第14話「隣のカーテンの中で 王女マリー=テレーズ ③」

 お義兄様の大立ち回りで人生最大の危機は去りました。


 私はそのまま王都へ行くことになり、 取り敢えずアメリー叔母様(王妃、リアンの母親)の元で暮らすことになったのでした。


 つまり、王宮で暫く居候することになったのです。


 あ、そう言えば王宮に着いた後、お義兄様は単身で勝手に出向いた事がバレて大目玉を食らってしまいました。(ですが、やった内容と行動したこと自体は後からこっそり褒められていたようですが)


 実は、私の惨状を家の者が密かに王都に知らせてくれたらしいのですが、知らせを聞いたお義兄様は居ても立っても居られず単身、馬を飛ばして従姉妹の私の元へ駆けつけて下さったのです。


 私としては嬉しい限りで益々好きになってしまいましたが、ちょっと申し訳ない気持ちになりました。


 さて、これで相続問題は無事収まったと思われるでしょう?


 実はまだ、これには続きがありまして。


 あ、いえ、深刻な話では無いんですよ、寧ろ不謹慎かも知れませんが笑ってしまうようなお話です。


 アメリー叔母様の元へ身を寄せることになった私ですが、何とそのまま養女として一緒に暮らそうと言われました。


 特にシャルル叔父様(国王陛下)は、私達夫婦には娘がいないから是非可愛い娘が欲しいと言って頂きました。


 こうして、ひとりぼっちになってしまった私に新しい家族ができることになったのです。


 私、もうひとりぼっちじゃない!


  両親を亡くした痛みが無くなる訳ではありませんが、また私を愛してくれる人たちの中で暮らすことができると思うと、嬉しさと安心感で泣いてしまいました。


 そして、ひとしきり泣いた後、今度は私の王子様こと従兄弟のリアン様と一緒に暮らせる事に、不謹慎にも小躍りしながら喜びました。


 今思えば度重なるショックで少しおかしくなっていたのかもしれませんね。


 しかし、ここで横槍が入ります。


 何と、父方の祖父も私を引き取りたいと言って下さったんです。


 お爺様のお住まいは少し離れているので連絡が遅くなったようです。


 数回しかお会いしたことはありませんでしたが、お会いした時にはお爺様は私を凄く可愛がって下さったので大好きでした。


 また、お爺様は、次男でブルゴーニュ公爵家の婿養子になったフランツお父様とその妻であり義理の娘であるルシールお母様のこともとても可愛がって下さっていました。


 お爺様はとてもお忙しい方で、両親の葬儀にも顔を出せず、私の事を案じておられたのだとか。


 そして、つい先日、私が怖い目に遭っていたのを遅れて知り、可愛い孫娘を最早そのような国には置いておけないと激怒し、絶対に私を引き取るという旨を伝える使者が来たのです。


 使者の方の話では、なんでも基本的にお爺様は立場もあり、普段人前で余り感情を見せないらしいのですが、そのお爺様が人目を憚らず烈火の如く怒り狂っていたそうです。


 お気持ちは大変嬉しいのですが、私としては既にここでリアン兄様や叔父様、叔母様、あとあの男と一緒に暮らすつもりでいましたので少々困りました。


 というか、叔父様と叔母様も困ってしまいました。


 皆様はここで疑問に思われる事でしょう。


 何故、国王たるシャルル叔父様が、いくら祖父であるとは言え、もう決めた!すっこんでろ!と言えないかと。


 実は、私のお爺様は、皇帝なんですの。


 ランス王国の東側に位置する大国、ストリア帝国の現皇帝、カール5世。


 ストリア帝国は大国であるランス王国と同等以上の国力を持つ強国です。


 実は私、ランスとストリアのハーフなんですの。


 そして、その皇帝が公式に勅書を持った使者を送って来たわけですから無下にはできません。


 そこでシャルル叔父様は話し合いの機会を持とうと考えました。


 都合が良いことに、近々、国境付近の街で君主同士の会談と親善の催しが予定されておりましたので、そこで話し合われることになりました。


 会談は歴史的なものになりました。


 なんと、開始10分で本来数日かけて交渉されるはずだった複数の案件を、どうせ落とし所は決まっているし見せかけの駆け引きなど不要だと言い切ってさっさと決めて書面にサインまで済ませて、私の処遇について話し合いを始めたのです。


 奥様方はあきれ、両国の官僚の皆さんは真っ青でした。


 逆に直後に始まった感情的で生産性のカケラもない不毛な交渉は丸一日かけて行われました。


 最後はお互い軍を出して戦争で決着を着けてやると掴みあっていた所を、下らない交渉を横目にテラスで和やかにお茶会をしていたアメリー叔母様とアンナお祖母様が戻ってきて、男性陣をしばき倒して、決着しました。


 私はランス王家で暮らすことになりました。


 しかし、一年の三分の一程度はストリアで過ごすという条件付きで。


 当初は頻繁に移動しなければなりませんし、リアンお兄様と過ごす時間が減るのではっきり言って乗り気ではありませんでしたが、今ではとても感謝しています。


 この特殊な環境のお陰で今の自分があるのですから。


 そして、お義兄様の為に使うことができる、「戦略家」としての力を得られたのですから。


 ④へ続く。

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