第23話「地下牢にて②」

「話を戻そう。取り敢えず君の男性遍歴は置いておこうか」


 私は引きつった笑顔で話を進める。


 このままでは話が進まない、というか、さっさと進めないと困るのだ。


「あら、そう?暇だし事細かにウブな王子様に全部話して差し上げても宜しくてよ?」


 わざとらしく色っぽい感じを出してくるアネット。


「魅力的な提案だが今度にしよう」


 勘弁してくれ。


「あら、残念」


「で、私は先程、差し入れの代わりに良い話を持って来たと言ったと思うが?」


「ああ、そんな事言ってたわね」


 さして興味もなさそうに答えるアネット。


「その事なんだが……王妃にならないか?」


「は?アンタ正気?」


 そんな残念な人を見るような目で見るな。


「ああ、残念ながらね」


「アタシは逮捕、アンタは廃嫡に決まってんのに一体どうすんのよ」


「まあ、落ち着いて。誰もランス王国の王妃とは言ってないだろう?」


「……は?」


「男爵令嬢アネット・メルシエ、コモナ公国に嫁いで、公王妃になる気はないか?」


 僕と契約して、王妃様になってよ!(◕‿‿◕)


「……詳しく聞こうじゃない」


 よし、取り敢えず話を聞いてくれるようだ。


 まずは、何とか上手く話を作らないとな。


「さて、どこから話そうか。昨日私が直談判に失敗したのは話した通りだ」


「ええ」


「だが、そこである条件を出されたんだ。そして、それをクリアすれば君も私もマシな待遇にしてもらえるらしい」


 まあ、実際はこちらから提案したんだけどね。


「それがこれ?」


「そう、君がコモナに嫁ぐこと。そして、僕は君を説得してコモナ行きを承諾させることが条件だ」


「ふーん、で私達にどんな得があるの?」


 お、興味を持ったな。


「金満国家コモナの公王妃として贅沢三昧の暮らしが出来る。つまり、金と高い地位が手に入る。いや、もしかしたらランスの王妃になるよりも贅沢な暮らしが出来るかも知れない」


「へー、他には?」


「お相手のコモナ公王はまだ30そこそこでかなりのイケメンだそうだ。好きだろう?イケメン」


「ふむふむ、それで?」


 いい感じだ。


「そして、ちょうど君のような容姿の令嬢が大好物らしい。あ、性格は素朴でおっとりした感じの可愛らしいのがお好みらしい。得意だろう、そういうの?」


「フフ、まあね」


 これにはアネットも苦笑いだ。


 だが、なんだか反応が薄い気がするんだよなぁ。


 もっと、ガッと食いついてくると思ったのに、何かイマイチだな。


「どうだろうか?」


「悪く無いわね。で、貴方はどうなるの?」


 え?何で私のことなんか聞くんだ?


「私は廃嫡される」


「え?それじゃアンタは損じゃない?」


 なんか心配されてる?


「ああ、違う違う。廃嫡で、許して貰えるんだよ」


「?」


「本来なら訳の分からない所へ養子に出されるか、最悪消されるかも知れないんだ」


「え?アンタ死んじゃうの!?」


「このまま行けば可能性は結構あるかな。あ、君も人ごとではないぞ?」


「そんなの分かってるわよ、むしろこれだけのことをして無事でいられるなんて思ってないわよ。それに私なんて別にどうなってもいいし」


 なんだか微妙な反応だなぁ。


 と、兎に角、話を纏めなければ!


「で、話を纏めると君がコモナ行きを承諾すれば、薔薇色の未来が待っている。断れば……」


「断れば?」


「仲良く地獄行きだ。君は王族を唆し、冤罪をでっち上げて公爵令嬢セシルを断罪し侮辱した。私はそれに加担した上、一方的に婚約破棄をしようとした」


「…………」


「君は縛り首、私は不慮の事故か謎の病死か、はたまた君を想って不審な後追い自殺か、選り取り見取りだ」


「…………」


「さあ、どうする?」


 てっきり、すぐに飛びつくと思っていたが、なんか迷ってるな。


 一体何が不満なんだろうか。


 自分が彼女の立場なら迷わずコモナ行きを選ぶけどなぁ……うーむ、わからん。


 と、そこで無言で考え込んでいたアネットが口を開いた。


「参考までに聞きたいんだけど、この話って噂ではマリー王女が嫁ぐって聞いたような気がするんだけど?」


「ああ、そうだよ?何処かの催しでマリーを偶然見かけたコモナ公王が、莫大な結納金を積む代わりにマリーを後妻に欲しいと言って来たんだ。私や父上を始め皆、反対だったがマリーが自分で行くと言い出したんだよ」


「なんで?」


「マリーは自分が嫁ぐことで入る莫大な結納金の為に行くと言ったんだ。大国ランスはその金が無くても大丈夫だが、正直財政は苦しく、福祉政策に掛けられる予算は少ない。だがら、その金で8年前の疫病の影響で未だに苦しんでいる人々を支援することを始め、福祉政策の充実を図る予定なんだ」


 因みにこれは本当の話だ。


 つくづく我が義妹ながら、良い子だなぁ。


「……何でマリー王女はそこまでするの?王族だからってそこまでするものなの?」


「普通は断るだろうな。だが、マリーは本当の両親を二人とも疫病で亡くしているし、王家に来てからも義母(叔母)を疫病で亡くしている。だから、何か役に立ちたいという強い想いが人一倍あるんだよ」


「そうなの……」


「ああ」


「ねぇ、その支援とか福祉政策とかって、孤児院も含まれるの?」


 孤児院……何の話だ?


「孤児院?……ああ、あの疫病以来、孤児の数が爆発的に増えたから当然含まれるはずだが……?」


 なんだか真面目な雰囲気のアネット。


「そう。じゃあ最後に教えて。私が公王妃になったらお金を使い放題で、何に使ってもいいのよね?」


「使い放題かどうか、は分からないが、かなりの額を自由に出来るはずだ。なんなら、公王の寵愛を受けることが出来ればさらにその額は増えるのではないかな」


「………………そっか」


 彼女は何やら更に真剣な顔になった。


 これは一体?


 よっぽど高額な物が欲しいのか?


 宝石、別荘……城とか?


 それに孤児院か……寄付して税金対策でもする気かな?


「アタシ決めた」


 頼むから死んだ方がマシとか言わないでくれよ……。


 そしたら君も私も仲良くお終いだからな……。


 頼むー!


「アタシ、コモナに行く」


「そうか」


「うん」


 やったー!!


 助かったー!!


 一つ目の案件からいきなり失敗するところだった、ヒヤヒヤさせやがって……。


「本当にいいのか?後、さっきの孤児院の件は一体……?」


「アタシもう決めたから!それにそうしないとアンタも死んじゃうんでしょ?ならいいじゃん!細かい事気にしない!」


「あ、ああ」


「じゃあもうこれで用件は終わりでしょ?ならもう帰った帰った!」


 なんだかスッキリしたような笑顔で追い出しにかかってくるアネット。


「ええー、まあ帰るけど……」


 もう、訳が分からないよ!


「じゃあ、帰るよ。詳しい事は後で担当者が来て説明してくれるはずだ」


「うん、わかった」


 では、お暇しようか。


 だが、その前に。


「アネット」


「何?」


「今までありがとう。そして、元気でな。君の事は嫌いじゃなかったよ」


 これは本心だ。


 なんだかんだで、素のアネットと話して憎めない奴だと思ったのだ。


 勿論、セシルを傷つけた事を始め今回の騒動は許されることではないが……。


 だが、もし何か違う出会い方をしていれば良い友人ぐらいには、なれたのかもしれない。


 そんな気がしたのだ。


「そこは愛してたって言いなさいよ!バカ!」


 そんな言葉を背に受けつつ、私は思わず口元を緩めてしまった。


 そして私は何も答えずに、そのまま部屋を出た。


「さよなら、私の王子様」


 最後に彼女は何か言ったようだが、私はその言葉を聞き取る事は出来なかった。


ー ー ー ー ー


「何ちょっといい感じに終わってるんですかー!?」


 壁を一枚挟んで公爵令嬢が絶叫していた……。


「ちょ、やめて下さい!セシル姉様!覗いてたのバレちゃいますよ!」


「セシル様、落ち着いて下さいませ!」


 横で慌てるマリーとレオニーを尻目にセシルは更に吠える。


 「私の王子様って!リアン様は私の物です!くっ、かくなる上はあの女に身体で分からせてやります!やはり、この始祖様より受け継がれし短剣で……」


「「ダメー!」」

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