第71話「断捨離作戦①」

「では本作戦についてブリーフィングを始める」


 私の声で深夜の会議室に集まった面々は居住まいを正した。


 今、王宮の会議室には『断捨離作戦』実行前の最後の打ち合わせの為に、レオニー達暗部、近衛兵等の軍、それに関係省庁の官僚等が集まっていた。


 実はこの度、ようやく作戦の下準備が終わり、作戦実行のXデーを迎えることができたのだ。


 いやー、長かったような、短かったような。


 思い返せば婚約破棄と必死の言い訳から、期間にして一ヶ月も経っていないのに、随分と色々なことがあったものだなぁ。


 本当に大変な日々だったが、それももうすぐ終わりだ。


 何故なら今からそれらの総仕上げをするのだから。


 夜明けと共に『断捨離作戦』を発動、悪徳貴族共を一網打尽にして、ミッションコンプリートだ。


 因みに領地の接収や財産の没収などの時間が掛かる作業は、父上と宰相達が引き継ぐ手筈になっている。


 なんたって、私はもうすぐ王子ではなくなるのだからな!


 つまり、この作戦が終わればその先には廃嫡、そして自由で豊かなスローライフが私を待っているのだ!


 うぉー!待ってろよー!スローライフー!


 絶対廃嫡されてやるからなー!


 と、心の中で某通信教育のCMの如く叫んだところで、そろそろ現実に戻るとしようか。


 私は近づく明るい未来にニヤつきそうになるのを我慢しながら、何とかしかつめらしい顔を作ると、壇上で説明を始めた。


「では諸君、作戦の最終確認を行う。これまで諸君らの不断の努力によって、不正を働いていると思われる貴族達のリストアップ及び情報収集を終わらせることができた。それらを踏まえて、不正の確証を掴めた貴族達を今から摘発、捕縛する」


 皆、真剣な表情で頷いている。


 因みにリストアップの調査の段階で、実は無実だった貴族もいた。


 その中の一人は私に『木彫りの白熊』を贈ってくれた奴だった。


 確かに中に金が入っていたりした訳では無かったからな。


 因みに熊を贈ってきた理由は、何でもお抱えの占い師によって見えた未来があの彫刻の姿なのだとか。


 正直、意味がわからない。


 まあ、善意で贈ってくれたのだから別にいいが、何故に白熊と鮭?


 まあ、いいか。


 話を続けよう。


「その方法だが、まず我が方の人員を大きく二つに分ける。一つ目のグループをAグループ、もう一つをBグループとする。Aグループは貴族達の各領地にあるマナーハウスに踏み込む担当、Bグループは王都にある貴族達のタウンハウスに踏み込む担当だ。ここまではいいだろうか?」


 そう、面倒なことに貴族達も所在地がバラバラなのだ。


 本当なら社交界シーズンまで待って、全員が王都へ出てきたところで動きたいのだが、残念ながらそんな時間はない。


「「「はい!」」」


 よし、続けよう。


「よし、いいな。それで各グループはさらに小さなグループに別れ、それぞれ担当の貴族の屋敷に、所定の時刻に踏み込む」


 これは可能な限り各現場で同時に突入を開始する為だ。


 何故なら、バラバラに突入すると敵に察知されて、突入が遅くなった対象に逃げられる可能性があるからだ。


 ただ、 残念ながらAグループでは範囲が広過ぎるので、数件ずつ梯子することになってしまったグループもある。


「そして、何事も無く、無事に対象の貴族を捕縛出来ればそれで良し。だが……」


 そう、問題は捕縛出来なかった場合だ。


「もし、抵抗するようなら例え相手が貴族でも容赦はするな。躊躇なく斬れ。まずは諸君の身の安全が第一だ。くれぐれもその点に留意するように」


 そう、ここで君たちのことを大事にしているよ?というアピールをして、士気の向上だ。


「「「はい!」」」


 うん、やる気に満ち溢れているな。


 あ、そうだ、あれに一応釘を刺しておかないと。


 さもないと現場がR指定のホラー映画のようになりかねない。


「あと、一応言っておく。逆に全く抵抗していないのに皆殺しにしたりしないこと。特に誰が、とは言わないが」


 と、言いつつ赤騎士に視線を向けてみたり。


 それに合わせて自然と赤騎士に皆の視線が集まる。


 じとー。


「し、失礼な!私はそんな血に飢えた獣ではありませんよ!」


 赤騎士本人は否定しているが、どう考えてもダウトだろう。


 残念ながら全く説得力はない。


 それを裏付けるように被害者の会、改めレオニーや近衛歩兵達の誰もその言葉を信じてはいない。


 まあ、自業自得だな。


 うん、次に行こう。


「また、もし対象の貴族の戦力がこちらを明らかに上回っている場合、突入を保留し、応援を要請すること」


 そう、手柄を焦って無理は禁物だ。


 返り討ちにされたりしたら目もあてられないからな。


「なお、Aグループについては私が同行して直接指揮を執り、Bグループは王都衛兵司令が指揮を執る、以上だ。質問はないか?」


 そこで全体を見回すが、質問はないようだ。


「よし、Aグループは下の広場に集合、Bグループはこのまま待機。では諸君、健闘を祈る!解散!」


 私は話し終えるとそのまま集合場所へ向かった。


 さあ、いよいよ作戦開始だ。



 と、勇んでマクシミリアンや、レオニーその他のAグループのメンバーが退出したところで残ったBグループの長である王都衛兵司令が壇上に立った。


「注目!諸君、只今から本作戦Bグループの指揮は王都衛兵司令である私……ではなく、マリー=テレーズ殿下が直々に指揮を執られる!」


「「「!?」」」

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