第47話「悪役令嬢爆誕 その後①」

「セシル様の名を語る不届き者め!皆、この女を捉えよ!」


 突然、静謐な宮殿の廊下に物騒な台詞が響き渡った。


 衛兵の一人が鋭く叫び、対象の人物を囲んでいた他の衛兵達が剣を構えてジリジリと近づく。


「だから、セシルは私だと先程から言っているでしょう」


 衛兵達に囲まれているその女はやれやれ、と言う感じで一応弁明を試みるが、


「お前のような厚化粧の金髪ドリル女がセシル様の筈がない!」


「あの方は我々のような者にも声を掛けて下さるような優しい心をお持ちの素晴らしい方だ、その名を騙るとは許さんぞ!」


「偽物め!セシル様はお前とは違い清純なお方だ。!この厚化粧の貧乳め!」


 彼らは全く聞く耳を持たないばかりか、本人に向かって一番マズいことを叫んでしまう。


「なっ!誰が貧乳ですか!……皆さんのことは嫌いではありませんでしたが、もう我慢の限界です。死になさい!」


 女はそう言い放つと、近くの展示用の甲冑から剣を引き抜き、構えた。


 そして、一閃。


————————————————————


 時は少し遡り、今はセシルがサロンに令嬢達を集めて独裁宣言をした少し後。


「エリーズ」


「はい、セシル様」


 近くで親衛隊の面々と後片付けをしていたエリーズをセシルが呼んだ。


「今日はこれで解散とするわ」


「畏まりました」


 解散を宣言したセシルにエリーズは恭しく従う。


「皆には、ご苦労様、今日は助かったわ、と伝えてくれるかしら?」


「はい」


「後は後日、殴り込み成功の祝勝会もしたいわね。手配を頼める?」


 セシルは一仕事終えた後の爽やかな笑顔で、協力してくれた親衛隊への礼と物騒な名前の宴をエリーズに頼んだ。


「殴り込み……はい、セシル様」


 引きつった笑みでエリーズは返事を返す。


「ありがとう。では、アタクシはこれで失礼するわ」


 エリーズに後を任せたセシルは、早々に移動しようとするが。


「セシル様、どちらへ?よろしければお供し致しますが」


「気持ちだけで結構よエリーズ。大した用事ではないから。では、ご機嫌よう」


 殊勝なエリーズは、今日のセシルをこのままリリースしては危険だと判断し、同行を申し出たが珍しく断られてしまった。


「「ご機嫌よう、セシル様」」


 恭しくセシルを見送ったエリーズと、リアーヌだが、


「おい、エリーズ。何の用事か知らねーけどセシル様一人で大丈夫かな?」


「何を言っているのリアーヌ。大丈夫じゃなさそうだから私が同行を申し出たのよ。断られてしまったけど」


「「……」」


 一方セシルはそんな腹心二人の心配をよそに、彼女達に別れを告げて一人目的の場所へと向かっていた。


「今日は大きな戦果を挙げられて嬉しい限りですが、その分疲れたので早く癒しが欲しいところですね」


 などと、独り言を言いながら。


 そして、いよいよ目当ての場所に近づいた、その時だった。


「あ、そこのご令嬢!申し訳ありませんが、この先は王族と第一王子様の婚約者セシル様しか通れません」


 セシルは衛兵に止められてしまった。


「これは衛兵さん、ご機嫌よう。いつもお仕事ご苦労様。では、先を急ぎますので」


 そう言って当然のようにセシルは先に進もうとしたが、


「お待ち下さい!話をお聞きになったでしょう、この先は王族と……」


 何故か止められてしまった。


「ええ、ですから何か問題が?」


「な、我らを愚弄されるか!」


「え?何故そうなるのですか、アタクシはまだリアン様の婚約者の筈ですが」


「は?何を意味が分からないことを!」


 それを聞いた衛兵は訳が分からないという様子だ。


「え?」


 そしてセシルも訳が分からない。


 (困りました、今日に限って衛兵さんに話が通じません。しかし、なぜ?)


「殿下の婚約者はセシル様の筈です!新しい婚約者ができたなどの話は聞いておりません」


「そんなものいてたまりますか!そうではなくて、アタクシはここにいるでしょうが!」


「は?……ええっと……」


(なんだか話が通じませんね、これは一体……ああ!なるほど!アタクシが誰か分かりませんのね!)


 セシルは漸く原因に気付いた。


(確かに、このメイクでは殿方に分かり辛かったかもしれないわね。でも、これで問題は解決です!)


「ああ、分かりにくくてごめんなさいね。アタクシがセシル=スービーズですわ」


「なっ!」


 (衛兵さんは驚いたようですが、これで分かってくるはず……

あら、何だか顔が見る見る真っ赤に)


「くっ、もう我慢ならん!散々訳の分からないことを言った上に、セシル様の名を騙るとは!」


(ああ、何故か余計に怒ってしまいました……)


「だからアタクシがセシル本人ですわ!」


「いい加減にしろ!話は別室で聞かせて貰おうか!曲者だ!であえ、であえー!」


 更に怒った衛兵は仲間を呼んだ。


「どうした!?」


 そして、あっという間に五人ほど応援の衛兵が現れた。


「ああ、面倒なことに……」


 セシルはげんなりした。


 そして、話は冒頭に戻る。


「「「ぐあああぁぁぁ!!」」」


 床にはセシルによって気絶させられた衛兵達が転がっている。


「また、つまらぬものを斬ってしまいました。さて、剣を元に戻して……これでよし!さあ、参りましょうか」


 邪魔者を排除したセシルは、意気揚々と目当ての部屋に向かった。


 そして、目的の場所に到着し、ゆっくりとドアを開けた。


 現在、部屋の主はある事情によって不在の為、中には誰もいない。


 セシルは後ろ手でドアを閉め、いよいよ目当ての物に迫る。


「漸く、漸くこれを手に入れることができました。くく、これさえあれば私は後10年は戦えます!」


 彼女は目当てのブツをゆっくりと、大事そうに手に取り、そして……抱きしめ、顔を埋めた。


「すーはー、すーはー、キャー!リアン様の匂いがします!ああ、癒されます!幸せです!疲れが飛んでいきます!」


 セシルはその枕を顔に押し当て何度も深呼吸し、嬉しさを抑えられずそのままリアンのベッドに倒れ込みゴロゴロと転がった。


「最近、リアン様と全く会えていませんから、たまりません!やはりリアン様成分が不足していると怒りっぽくなってしまってダメだわ。今日のロザなんとかさんにはちょっとだけやり過ぎた気がしますし」


 そう、実はセシルの目当てはリアンの枕。


 最近、愛するリアンに全く会えなかった為、彼女が言うところのリアン様成分が不足し、その補給の為に彼の寝室に押し入ったのだ。


「ああ、最高です!身体中に染み渡ります!ですが、ここに長居はできませんから、枕を回収して後は、自宅で堪能するとしましょうか」


 取り敢えず、引き上げることにしたセシルは枕を抱えてベッドを離れようとしたその時、


 バンッ!


 と、扉が乱暴に開かれ、そこには王女マリー=テレーズが立っていた。


 そして、開口一番、


「そこまでです!セシル姉様!」


————————————————————


 皆様こんにちは、作者のにゃんパンダです。


 いつも本作をご愛読頂きまして、誠にありがとうございます。


 本日はお知らせが、二つあります。


 一つ目、現在この作品を毎日更新していますが、ストックと執筆速度の関係で、それが限界になりました。毎日楽しみにして頂いている皆様には大変申し訳ありませんが、日曜日まで投稿した後、来週からは週に二、三話の投稿となります。


 二つ目、タイトルの一部変更を考えています。全て未熟で適当な私が悪いのですが、当初のプロットから内容が変わってきてしまい、タイトル「そうだ、王子辞めよう!〜婚約破棄(する側!?)から始まる世界最強の商社〜」の「世界最強の商社」の部分が自分でしっくりこなくなってしまいました。


 ですので、この部分の変更を考えております。今のところ、「そうだ、王子辞めよう!〜婚約破棄(する側!?)から始まる転職活動〜無能な王子は廃嫡を望む」(仮)のような感じで考えていまして、近々変更するかもしれません。

 

 ただ、私はどうもこの辺りのセンスがないので、もし宜しければ、ダサい、微妙、変えるな、等皆様のご意見、アドバイス等を頂ければ有り難いです。


 本日も本作をお読み頂き、ありがとうございました。

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