第26話「地下牢にて⑤」
今度は私達の番です。
牢番が扉を開け、中に入るとまたもや不敬な台詞が飛んできました。
「あら、これはこれは王女様に公爵令嬢様じゃない。今日は千客万来ね」
私は別に何も思わなかったのですが、頭に血が上っているセシル姉様はそうはいきません。
「貴方、自分の立場がわかってるの!?」
アネットは平然としています。
「ええ、よく分かってるわよ」
「だったら……」
ニヤリと笑ったこの女は更に挑発を重ねます。
「身体的な魅力に乏しい名門公爵家のご令嬢から婚約者の王子様を奪った泥棒猫」
死にたいんですかね、この女は……。
「なっ!ぐぬぬぬぬぬぬぬ」
セシル姉様は爆発寸前です。
さっきの部屋から無意識に持ってきたらしい火かき棒が最早ボールのようになっています……。
「あら、気に触ったかしら?ごめん遊ばせ。本当のことだからつい」
ああ、そう言えばこの女は姉様の本当の姿を知らないんでしたね、幸せなことです。
「死にたいようですね」
「やってみなお嬢様!」
全く、血の気が多い連中です。
正直、面倒いので関わりたくのですが、ここを血の海にされては困ります。
「そのくらいにしなさいな」
ここでアネットに死なれては私とお義兄が困るので、取り敢えず宥めることにしました。
「はいはい」
「あんまりセシル姉様をからかわないで。その人単純だから」
「え!?」
今更、何びっくりした顔をしてるんですか。
「分かったわ。アタシ、セシルが嫌いだからつい」
「!?」
「そう。では始めましょうか」
これでは話が進みませんので。
「ええ、で今度は何の話?コモナ行きは受けたけど。って横から見てたんでしょ?」
「ああ、知ってましたの?」
「あれだけ派手に騒がれればね……」
「……」
ジトーっと姉様に視線を向けてみたり。
「な、何で私を見るの!?」
さ、いい加減始めましょうか。
「で、私は貴方に三つ目の選択肢を持ってきたの」
「三つ目?」
流石にこの女も怪訝そうね、フフ。
「いえ、一つ目の選択肢の訂正と言うべきかしら」
「?」
「もし貴方がやっぱり行かないとか、これから始まる嫁入り修行を投げ出したら困るからちゃんと伝えておこうかと思いまして」
「だから何なのよ、ちゃんと行くって言ってるでしょ」
答えずに私は続けます。
「もし取引を反故にしたら、貴方は生まれてきた事を後悔しながら惨たらしく拷問された上で山の中か海の底に眠って貰います」
「なっ!?」
私は微笑みながら繰り返します。
「ええ楽には死なせません」
「……王女様、アンタ、一体何者なの?」
「なんて、ほんの冗談ですわ」
オホホ、と私は上品に笑いながらネタばらしです。
「全く笑えないんだけど……」
おやおや、怯えてしまってますわね。
「ですが、おイタが過ぎると冗談が冗談でなくなるかも……しれませんわね」
「わ、分かってるわよ!」
真面目にやるように釘を刺したところで本題に入りましょうか。
「さて、では今後の貴方の大まかなスケジュールをお伝えしましょうか」
「まず、貴方はルフェーブル侯爵家の養女になって頂きます」
「うん」
「そして、今から半年間みっちり花嫁修行をして公王妃に相応しい教養を身につけて貰います」
「うへぇー」
「もし投げ出したら……お分かりですわね?」
「はいはい、よく分かってる」
「指導に当たるご婦人方も選りすぐりの方を用意しておきますから安心して学んで下さいね」
因みに私とセシル姉様も入ってます☆
「ちょー不安なんだけど……」
お、何か察しましたかね。
「そして、半年後には嫁ぐ訳ですが、あちらではくれぐれも、ご自身の仕事を忘れないように」
「仕事?嫁いだ後は私の自由で散財し放題じゃないの?」
「それは間違いではありませんが、一部です」
「一部?」
「そう、貴方の役割は重大です」
「それで?」
「コモナ公国をランスに持ち帰って来なさい」
「はあ!?アンタ何言ってんの!?」
「別に変な事は言ってないつもりですが。簡単なことですよ。コモナに嫁いで、公王に気に入られて、散財して、国を傾けて、弱ったところでコモナをランスに吸収させる。たったこれだけですよ」
「……」
流石のこの女も絶句してます。
「あ、勿論その為には中で力を付けなければいけませんから、こちらから工作の為の人員や資源を提供します。これは私が保証しますから」
私は優しい笑みと共に不安を和らげてあげます。
これで安心できるはず。
「……」
あら?顔が引きつってますわね。
「それに期限も設けませんから、気長にやって下さいな」
「なんだか事が大き過ぎて不安になってきたんだけど……」
「大丈夫ですよ、サポートは万全ですし、贅沢な暮らしも出来ますから」
「まあ、それなら……」
渋々ですが現実を受け入れるようですね、ではトドメを刺しますか。
「それに、エリザベート孤児院には、特に手厚く予算を付けておきますからご安心を」
「アンタ!何でそれを!」
お、やはりこれが弱点でしたか。
先程の資料で見たばかりの単語を使いカマかけ程度に使ってみましたが当たったようです。
「貴方がご自分の仕事を忘れない限りは大丈夫ですが、もし目に余るような行動をしたら……その限りではありませんよ?」
「「くっ、この悪党め!」」
13歳の乙女に向かって悪党とは酷い言い草です、なんて。
むしろ悪党上等です!
ただ、味方からも罵声が飛んできたような気がするのですが……。
裏切り者め、次の誕生日プレゼントに胸パッド贈ってやります!
こほん。
アネットはこれまでの余裕は全く無くなり、苦悶の表情を浮かべてます。
うん、いい感じです。
「貴方にだけは言われたくありませんよ。まあ、貴方は私を信用出来ないでしょうけど、私は割と貴方のこと信用してますのよ?これは保険です」
「……」
「兎に角、お分かりになりまして?」
「ッ!……分かったわよ、やってやるわ!その代わり」
物分かりがいい事は美徳です。
「子供達には手を出したり致しませんわ」
「そこは信用していいのね?」
「私の名にかけて誓いましょう」
必死ですね、大事な子供達の命が掛かっていますから当然ですが。
まあ、実は初めからそんなつもりは全くありませんし、万が一、約束を反故にされても関係の無い子供達に危害を加えるなんてできません。
「そう……。全く、これだからアンタらみたいな連中は嫌いなんだ。金も権力も持ってて何でも思い通りになると思って……」
吐き捨てるようにアネットは言いました。
「何とでも言いなさい。私は私のやり方で義務を果たしているだけですから」
そう、何と言われようと私はお義兄様の為に自分の仕事を完遂してみせます。
「あっそう」
不貞腐れた感じのこの女が答えた時でした。
と、そこで、
「貴方、さっきから聞いていればマリーになんて態度なの?手段は最低だけど、マリーは国民とお義兄様の為に動いているというのに!」
ああ、めんどくさい人を忘れていました。
ナチュラルに私をdisりながらまな板ニートことセシル姉様が再登場です。
後はサクッと纏めて、捨て台詞と共に去って行こう思いましたのに。
お願いですから、静かにしていて下さい。
残業は嫌ですの。
「うるさい!あー!もうイライラする!私はアンタの事が一番嫌いなんだ!」
「……一体、私が貴方に何をしたと言うの?」
ああ、これはセシル姉様のスイッチが入ってしまいました……。
ああ、残業決定ですの……。
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