第39話「悪役令嬢爆誕③」

「皆さんは「自由に生きる」とはどうしたらいいと思いますか?」


 私は折角なので、彼女達に聞いてみようと思ったのです。


 皆さんも貴族ですから、この問いには結構悩んでいるようです。


 ですが、ありがたいことに私の為に頑張って考えてくれているようです。


 最初に答えてくれたのはエリーズでした。


「正直、私にもよく分かりません。ですが、間違いを恐れて何もしないのでは進歩がありません。ここは、虎穴に入らずんば虎子を得ず、セシル様が思う通りにやってみてはいかがですか?」


「私の思う通りに、ですか」


「はい」


 続いてリアーヌが答えました。


「俺もよくわかんないです。でもやっぱり姉御がやりたいようにやって、あとは……我慢しないってのはどうでしょう?」


「我慢しない?」


「はい、今まで姉御は沢山沢山、我慢をしてきたじゃないですか?だから、それをやめて好きにやる、もう我慢しないってのはどうでしょう?」


「なるほど」


 ふむふむ、確かに、確かに!


 いいですね!それ!


 そうよ!もう私、我慢しないわ!


 その他には、新しい自分に変わる、出来なかった事をやってみる、まずは見た目から変わってみる、お触りは別料金ですか、などの意見がありました。


 後は概ね二人と同じような意見でした。


 そして、皆さんの話を聞いた私は、


「決めたわ!私、もう我慢なんてしないわ!私が思うように、好きなように、自分勝手にやるわ!そして、責任は自分で取る。よし、決まりです!」


「「「おおー」」」


 皆さん、私が自分の意思で決めたと言うことに喜んでくれています。


 そう言えば、はっきり自分の意見を言って忖度無しで物事を決めるって久しぶりな気がします。


 今思えば、公爵令嬢やリアン様の婚約者、そして実質的な派閥の長として、調整や配慮ばかりでしたからね。


 私、もう何も怖くない!


「皆さん、今日はご協力ありがとう。助かりました」


 私は笑顔で皆にお礼を言いました。


「セシル様のお力になれるとは、感動です!」


「やったー、姉御の役に立てたぜ!」


「「「どういたしまして!」」」


 エリーズ、リアーヌを始め、令嬢達は皆、嬉しそうにそう言ってくれました。


 そして、最後にエリーズが皆を代表して言いました。


「セシル様、最後に一つだけ宜しいでしょうか?」


 おや、エリーズはまだ何かあるようですね。


「勿論、構いません」


「差し出がましいようですが、もっと私達を頼っては頂けないでしょうか?」


「頼る?私は今でも皆さんを信頼していますが……」


 皆、可愛い私の妹分ですからね。


「はい、それは皆理解しております。ですが、私達は皆、セシル様に救われた者達ばかり。貴方様の為ならば命を懸けることも厭いません。今回の婚約破棄では皆、何も出来ず、ただセシル様が傷つくところを見ているしかありませんでした。皆、悔しく、悲しいのです。ですから、もうそんなことは嫌なのです。どうか、必要があれば、少しでも出来ることがあれば、私を、いえ、私達をお使いに下さいませ、セシル様!」


「「「セシル様!」」」


 ああ、こんなに皆さんが私のことを思ってくれていたなんて……。


「ありがとうエリーズ、皆さん」


 正直、涙を堪えるのに必死でした。


 そして、皆さんは帰路につきました。


 ああ、本当にいい娘達ですね。


 後は皆さんが、良い婚約者に恵まれるといいのですが。


 私の派閥、自称親衛隊の皆さんはあんなにいい娘達なのに何故か相手がいないんですよ。


 さて、私は有言実行といきましょうか。


 翌日、早速は私は動き出しました。


 取り敢えず、皆さんが考えてくれたことを参考に実践して行こうと思います。


 まず、私が始めたことは、見た目から始めてみよう!ということ。


 メンタル的に、さあ変わろう!でパッと変われたら苦労しませんよね。


 ですからまずは出来ることから。


 とは言えどうしましょうか?


 見た目を変える……うーん、手始めにドレスの色を普段選ばないものにしてみましょうか。


 後は、メイクと髪型も。


 私は普段、白を基調とした清楚な感じのドレスを選ぶことが多いので、逆にはっきりした力強い感じのものにしてみましょうか。


 で、衣装部屋の中で目当てのものを探してみたのですが……困りました。


 そう言えば私はそういう色のドレスを持っていませんでした。


 まあ、あっても着なかったでしょうけど。


 折角、行動しようと決めたのに残念です。


 コンコン。


「お嬢様、失礼致します。お茶をお持ち致しました」


 と、ちょうどそこでメイドのリディが部屋に入ってきました。


 リディは私より年下の小さくて可愛らしいメイドで、一人っ子の私にとって妹のような存在です。


 何処かの腹黒王女と違って純粋無垢で、思わず抱きしめたくなっちゃいます!


「あ、リディ!いいところに」


 ぎゅう。


「お、お嬢様、お仕事中ですので困ります!」


「良いではないか、良いではないかぁ」


 ああ、荒んだ心が癒されるます。


「セ、セシル様……お触りは別料金ですよ?」


 残念、私はお金持ちなのですよ?


「ではでは欲しいだけ払ってあげますから〜」


「うぅ、お金なんて要りませんから離して下さいませ」


 ああもう、困った顔も可愛いです!


「もう、仕方ありませんね。今日のところは勘弁してあげます」


 名残惜しいですが私はツヤツヤしながらリディをリリースします。


「はい、すみません……って、何故私が悪いような感じになっているのでしょうか!?」


「うふふ」


 怒った顔もいいですね!


「そんなことはいいのです。ところで如何されましたか?お着替えなら私が……」


「いえ、ドレスが無いのよ」


「えっ!ドレスが無い!?破損ですか?盗難ですか?あと、下着の類は無事ですか!?」


 リディが勘違いしたのか驚いてしまいました。


 下着?


 あと、やはり親衛隊の変態達が……とか、このままではお嬢様の貞操が、とかブツブツ言ってます。


「あ、違うの。紛失したとか盗難にあった訳ではなくて、私が着たい色のドレスが無いのよ」


「ああ、これは失礼致しました。それで、お嬢様のご希望の色は?」


 落ち着きを取り戻したリディは早速希望を聞いてきました。


 可愛いだけでなく優秀な娘です。


「力強くはっきりした感じのドレスがいいのよ」


「それは……急に如何されましたか?今までのお好みとは真逆でございますし……」


 私の希望を伝えたところ、リディに怪訝そうな顔をされてしまいました。


 まあ、当たり前ですが。


「ええ、私変わろうと思ってね!」


「変わる……ですか、それは……あっ!なるほど!これは大変失礼を。お嬢様のお気持ちも考えずリディは恥ずかしいです」


 何か勝手に理由を想像して落ち込んでいます。


 まあ、普通はそう思うでしょうが……。


「あのねリディ、確かに舞踏会でのことはショックだけど、私もう大丈夫ですから、ね」


「はい、配慮が足りず申し訳ありませんでした」


「……」


 いや、わかってませんよね?


 絶対私が失恋のショックでイメチェンしようとしてる、ぐらいに思ってますよね?


 ああ!もう!説明がめんどいのでもういいです!


「で、それはそうと、私の知る限りではお嬢様が希望されるようなドレスは……」 


「そう、無いのよ!」


 やっと話が戻りました。


「うーん、今から仕立てていては時間が掛かりますし……あっ!」


「何かいいアイデアが?」


「はい、あくまで可能性がある、というだけですが」


 お、流石我が家のメイドです。


「それで?」


「奥様の私物をお使いになってみては如何でしょうか?」


「お母様のドレスを?」


 なるほど、確かに可能性はありそうです、が……。


「はい、セシル様と奥様は背格好はほぼ同じですし、サイズに問題は無いかと。ただ……」


「ただ?」


「デザイン次第かと。少し古いものでしょうから」


 やはりそうですよね、ですが折角なので一応見てみましょうか。


「確かに。でも、いいアイデアね!早速、お母様のお部屋へ行きましょう!」


「畏まりました」


 と、言うことで私達はお母様のお部屋に移動しました。


 久しぶりに入るお母様の部屋は、まるで時が止まったかのように昔のままでした。


 私とお父様の希望で部屋はそのままにしていて、最低限の掃除以外では誰も中に入りませんし。


 ああ、この部屋に来るとお母様との思い出が蘇ってきて嬉しい反面、その最後には別れの記憶が必ず来るから辛いんですよね……。


 と、今は感傷に浸っている場合ではありません。


 まずはリディと家探しです。


 と、言うことでお母様の部屋にあるクローゼットの中なのですが……。


「うーん、やはりお母様も私と同じようなドレスが多いわね」


 と言うか、肖像画で残っている清楚で美しい姿に憧れて私がお母様を真似しているのですけどね。


「左様でございますね、これは無駄足になってしまったようです。申し訳ありませんでした」


 リディが自らの提案で私の時間を使わせてしまったことを謝りました。


「いいのよ、リディ。ありがとう」


「お嬢様……」


 リディはしゅんとしてしまいました。


 ああ、落ち込むリディも可愛いわね!


「そんなに落ち込まないで?」


「はい……」


 しかし、困りました。


 計画が最初からいきなり躓いてしまいました。


 さて、どうしたものでしょうか?


 やはり、時間が掛かっても仕立て屋を呼んで……私は、そこで何気なく壁にもたれ掛かりました。


 すると、


 ガコン!


 と、音がした急に後ろの壁が回転し、私は背中から謎の空間に倒れ込んでしまいました。


「きゃっ!」


「お嬢様!」


 慌ててリディが駆け寄ってきました。


「イタタ……」


「お嬢様!ご無事ですか?!」


「ええ、大丈夫よ」


「よかった……それにしてもここは一体?」


 この空間は暗くて周りがよく見えません。


「リディ、灯りをお願い」


「はい」


 そう言ってリディが外からランタンを持って戻ってきました。


 そして、ランタンで部屋を照らすと全容が明らかになりました。


「「こ、これは!?」」


 そこには……。

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