第99話「少女の皮を被った化け物13」

※この話は没ネタを使ったおふざけ回です。



「さあ!切り替えて行きましょう!」


 つい先程まで、闇堕ち寸前だった小悪魔が明るく言った。


「切り替え早!」


 呆れ顔のアネットは、すかさずそれにツッコミを入れたあと、


「で、何から話すの?」


 と、先を促した。


「えーとぉ、それではさっき途中でやめてしまった『あの事件』について、から再開しましょうか」


 問われたマリーは人差し指を頬に当てながら、あざとく小首を傾げながら答えた。


「あざとい……」


 アネットの言葉をスルーし、彼女はしかつめらしい顔を作ると、フィリップに問うた。


「コホン、では第二王子フィリップ。改めて聞きます。貴方が事件の首謀者だと認めますね?」


「……ああ、認める」


 先程の魔王化したマリーを見せつけられた彼は、命惜しさに大人しくそれを認めた。


 しかし、それを見たマリーの反応は……。


「……そう、認めてしまうのですね」


 何故か、とっても残念そうだった。


「ちょっとマリー!折角、姉萌え野郎が素直に認めたのに、何で残念そうな顔してんの?」


 その不可解なマリーの反応を見たアネットが、一同を代表して疑問をぶつけた。


「あ、わかりますか……」


 そう聞かれた彼女は、相変わらず残念そうな顔のままそう答え、続けて説明を始めた。


「ええっと、説明すると……まず私は今日という日の為に色々と調べたり、証拠や証人を探したりと、かなりの下準備をしてきた訳なんですよ」


「ふむふむ、それで?」


 アネットが相槌を打ち、先を促す。


「はい。それで本当なら今頃、私がカッコ良くみんなの前で推理を披露して、この男を追い詰めている筈だったのですよ」


「え?……ええっと、で?」


 アネットはそこで少し怪訝な顔になった。


「で、私がスマートに推理を披露したところで、この男は私に向かって『ほう、中々よく出来た妄想だな。君には小説家の才能があるよ』とか言う訳です」


「……は?」


 アネットは遂に『訳が分からないよ!』という、どこかのインキュベーターみたいな顔になった。


 が、少しテンションが上がってきたマリーは、そんなことは気にせず話を続ける。


「そして、私はフィリップに『だが、証拠はあるのか?私を捕まえたければ証拠を出せ!』とか言われてしまうのです!しかし、そこで私は不敵に笑いこう言うのです。『わかりました、それでは証拠をお見せしましょう!』と」


「……」


 アネットは既にツッコム気力も無く、ログアウト状態だった。


 が、逆にマリーは話に熱が篭ってきたのか、手を握りしめたり、ジェスチャーまで交えたりしている。


「そこで頑張って探してきた証人である、事件当時の『庭師』を連れてくる訳です」


「え?庭師?」


 と、ここでマリーの話が急にまとも?な感じになったので、再びアネットが、ログインした。


「はい、実はフィリップに指示をされ、よくわからないまま石像に細工をさせられた庭師のお爺さんがいたのです」


 と、マリーが得意げに言った。


「へぇー、凄いわね!なんか本当に火○サスペンス劇場みたい」


 アネットはよく分からない謎の例えをしながら感心した。


「で、小賢しいフィリップは当然、この庭師の口封じを考えます。そして、その後彼は滝壺に突き落とされてしまったのです」


「へー」


「が、しかし!詰めの甘いフィリップは彼の生死を確認しなかったのです!そして、なんと奇跡的に庭師は生きていたのです。その彼を今回、私は頑張って見つけました!」


「ええ!?凄いじゃない!」


 アネットは素直に感心した。


「はい、私も暗部も頑張りました。と、これで推理ショーの準備は整った訳ですが、でも……」


 しかし、そこでマリーのテンションが急に下がった。


「でも?」


「でもそこで、作者が急遽予定を変更して、『私の闇堕ち魔王化イベント』を入れてしまった為、推理ショーのパートは無くなり、そして……」


 そこでマリーは気まずそうな顔になって、言い淀み……。


「そして?」


「庭師の彼の出番が無くなってしまったのです……」


 と、今度は申し訳なさそうに言った。


「……色々と切ないわね」


 アネットは微妙な顔をしながら、それだけ呟いた。


「はい。あと実は……庭師のお爺さんは今日の朝から別室でスタンバイしているのです」


「マジ!?」


 流石のアネットも、衝撃の事実に目を剥いた。


「はい、というか今も近くの部屋でお茶飲んで待ってます……」


 マリーはいたたまれなくなったのか、目を伏せながら言った。


「うわぁ……可哀想」


「でも、もう本当に出番がないのですよ……可哀想ですが仕方ありません、レオニー!」


 マリーはそこで覚悟を決め、最近影が薄いレオニーを呼んだ。


「はっ!」


 そこで今までこの空間にいた筈なのに全く出番がなかったレオニーは、彼女の呼びかけにすぐさま反応した。


 しかし、そんな彼女に対する言葉は、


「貴方、大してセリフもなく、いてもいなくても変わらないんだから、少し働いて貰います」


「……」


 レオニーは顔を引き攣らせた。


「今から庭師のお爺さんに、もう出番はないから帰っていい、と伝えてきてちょうだい」


「……」


「あ、お詫びにお車代は多めに渡してあげてね?あと、菓子折りも」


「……はい」


 露骨に嫌そうな顔をするレオニーを見たマリーは、


「いいじゃない!このパートの主役は私たちチーム『マリアネ』なんだから!どうせ貴方なんて、いてもいなくても変わらないんです!さあ、行った行った!」


 と、捲し立てた。


「……畏まりました」


 レオニーにしては非常に珍しいことに、主人の命令に対してこれ以上ないぐらいに不満そうな顔をした後、去っていった。


 そして、マリーはそれを見送った後、


「さてと、これでもう『あの事件』の真相とか犯人当てパートとかは終りにして、次に行きましょうか!」


 笑顔で身も蓋もないことを言い出した。


「ええ!?魔王化するきっかけになるぐらい重要なイベントだったのに、これで終わりなの!?」


 それにアネットが本日、何度目かわからないツッコミを入れた。


「アネット、人間過去に拘っていてはいけませんよ」


 そんな彼女にマリーはちょっといい事言いました、みたいな顔でそう告げた。


「マリー、アンタねえ……」


 げんなりした顔のアネットがそう呟くが、


「はい、では次です!姉萌え変態王子のフィリップとルビオンの関係について、真面目に尋問を始めましょう!」


 マリーはスルーだ。


「はいはい、もう何でもいいわ……」

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