第9話「退出」
「自由です」
「自由?」
二人とも意味がわからないという顔だ。
「はい。私は自由が欲しいのです。王族として生まれ、ノブレスオブリージュ(高貴な身分に伴う義務)を負うものとして失格です。ですが、私は王宮での安全で豪華で満ち足りた、決まりきった生活よりも市井の中で、危険で貧しくても暮らしたいです。自分自身のことを自分の責任において決めたいのです。たとえ、明日の食事に事欠くことになったとしても、金銭や権威では手に入れることの出来ものを。それを手に入れられるのですから、私は最大の受益者ですよ」
そう、自由にはお金で買えない価値があるのさ、キリッ!(笑)
お金で買えない物がある、買える物はマス○ーカードで!なんてCM昔あったなぁ……。
「うむ……残念だが、この点だけは理解できない。が……この際だ、まあ、いいだろう。他にはあるか?」
あれ?意外とすんなりいったぞ。
良かった良かった!
「父上、実はもう一つだけお願いがあります」
「申してみよ」
「廃嫡までの一ヶ月間、暗部を何名か付けて頂きたいのです」
新生活の準備の為に色々と人手が必要だしな。
「うむ、お前の計画の実行に必要なのだな?」
「はい」
「わかった……では希望通り一ヶ月後にお前を廃嫡する。併せて、廃嫡までの間、暗部を付けることとする。」
サンキュー父上。
「我儘を聞いていただき、ありがとうございます父上。必ずや王族として最後の務めを果たさせて頂きます」
「いや、今までお前の苦悩を理解してやれなかったのだ……このくらい当然だ。他に何かあればなんなりと言うがいい」
流石に息子に甘過ぎでは?
ちょっと心配になってきたぞ、
でも、まあいいか。
「はい、ありがとうございます父上。では、私はこれで失礼致します」
恭しく礼をすると、私は静かに部屋から退出した。
こうして、私の乾坤一擲のテレビショッピング……もとい説得は無事、父上から満額回答を引き出し大成功に終わった。
ヒィィィヤッッホーーー!!!
ー ー ー ー ー
皇太子がドアから退出したのを確認した国王シャルルは表情を引き締めて静かに話し出した。
「では、今後の話をしようか」
怒涛のテレビショッピングに飲まれてしまったおっさん二人だったが、今は落ち着きを取り戻し、皇太子の計画を聞いた上で今後の方針を決めようと考えていた。
「ああ、今の話を聞いたからには改めてプランを考えなければな……」
「まさか、マクシミリアンがあれほどの逸材とは……」
シャルルは驚きを隠せないという感じだ。
「全くだ。今までの放蕩が演技でそれを見抜けなかったことを始め、自由うんぬんはともかく、あれほどのことを考えて、一人で実行するとはな。大した器だ」
同意するエクトル。
「子の成長とは、凄いものだな」
「ああ、だが強いて欠点を挙げるなら自己評価が低すぎる点と弟フィリップ殿下を過大評価し過ぎる点、そして何より王になる気が全く無いという点だ。良い環境で育てば我がランスを大きく躍進させる偉大な王となったかもしれないのに、惜しいことだ。正直、フィリップ殿下は王の器としては凡庸だ。優、良、可、不可、で言えば良。悪くはないが、飛躍的な発展は望めないだろう。何も無い平和な世であれば、まあまあの治世だろうが、そうで無ければダメだろうな」
「わかってる。なんとかしてマクシミリアンに継がせられないものか……」
「少し考えてみようか……」
………………。
暫くして。
「よし、ではそうしようか」
「ああ、上手くいくにしろ、いかないにしろ誰にも損は無かろう」
「では決まり、だな」
「ああ。……少し疲れたな」
二人共、今後の方針が漸く決まり、安心感と共にどっと疲れが出てきたようだ。
「全くだ。色々あり過ぎた……だが、他にも決めなければならないことは山積みだぞ」
「そうだな。では、まずセシルにどのタイミングで今回の真相を伝えるか、だな……」
バサァッ!
「それは不要です!」
突然カーテンを跳ね上げて登場したのはセシル本人。
驚きのオッサン二人が顔を向けると、清々しい顔をしたのセシルが立っていた。
困惑するオッサン二人。
「「!?」」
「あくまで私は婚約破棄を認めませんわ!ですが、書類上はお好きになさって下さい!そして、私も自由な生き方をさせて頂きます!ああ殿下、こんなに私を大切に想って頂いてセシルは幸せ者です!ではご機嫌よう!」
「「えー……」」
「オーホッホッホ!」
颯爽と去って行くセシルを唖然と見送るオッサンズ。
しかもあの高笑いは一体何なのだろうか?とさらに困惑。
「あー、ビックリしたー……」
先にフリーズが解けたシャルルが率直な感想を吐き出した。
気を取り直して、疲れた顔をしたエクトルが話を続けようとするが……。
「全くだ……まさか、もう誰もいないだろうな……。で、セシルの件は取り敢えず片付いたから、次はマリー様についてどのタイミ……」
バサァッ!
「不要ですわ!」
これまた、不敵な笑みでマリーが立っていた。
「「また!?」」
再度驚愕する二人。
「私も大好きなお兄様同様、自由にさせて頂きますわ!ああ、お兄様がこんなに私の事を大切に思って下さっていたなんて……嬉しすぎてどうにかなりそうだわ!」
「「……」」
「それでは父上、宰相様、ご機嫌よう!」
優雅にカーテシーを決めて去って行くマリー。
「「と、取り敢えず、家捜ししようか……」」
……で、話を戻す前に、オッサン二人で部屋の安全を確認した後。
「ま、まさかもう誰もいないだろう…話を戻して暗部への伝達だが……」
「不要でございます、陛下」
「「!?!?!?」」
そこには家探して死角はないはずの、有り得ないはずの場所から現れたメイドのレオニーが跪いていた。
「「どこから!?」」
驚きの余り抱き合っていたオッサンもとい国王が問う。
「我々暗部は陛下と宰相閣下の身辺の安全確保の為、常に御身の側にあることはご存知のはずでは?」
何処にいたの!?という問いには何も答えずレオニーは平然と逆に問い返してきた。
「いや、二人で部屋の中を隈なく確認したはず…一体何処にいたのだ?」
どうしても気になるシャルルが困惑気味に尋ねる。
私、気になります!
「……暗部たる者、常に陛下の影におります」
それでもレオニー答えをはぐらかす。
「そ、そうか……」
流石に諦めた様子のシャルルを見てレオニーは話を続ける。
「マクシミリアン殿下の件ですが、万事抜かりなく手配致しますので、ご安心を」
「う、うむ……」
「では、失礼致します」
シュバッ!!
レオニーは消えた。
「おい、消えたぞ!さっからなんで次から次へと人が出てくるんだ!イリュージョンか!」
「カッパーフィールドか!」
オッサン故にわかりにくいツッコミ。
「……私はもう色々あり過ぎて疲れたんだが……」
「同じく……」
珍しくポーカーフェイスで有名な宰相エクトルが露骨に疲れた表情を見せている。
「やってられん、取り敢えず秘蔵のブランデーでもやって落ち着こう、エクトル、君も一杯どうだい?」
「ありがたく頂くよシャルル」
疲れた笑みを浮かべながら誘いを受けるエクトル。
そして、あることを思い出すが……。
シャルルは確か医者に量を制限されていたような気がしたが……この際目を瞑ろう。取り敢えず、一杯やって落ち着きたい。
宰相は国王の健康よりも、安らぎを優先した。
そんなエクトルの考えを何となく感じ取りつつ、苦笑しながらシャルルは秘蔵のボトルを準備しようとするが……。
「えーと、確か本棚の奥にグラスと秘蔵のコニャックが……」
「陛下」
何の気配もなく突然、背後にメイドと侍従が現れた。
ワゴンにはグラスが二つとデキャンタに入ったコニャックが準備されている。
ご丁寧に軽い当てまで用意されている。
「こちらにご用意致しました」
「「………」」
「…………取り敢えず、深く考えずに呑もうか」
「ああ……」
何ここ、怖い……。
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