第38話「悪役令嬢爆誕②」
これは哀れなモブ令嬢に厄災が降り掛かる少し前の話。
悪役令嬢セシルが誕生した時のことである。
ここは折角なので、本人の口から語って貰うとしよう。
ー ー ー ー ー
皆様、ご機嫌よう。
ランスの白熊ことセシルです。
あ、失礼、白百合の間違でした。
(私ったら何でこんな間違いをしてしまったのでしょうか?不思議です)
さて、私は今とても悩んでいます。
それは「自由」について。
先日、愛するリアン様のお話を聞いた際に、自由と言うことをおっしゃっていました。
そこで私も、自由に生きるわ!と心に決めたのですが……。
さあ、問題はここからです。
では、私にとっての「自由」とは何でしょう?
また「自由に生きる」とは一体どういうことなのでしょうか?
困りました。
今までは私は貴族として決められた道をただただ、ひたすらに走ってきました。
まず最高位の貴族の一人娘として相応しい振舞いを求められ、ついで皇太子殿下の婚約者として、そして最終的にランス王国の未来の王妃としてのそれを求められ、自分で考えうる限り最大限の努力をしながら。
死ぬほど大変でしたが、あくまで決まった道を走るだけでしたので、余計なことを考える必要はありませんでした。
ですが、逆に言えばそれ以外のことなど考えたこともなく、急に自由と言われても困ってしまう訳です。
つまり、そう言う事です。
さあ、どうしたものでしょうか。
実は、カーテンからリアン様のお話を聞いたり、アネットに拳をお見舞いしてから既に数日の間、悩んでおりますの。
今もスービーズ公爵邸の自室の窓辺で、この命題に取り組んでいるのですが、中々しっくり来る答えが見つかりません。
はぁ、自由というのは言葉で言うのは簡単ですが、実際に行動するとなると難しいものですわね。
困ったことに、リアン様に相談することも出来ませんし。
そう私は今、リアン様に会うことが出来ません。
何故ならこれは自分への罰だから。
リアン様の気持ちを全く理解出来ず、彼を傷付けてしまった自分への罰として、あえて私がフィリップ様を慕っていると言う誤解を解かず、そして暫くリアン様との接触を控えようと決めたのです。
残念ながら今の自分には彼の側にいる資格はありませんから……。
それに加えてリアン様は現在、表向きは今までの放蕩が目に余る、と言うことで謹慎中で、しかも面会謝絶なのです。
ですから、どのみち安易に会いに行く訳にはいかないのです。
ああ、辛いわ!一瞬でもいいからリアン様にお会いしたいわ!
もう3日もお姿を拝見出来ていないなんて……気が狂いそうですわ!
これは何か考え無ければ、禁断症状が出そうです!
あ、そう言えばリアン様は、今は離宮で「計画」の陣頭指揮を取られていて、寝泊りもそちらですから、自室は空なんですよね。
後で、押し入ろう……では無くて伺おうかしら?
などと物思いに耽っていると、ノックと共にメイドが来客を告げに来ました。
あら?そんな予定は無かったのだけれど、どなたでしょうか?
ですが、メイドはお客様が誰か教えてくれませんでした。
彼女は、知らない方がいいこともあるのですよ、と悪戯っぽく笑いながら出て行きました。
それから自室でお客様を待つ事数分、突然ドアが弾けるように開き大勢の令嬢達が雪崩れ込んで来ました。
これには私もびっくりです。
「「「セシル様!」」」
「お加減はいかがですか!?」
「お見舞いに伺いました!」
「セシル様の事が心配で心配で……」
「セシル様、愛していますわ!」
「セシル様がフリーになったと言うのは本当ですの!?」
「ハァハァ、今日の下着は何色ですか!?」
などなど、私を心配して訪ねてきてくれた娘達が声を掛けてくれました。
一部、変なのが混ざっていた気がしますが気のせいでしょう……。
兎に角、お客様とは私を普段から慕ってくれている娘達でした。
私にそんなつもりはありませんが、俗な言い方をすれば「セシル派閥」、通称「親衛隊」のメンバーの皆さんです。
どうやら、婚約破棄騒動で私がダメージを受けたことを聞き付け、心配して駆けつけてくれたようです。
ああ、なんて良い娘達なんでしょうか。
「皆さん、ご機嫌よう。今日はわざわざ私の為にありがとう。私、本当に嬉しいわ」
「そんなセシル様!勿体無いお言葉ですわ。私達、親衛隊一同、セシル様の事が心配で心配で……」
エリーズが涙ながらに心配してくれています。
あ、彼女は私の派閥の(仮にここでは派閥と呼びます)リーダー的な存在です。
そして、私の補佐をしてくれるクールな参謀役でもある良い娘です。
「そうだよ姉御!あの下品な女に皆の目の前で姉御が侮辱されたって聞いてもう、居ても立ってもいられなくて皆で押し掛けちゃったよ!」
続いてリアーヌが私の代わりに怒ってくれています。
気持ちは嬉しいのですが、姉御というのはだけはやめて貰えませかね?
まるで私がならず者のリーダーみたいじゃないですか!
で、彼女も派閥のリーダー的な存在ですが、エリーズとは対照的に感情的なタイプの娘です。
弱いもの虐めが許せないなど、正義感溢れるとても良い子なのですが、その分他派閥とのトラブルが絶えず、私の仕事を増やしてしまうことが欠点です。
因みにリアーヌは私の従姉妹で、軍人家系の母方の実家ベルナール伯爵家の出ですから血の気が多いのは必然なのです。
全く、同じ血を引いている筈なのに淑やかな私と違って脳筋なのには困ったものです。
……何か言いたいことでもお有りで?
閑話休題。
「あの泥棒猫は当たり前ですが、何より許せないのはマクシミリアン殿下ですわ!セシル様をこんな目に合わせるなんて許せませんわ!」
「そうですわ!かくなる上は皆で仇討ちに……」
他にも皆さん、口々にアネットやリアン様への怒りや私を労る言葉を言ってくれています。
あと、仇討ちって……私は生きているのですが……。
と、兎に角、私は彼女達の優しさに嬉しくて泣きそうです。
ですが、リアン様への言動だけは見過ごせません。
「皆さん、お気持ちは大変嬉しいですが、殿下への不敬な言動だけは絶対に許しませんよ?」
「「「っ!」」」
あら、なんだか皆さん凍りついてしまいました。
言い方がキツかったのかしら?
「まあまあ、そう固くならないでね。私の為に怒ってくれるは凄く嬉しいのだけど、殿下のことだけはダメですよ?」
「「「はい……」」」
皆さん、しゅんとしてしまいました。
それを見たらちょっと申し訳ない気持ちになってしまいました。
なので殿下には申し訳ありませんが、彼女達には本当の事を話すそうと思います。
「実は殿下にはきちんとしたお考えがあって、その上でされたことだから大丈夫なのよ」
「「「!」」」
それを聞いた皆さん驚愕しています。
「そうなのですか!?」
「ええ、そうなのです!」
私はニッコリと微笑みながら答えました。
あと、なんだかちょっと得意げになってしまいました。
と、その時、
「失礼致します」
タイミング良くお茶が運ばれてきました。
「あら、お茶も入ったようですからちょうどいいですね、少し長くなりますから。実は……」
そして、私は彼女達に真実を話し始めました。
暫く時間が経過して、お茶が冷めた頃。
「そ、そんなことが!」
「では殿下は!?」
「全てを一人で背負い込まれて……」
「セシル様の事を愛していらっしゃるのに……こんなの悲しすぎますわ!」
あらあら、気が付けば皆さんボロボロ泣いてしまっています。
「と、まあこんな感じで私は大丈夫ですから、心配しないで下さいな」
私は彼女達を安心させる為に、微笑んで見せました。
「はい、セシル様」
納得、という感じのエリーズ。
「こ゛、こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛、姉御ぉぉぉ!殿下、実はいい奴だったんだなぁぁぁ!」
わかりましたからリアーヌ、うるさいです。
「殿下の事を悪く言ってしまい、申し訳ありませんでした……」
「「「申し訳ありませんでした!」」」
素直に謝れる良い娘ばかりで私は嬉しいです。
「皆さん、いいのよ。知らなかったのですから、仕方ありませんよ」
勿論、単純に殿下の悪口を言う輩がいれば死刑ですが。
さて、時間も時間ですしそろそろ彼女達を帰さなければ、と思ったところである事を思いつきました。
「ねえ、皆さん。最後に少しご相談があるのですけれど……」
私からこの娘達に相談することなど初めてなので、ちょっと緊張しました。
「「「はい!喜んで!」」」
彼女達は二つ返事で快諾してくれました。
一安心です。
「ではお願い致しますわ。実は……」
私は興味深々という顔の皆さんに向かって話し始めました。
「皆さんは「自由に生きる」とはどうしたらいいと思いますか?」
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