第48話「悪役令嬢爆誕 その後②」
「そこまでです!セシル姉様!」
全く、油断も隙もあったものではありません!
あ、皆さま、どうもマリーです。
忙しいので以下略です。
さて、今の状況ですが、力尽くでリアンお義兄様の寝室に押し入った白熊ニートこと、セシル姉様が枕を強奪する現場を押さえたところです。
危ないところでした。
危うく獲物を横取りされるところでしたよ。
ブツは私のものです。
私だって、姉様と同じでお義兄様成分が足りないのです。
実は私も姉様と同じで、今まで全くリアンお義兄様を理解出来ていなかったことを反省し、自分への罰としてリアンお義兄様にお会いしていないのです。
しかも、お義兄様は表向き謹慎中で、面会謝絶ですし余計に会う訳にはいきません。
正直、これはキツいです。
想像以上の苦行です。
お義兄様は私の全てですから……。
とまあ、こんな感じで私も姉様と同じことを考えてこの部屋にやってきたのですが、運良くギリギリで間に合ったようです。
しかし、ここからどうしたものでしょうか。
と言うか、その前に今日はセシル姉様がやらかしてくれたお陰で色々大変だったのですよ!
少し聞いて頂けませんか。
事の始まりは、数日前にセシル姉様から一通の手紙が届いたところからでした。
内容は反セシル派閥の幹部やリーダーの身辺調査の依頼でした。
まあ、これらの情報は元々持っていましたからすぐに準備してお渡しました。
セシル姉様に貸しも作れますし。
そう、その時は特に深く考えていなかったのです。
まさか、こんなことになるとは……。
私は今日、仕事部屋で普段通りお仕事をしていたのですが、そこに立て続けにある報告が入ってきました。
なんでも、宮殿内で令嬢が多数気絶して倒れているとか。
そして、続報でサロンのドアが破壊されたと言う報告が来ました。
これらを何かの事件かと思い、仕事そっちのけで救護と情報収集に当たった為、かなり時間が潰れてしまいました。
お陰で残業決定です!
そして、その元凶が今、目の前にいる女です。
この厚化粧の貧乳です。
確認したところでは、宮殿の玄関からサロンまでこの白熊ニートの所為で、死屍累々でした。
おまけに、私が提供した情報を使って社交界のパワーバランスをぶち壊し、独裁宣言までしたと言うではありませんか!
で、更に困ったのがこういう時に頼りになるはずの、上の世代のご婦人方がセシル姉様を止めてくれなかったことです。
普通はそんなヤバい令嬢が出てきたら止める、と言うか潰されます。
今回も当然そうなのかと思いきや、思惑が盛大にはずれてしまったのです。
何と、セシル姉様を野放しです。
あり得ません。
因みにご婦人方の反応は大きく分けて二種類でした。
まず一つ目が狂喜するパターン。
「キャー!ナディア様よ!ナディア様がいらっしゃるわ!」
「私、ナディア様をお慕いしていたの!」
「え?あれセシル様なの?流石、娘だけあって瓜二つだわ!最高ね!触ってもいいかしら!?」
「セシルちゃん可愛いわねぇ、ナディアちゃんもツンツンしていて可愛かったけど、セシルちゃんも尖ってるわねぇ、微笑ましいわ!」
などなど、ナディア様を現役で知っている世代はセシル姉様を見て喜んだり、温かい目で見守ったり、ハァハァしていました。
まあ、よく分かりませんがアイドルが復活した感じですかね。
もう一つは、悪役令嬢ルックのセシル姉様を見てトラウマが再発するパターンです。
これは主に虐めや嫌がらせ等をしてナディア様にしばき倒された人達でした。
一目姉様を見た瞬間、その場でトラウマが再発して意識を失って運ばれるか、一目散に逃げ出すか、だったようです。
つまり結論として誰も何もしてくれませんでした。
全く、役に立たないオバハン達です。
ああ、頭痛が……。
後で腹いせに絶対、金額増し増しでドアの請求書をスービーズ家に送りつけてやります!
と、言う感じで私は疲れ果て、癒しを求めてリアンお義兄様のお部屋にやってきたのですが……。
ここで冒頭に戻ります。
「あら、マリー。こんなところで奇遇ね?どうしたの?」
全ての元凶である姉様が平然と問うてきます。
このアマ……。
「今、お姉様がお持ちのそれを頂きに来たのですが」
「そう、残念だったわね」
さらりと、悪びれもせずに言われました。
ぐぬぬ、白々しい!許すまじです!
さて、既に枕はセシル姉様の腕の中にあり、非力な私では奪還はほぼ不可能。
一体どうしたものか、私も何とか癒しグッズを確保したいのですが。
考えるのよマリー!こんな脳筋女に負けちゃダメよ!と心が叫んでいます。
とは言え、枕は物理的にどうしようも無いですし……ここは諦めるしか無いですかね……。
ん?諦める?……そうだ!諦めましょう!
私としたことが、何故そんな簡単なことに気づかなかったのでしょうか!
私には、私の戦い方があるのです!
「お姉様、その枕ですが」
「あげないわよ?」
姉様はこれは絶対に渡さないとばかりにぎゅっと抱きしめました。
ちょっと可愛いのがイラッとしますね!
ですが、私は動じません。
「ええ、結構です。それはお譲りします」
「そう、素直なのは良いことね」
「その代わり、お約束して欲しいのです」
「約束?」
「はい、それ以外のものは私が好きにする、と。」
「え?何かありそうね……」
流石に疑ってきますね、ですが。
「姉様、今回の情報提供で私は姉様に貸しがあった筈ですわよね?ですから、ここで返して頂きたいのです」
「それが、今?」
「はい、そうです」
やはり、何事もタイミングが重要です。
「そう、それなら構わないけど、そんなことでいいの?」
やりました、白熊が罠にかかりました!
「ククク、姉様、今承諾しましたね?もう取り消しは出来ませんよ?」
「ええ」
「フッ、では私は……シーツを頂いていきます!」
そう、これこそが私の一手。
枕がダメならシーツがあるじゃない!作戦!!
「なっ!……やられた!くっ、この小悪魔め!」
悔しがった姉様が何か言っていますが、スルーして私はその隙にシーツを確保し、撤退することにしました。
「残念でしたわね、お姉様。でも約束ですから。ご機嫌よう」
こうして私は手に入れた極上の癒しグッズを手に悠々と引き上げたのでした。
あ、そうそう、一つ忘れるところでした。
私はちょうど近くにいた衛兵に言いました。
「大変!リアンお義兄様のお部屋が襲われているわ!犯人は厚化粧で貧乳の女よ!」
———————————————
ああ、平和って素晴らしい。
あ、皆様どうも、皇太子改め社畜のマクシミリアンです。
私は現在、離宮にあるオフィスで順調に各課題を進めているところです。
若干、オーバーワーク気味ではありますが、部下達も先日の飲み会から団結してよく頑張ってくれていて、ようやく希望が見えてきました。
さっきまで次の課題、「断捨離作戦」に向けて打ち合わせをしていたのですが、今終わったところです。
私は、解散を告げ、ミーティングスペースから、途中で珈琲を持ちながらデスクに戻りました。
そして私は珈琲片手に束の間の休息です。
芳しい珈琲の香りと、窓から広がる美しい庭園と噴水を眺めながら寛ぎかけた、その瞬間でした。
「殿下!ご無事ですか!?」
突然、野太い叫びと共に、筋肉盛り盛りマッチョマンの暑苦しい近衛歩兵が飛び込んで来ました。
ブッ!と驚いて吹き出した珈琲を急いで拭った後、私はその恨みを込めて彼に鋭く何事か問いただしました。
「何事だ!」
ぬっ殺すぞ!
自分で言うのもあれですが、今のは結構迫力があったんじゃないかなぁ、と思います。
「も、申し訳ありません殿下!緊急事態ですので!」
私の詰問に兵士は一瞬怯みかけましたが、直ぐに職務を思い出したようです。
「それで?」
取り敢えず、先を促しました。
「はっ!先程、殿下の私室が何者かの襲撃を受け、警備の一個分隊が壊滅し、枕とシーツが奪われました!」
「何!?」
なんだ!?テロか?クーデターか?
何それ超怖い!
あと、枕?シーツ?
「犯人は?」
「不明です。ただ、やられた衛兵の一人がうわ言のように、貧乳、厚化粧、と繰り返すしております」
「は?」
意味が分からないのですが。
「つきましては安全が確保出来るまで殿下の警備を強化致します!」
それと同時にフルプレートの鎧を着込み、シールドまで持った完全武装の兵士達がオフィスに雪崩れ込んで来た。
「!?」
おい!ちょっと待て!
「陛下より、警備を万全にせよ、との御達しですのでお側で警戒に当たります!」
ふざけるな、この脳筋めが!暑苦しいわ!
お陰で部屋は朝の通勤電車もかくや、と言う具合にパンパンです。
暑苦しいわ、ゴツい装備の類が資料の山を倒すわで、オフィスは阿鼻叫喚……。
とても仕事どころではありません。
「ああ、今日も残業決定か……勘弁してくれ」
全く、誰か知らないが恨むぞ、犯人。
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