんね!まさにローリスクハイリターン!あ、そういえば私にもそんな投資の話が来ていたような……やろうかしら……」
と、アネットが呟いたところで、
「そんな謳い文句の儲け話は間違いなく詐欺ですから、絶対にやめておきなさい!」
マリーがキレ気味に叫んだ。
「わ、わかってるわよ!冗談よ冗談」
それにアネットは目を泳がせながら言い訳したのだった。
そして、マリーはやれやれと肩をすくめながら、
「全く、困ったら私に言いなさいな。トイチで貸してあげますから……」
えげつないことを言った。
「利息高っ!街の高利貸しもビックリよ!」
それに対してアネットが激しくツッコムが、彼女はそれをスルーし説明に戻った。
「……ではなくて!話を戻すと、今のことに加えて、もともと両国の関係は最悪なのです。だから、万が一工作がバレても彼らは困りません」
「何で?戦争とかになるんじゃないの?」
「最悪、戦争になったとしても、海を隔てたところにある海軍主体の島国ルビオンを、陸軍国である我がランスが制圧することは、ほぼ不可能ですから……」
そこでマリーは少し悔しそうに言った。
「うわー、卑怯な連中!てか凄いわね……どちらに転んでも損はないなんて……」
と、アネットはそこまで言って、
「あ、ちょっと待って!もし、その全部が上手くいって、姉萌えの傀儡政権が出来たりしたらランスが滅ぶんじゃ……」
恐ろしい事実に気付いた。
それにマリーは、
「ええ、そうなったら間違いなくランスは滅亡し、ルビオンの一部になると思いますよ?この男の所為で」
と、言いながらレイピア並みに鋭い視線をフィリップに突き刺した。
がしかし、
「は?ちょっと待て!傀儡だと!?ふざけるな!確かに私は皇太子の地位を手に入れる為、奴らの力を借りた……だが、あれは利用しただけだ!」
今まで空気を読み、話を黙って聞いていたフィリップが、そこで急に大声で弁明を始めた。
「は?利用しただけ?」
マリーの額に皺が寄るが、フィリップは気付かずそのまま捲し立てた。
「そうだ!私が王位についた暁には、ルビオンの下賤な連中などとは、さっさと手を切るつもりだったさ!だから……これだけは信じて欲しい、私は本当に国を売るつもりなど無……」
「それ、本気で言っているのですか?」
そこでマリーが彼の話を遮り、そのように問うた。
しかし、フィリップは当然とばかりに胸を張り、
「ああ、そうだとも!確かに私は兄マクシミリアンを憎んでいるが、我が祖国ランスのことが憎いわけではないのだ!というか、自分が王になる国を他国に売り渡す筈がなかろう!?つまり、私の売国の容疑は無罪だ!」
などと、本気で叫んでいた。
そんなフィリップに、マリーは絶対零度の視線を大量に浴びせながら告げた。
「貴方は……本当にバカだったのですね……」
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