第24話「地下牢にて③」
皆様、ご機嫌よう。
ランスのアイドル、マリー=テレーズです。
私、覗いていますの。
あ、いや、やましい事はありませんよ?
私はそんな覗き魔みたいな趣味はありません。
まあ、誘惑に駆られる事もなくは無い……かもしれませんが。
え?毎回毎回覗きから始まるじゃないかって?
それは不可抗力ですの……。
私だって毎回こんな登場嫌ですの。
忍者じゃあるまいし……。
そもそも私はスパイマスター(指示を出す人)であってケースオフィサー(現場で働く人)ではないですのに何で現場に……不毛な愚痴はやめましょう。
さて、話を戻して状況を説明致しましょう。
今、私がいるのはトゥリアーノン宮殿の地下にある尋問室……では無く、その横にある尋問を覗く為の部屋です。
そして、室内にいるのは私、セシル姉様、レオニー、そして牢番の方の四人。
では何故こんなところに居るのかというと、先程レオニーからお義兄様があの女と取引をしに行くと言う報告を受けたからです。
昨日の今日で行動されるとは、流石お義兄様ですの。
で、気になって見に行くついでに、王妃教育も無くなり暇している、まな板ニートことセシル姉様を誘ってここにやって来た訳です。
昨日に引き続きセシル姉様も私も、あの女の被害者であり、またステークホルダー(利害関係者)でもあり知る権利がありますから問題はありません!……多分。
で、困ります!という牢番を金貨と権力で黙らせて特等席からセシル姉様と覗いているという状況なのです。
さてさて、一体どんな話をするのでしょうか?
私、気になります!
さあ、お義兄様が来たようです。
な、あの女、開口一番お義兄様になんて口の聞き方を!
横では同じくあの女の無礼な口の聞き方にセシル姉様がご立腹です。
そして、いつの間にか手にしている火かき棒(暖炉やストーブで使う道具)をへの字に曲げています。
……ま、まあ気にせず先を見守りましょう。
それから暫くは取り留めの無い話が続きました。
途中、お義兄様が今まで演技をしていた事を知っても怒らなかったり、あの女がお義兄様の話と今の態度の矛盾に気付いたり、意外と、しおらしい態度を見せたりと、ちょっと感心していました。
因みに横ではセシル姉様が、嘘でもあの女に愛していた、何て言うのは許せない!とか、呟きながら火かき棒をU字型に曲げていました……それは公爵令嬢としてどうなのでしょうか?
そして、次の話に驚愕しました。
それはお義兄様がちょっとした皮肉のつもりで言われた言葉がきっかけでした。
「将来の王妃の子の父親が誰か分からないのでは困る」と。
あの女は事もあろうにこう答えました。
「あ、知ってたの?でもいいじゃない、アンタの取り巻きみんな高位貴族だから少しぐらい王家の血も混ざってるでしょ?それに1/5の確率で現役の王族の血が入るかもだし」
あの女、とんでもない奴でした。
流石に5股とは!
しかも、この話からすると取り巻き以外の一人はあの男しかいません。
なんと言うことでしょうか。
これは一度詳しく調べ直す必要がありそうですわね。
そんなことを考えていると、あの女は更に、詳しく話しだそうとしてお義兄様に止められていました。
そして、ふと横を見ると両手で顔を覆ったセシル姉様がプルプル震えていました。
17歳にもなってウブですわねー。
さて、続き続き、と。
今度は朗報です。
なんと、お義兄様とは身体の関係は無かったのです!
ほっぺにキスだけとか、逆に驚きです。
まあ、それでもいい気はしませんが、代わりにコモナに行ってくれる訳ですし今日のところは見逃してやるとしましょう……ん?横から何か聞こえます。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ!!」
ですが、それをどうしても許せない人が横にいました。
いつの間にかさっきのショックから立ち直っていたセシル姉様が今度は激怒していました……全く、忙しい人です。
「ほっぺにキスとか!許せない!私まだ、それすらしてもらったこと無いのに!」
手元の火かき棒は曲がり過ぎてフ○ーダイヤルのマーク➿みたいになっていました。
この人、本当に同じ人間なんですかね……。
更に、
「やはり、これは始祖様から伝わる邪魔な女を始末する為の短剣であの女を始末するしか無いようですわ……」
とか言ってますこの人。
目が、目がヤバいですこの人。
というかどっから出したんですかそれ!
「落ち着いて下さい姉様!」
「セシル様、ここは冷静に……」
私とレオニーが暴れ出しそうなセシル姉様を必死で止めます。
と、その時、足が縺れて三人仲良くガタガタ!ドスン!と転倒してしまいました。
ああ、気づかれてしまいました。
ですが、気にせず話を進めるようです。
こちらの様子を見に来る事も無いようです、良かった。
さて、話は漸く取引の内容へと入っていくようです。
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