第92話「少女の皮を被った化け物⑧」
「それはそれは……大変申し訳ございませんでした、マリー様。自首致しましょうか?」
「「「!?」」」
声に驚いた三人が慌てて振り返ると、そこにはいる筈のないレオニーが恐ろしい笑顔で立っていた。
「な、なぜ貴方がここに!?」
マリーが珍しく動揺しながらレオニーに問うと、
「マクシミリアン様のご帰還をお知らせする為に先行致しました。殿下は一時間後に帰還される予定でございます」
彼女は恭しく答えた。
「そ、そう。ご苦労様……」
マリーは何と言っていいか分からず、取り敢えず引き攣った笑みで、彼女に労いの言葉を掛けた。
そして、これからどうやって話を有耶無耶にして生き残ろうかと、彼女が必死に考えているとレオニーが無慈悲に言った。
「それでマリー様、先程のお話の内容ですが……私の身体はそんなに『エロい』のですか?」
「あ、ええっと……その……」
マリーは目を泳がせ、嫌な汗をダラダラと流しながら言葉に詰った。
「そうなのですね?」
レオニーが容赦なく回答を迫る。
「ええ、そう、思い、ます……」
そして遂に、マリーが恐怖に負けて事実を認めた。
驚くべきことに、暗部を組織の親玉であり、先程のフィリップ戦であれだけ大暴れした彼女が、恐怖に負けたのである。
「左様でございますか……ふむ」
それを聞いたレオニーは頬に手を当てて、何やら考え始めた。
彼女のそんな姿を見たマリ・アネ・リゼの三人は戦慄し、その場でヒソヒソと生き残る為の相談を始めた。
(ちょっと王女様!あれ絶対、どんな方法でアタシ達を殺そうか考えてるわよ!?)
(ひぃ、間違いありません〜)
(分かってますよ!今生き残る方法を考えて……)
(ああ!もうダメだわ!……そうだ!リゼット、貴方今から不意打ちして、あの殺し屋メイドを倒しなさいよ!)
(はいぃ!?何をバカなことを言っているのですかぁ!?レオニー様が相手では私が百人いても不可能ですぅ!)
(マジ!?あれそんなに強いの!?)
(はいぃ、レオニー様を正面から倒せるのは多分、セシル様だけなのですぅ。因みにアネット様では千人いても返り討ちですぅ)
(あの強さといい、あの美しさといい……アレは本当に人間なの?未来からきた殺人アンドロイドとかじゃないの!?)
(一応、人間だとは思いますぅ……多分)
(ちょっと二人とも!下らないことを言ってないで前を見て下さい!レオニーがこっちを見ましたよ!?)
(ああ、もうダメなのね……)
(お終いなのですぅ……)
咄嗟に死を覚悟した三人だが、レオニーから出たのは意外なセリフだった。
「皆さん、私はアンドロイドではありませんし、殺したりもしませんからご安心を」
「「「聞かれてた!?」」」
が、レオニーはそんな彼女達の反応に構わず、そのまま話を続ける。
「ところで、つかぬことをお聞きしますが、先程のお話からすると私は、女性として男性から見ると、それなりに魅力がある、ということで間違いないのでしょうか?」
意外過ぎる問いに三人は大いに困惑しつつも、死にたくないので一生懸命にレオニーをヨイショし始める。
「え、え!?あ、そうよ!間違いなく魅力的ですよ!貴方は最強です!」
「ええ!アタシが保証するわ!どんな男だってイチコロよ!ねえ、リゼット!?」
「は、はいぃ!男の人に対してはぁ、絶対的な強さをお持ちですぅ」
そして、彼女達は慌てて微妙によく分からない持ち上げ方をしながら、必死に答えたのだった。
「なるほど……因みにその男性の括りにマクシミリアン殿下も含まれるのでしょうか?」
が、続いてレオニーの口から出てきたのはこれまた意外なセリフだった。
「え?お、お義兄様ですか?ええ、当然含まれますよ……ってまさか貴方!そのエロい身体でお義兄様を誘惑する気じゃないでしょうね!?」
と、ここで漸く普段の傲慢さを取り戻したマリーが、興奮気味にレオニーに食ってかかるが、
「ああ!これは生まれて初めて神に感謝しなければいけませんね!」
彼女はそれをスルーし、いきなりそんな似合わないセリフを呟いた。
「「「!?」」」
マリー達は驚愕し、そしてそんなレオニーに恐怖を感じた。
と、そこでレオニーは急に雰囲気が変わり、
「と、それはそれとして。マリー様、今のお言葉は聞き捨てなりません。幾ら貴方様でも言っていい事と悪いことがあります」
今度は明らかに怒気を孕んだ声で、マリーに向かって言った。
「は?え、えーと、どのセリフのことかしら?」
漸く勢いを取り戻したマリーは、突然レオニーの雰囲気が豹変したことに驚き、再び弱腰に戻ってしまった。
「何をいうのですか!私如きが殿下を誘惑する、と言われたことです!」
「え?え?」
「マリー様ともあろうお方が、殿下を侮辱するのですか!?」
「は?意味が……」
マリーにはまるで意味がわからない。
「崇高なるマクシミリアン殿下は、私の身体を嫌らしい目で見たことなど一度もありません!他の低俗で下劣な男共と、あの方を同列に語るなど言語道断です!」
「……そ、そう。それは私が悪かった?のかしら……」
話が超展開し、流石のマリーも頭が付いていかない。
が、取り敢えず三人が思ったことは、
(((こいつヤバい、早く何とかしないと……)))
だった。
「はい。分かって頂ければいいのです」
マリーの反応を見て、レオニーはそこで漸く納得したようだった。
「……」
そして、語り出した。
「それにしても、殿下は素晴らしいです。あのお方こそ、わたしが全てを捧げるのに相応しい高潔なお方です。……ですが、万が一、億が一、兆が一、殿下がお望みとあらば、我が身を喜んで差し出す所存ではありますが……おっと喋り過ぎてしまいました」
彼女は本当に珍しく感情を剥き出しにして、昂然とした表情で話し続けた。
「「「……」」」
それを見ていた三人は、余りのヤバさにドン引きである。
「あ、ところでマリー様……」
と、そこでレオニーは急に何かを思い出したのか、先程とは打って変わり、居住まいを正して真面目な顔でマリーに話始めた。
「コホン。実はマリー様、お伝えしたいことがあるのですが……」
それを聞いたマリーもまたシリアスな表情になり、そして……、
「却下」
内容を聞きもせず、そう言い放った。
「あの、まだ何も言っていないのですが……」
そこで初めてレオニーは困惑顔になった。
が、反対にマリーは苦笑しながら続ける。
「そんなの顔を見れば分かりますよ。今の貴方、女の顔をしていますし」
「は?それは、どういう……」
レオニーは更に困惑しながら彼女に問うが、
「兎に角、暗部を辞めるなんて許しません。今は貴方が必要なのです」
マリーはそれには答えず、キッパリとそう言ったのだった。
「……」
「それにもし、暗部を辞めるのなら自分の責任を果たしてからです。任務を完遂し、そして後継者を育てなさい」
そして、組織の長の顔になったマリーは、しかつめらしくそう告げた。
「……確かにマリーのお言葉はごもっともですが……私は覚悟を決めております。それに申し訳ありませんが、私を止められるとお思いですか?」
が、マリーはその言葉に動じず、そのまま苦笑しながら答えた。
「まあまあ、少し落ち着いて。そして話を最後まで聞きなさい」
「……」
「これから話す内容を聞いたら、絶対に納得するから」
「分かりました……それで、その内容とは?」
「まあまあ、焦らない焦らない。それは今からあの男に聞く内容と合わせて、もうすぐ分かりますから。少しだけお待ちなさいな」
「……はい」
マリーの言葉を聞いたレオニーは、そこで渋々納得し、引き下がった。
彼女はそんなレオニーを見てクスリと笑った後、今度はニヤリと凶悪な感じに口元を歪ませ、呟いた。
「さあ、移動しましょうか。悪役王子の断罪の場へ」
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