第25話「地下牢にて④」

 お義兄様がアネットの股の緩さにドン引きしながら何とか話を戻して取引について説明を始めました。


 お義兄様は昨日のお義父様達とのやり取りを上手く誤魔化しながら話を進めましたが……何というか、あの女は余り乗り気では無いようです。


 これは一体……もしや自分の命に余り執着していないのかも知れません。


 これはマズいですね。


 このまま話が流れたら私はコモナ行き、お義兄様はお義父様達の信用を失ってしまいますわ。


 これは何か考え無ければ。


「レオニー」


 私は覗き穴に顔を付けたままレオニーを呼びました。


「はい、マリー様」


 すぐに返事が返ってきましたが、そちらに視線を遣るとレオニーはなんだかボロボロで表情もかなり疲れた感じでした。


 そういえば先程、牢番と一緒に体を張ってセシル姉様を止めていたのでしたね。


 更に横に視線を滑らせれば牢番が力なく床に横たわっていました……可哀想に。


 本人は何も無かったかのように覗きに戻っているのに世の中理不尽だわ……ではなくて、


「レオニー、あの女の資料はある?」


「はい、ここにございます」


「流石ね、ありがとう」


 私はレオニーから資料を受け取り、覗きを続けつつ、何かヒントになる事はないか確認を始めました。


 ですが、それは無駄になりそうです。


 話が進み、この取引を受けなければお義兄様が死んでしまうかもしれないと言うところで、あの女の反応がはっきり変わったのです。


 これはいい感じですが、もしやこれはお義兄様の事を本気で……。


 と、今度は私が嫁ぐ事を決めた理由を聞き始めました。


 全く、そんなのリアンお義兄様の為に決まっているではありませんか。


 ですが、お金の使い道についても本当のことです。


 未だに苦しむ人達の助けに少しでもなれればと思いました。


 ですが……目の前でそれを語られると何か凄く恥ずかしいです。


 ああ、何と言うか……凄くこそばゆいです。


 と、ここでアネットは支援の対象に孤児院が入るのか聞いています……孤児院?


 さっきの資料で見たような……ッ!これは……なるほど。


 そう言うことですか、でしたらもし断るようであれば申し訳ありませんが、これを使わせて貰います。


 まあ、もし承諾しても保険として使わせて頂きますが。


 お義兄様の為ですから悪く思わないで下さいまし。


 と、戦略を考えていると……おや、取引に応じるようです。


 取り敢えず素直に喜ぶとしましょう。


 覚悟を決めた所為か、なんだかあの女の雰囲気が変わったような……。


 そして一言二言、言葉を交わし、爽やかにお義兄様は去って行きました。


 きゃー、リアンお義兄様カッコイイです!


 セシル姉様は相変わらず嫉妬に狂っているようですが、ほっときましょう。


 ですが、最後にアネットは意味深な台詞を残しました。


「さよなら、私の王子様」


 これは、あの女の想いは本物だったのかもしれない、などと考え始めたところで、またまた、まな板ニートが暴れ始めて私とレオニーは酷い目に遭いました。


 そして、お義兄様が帰られた頃合いを見計らって今度は私達が尋問室に入ります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る