第10話「カーテンの中で 公爵令嬢セシル ①」

 これはマクシミリアン殿下が国王陛下とお父様相手に必死の言い訳をされる少し前のお話です。


 皆様こんにちは、セシル=スービーズと申します。


 ピチピチの17歳です。


 私はスービーズ公爵家の一人娘にしてランス王国皇太子殿下の婚約者です。


 更にこの国の宰相を務めるお父様と、その親友であり、義理の父になる予定のシャルル陛下からも大変(ウザいぐらいに)愛されていると自負しております。


 何不自由のない生活、盤石な後ろ盾、そして政略結婚という側面はありますが、幼少よりお慕い申し上げておりますマクシミリアン殿下という見目麗しい(中身はちょっぴり残念ですが……)婚約者。


 それも家柄だけでなく、容姿的にも(自分で言うのも恥ずかしいですが、一応私「ランスの白百合」とか「宝石」などと言われておりますの)お似合いだと周囲からも祝福された幸せな婚約です。


 後は、数年後に結婚して正式にこの国の王家の一員となり、愛する殿下との幸せな新婚生活を待つばかり。


 勿論、将来の王妃になるための教育は非常に厳しく、非常に厳しく(大事なことなので二回いいましたの!)、指導担当のご婦人方をブチ○しそうに……いえ、反発しそうになることもありますが、これも殿下との幸せな結婚生活に必要なことですから、苦ではありません。


 まさに順風満帆そのもの。


 輝かしい未来を待つばかり……だったのですが。


 やはり私に油断があったのでしょうか。


 結果から言いますが、そうは問屋が卸しませんでした。


 気がつけば、出自も怪しいピンク髪の泥棒猫に、愛しい殿下を掠め取られていたのです。


 殿下も若い殿方ですから、気の迷いで他の女性に気がいってしまうこともあるでしょうし、将来的に国王というお立場になられれば側室や愛妾をお持ちになるのが普通です(私は嫌ですが!物凄く嫌ですが!!)。


 ですので、仕方の無いことだと自分を無理矢理納得させて、殿下のお遊びに目を瞑りました。


 流石にお立場もありますから、その辺りの加減は理解されているでしょうし……、でも将来的にあの娘が側室や愛妾になって殿下の愛情の一部を受け取るかもしれないと思うと、切ない想いで胸が一杯になり、張り裂けてしまいそうです(物理的に容積が小さいからではありません!決して!)。


 立場上、我儘なことだとは分かっているのですが、たとえ一部でも殿下の愛が他の女に向くのは嫌です……などと上から目線で奢っていた時期が私にもありました……。


 全部盗られました。


 ええ、物の見事に、一部どころか根こそぎ持っていかれましたよ!


 今更ですが私がバカだったのです。


 私はなんと、実は敵に塩を送っていたのです。


 将来共に殿下を支えていく事になるかも知れないあの女、アネットという男爵令嬢は庶子で、つい最近まで市井で暮らしていたらしく貴族として、ましてや未来の国王の妻や愛人に相応しい知識や教養はまるで持ち合わせておりませんでした。


 そこで、未来の王妃としての義務感と若干の善意から良かれと思い彼女に様々な場所でアドバイスをしていました。


 しかし、まさかそれを口実にあのような暴挙に出るとは……。


 そう、ご存知あの舞踏会で私は断罪され、いわゆる悪役令嬢?にされてしまったのです。


 様々な私のアドバイスの場面を都合よく改竄し、それを元に罪状をでっち上げられ、更に彼女の命を狙ったとまで言われてしまいました。


 酷い話です、私、殺るなら自分で殺りますの!


 絶対縦に真っ二つですの!!


 必ずやあの淫売を我が剣の錆に……。


 おっと、心の声が……と、とにかく私は誓って、嫌がらせなどをしたことはなく、精神的、肉体的に傷つけたり、彼女の私物を壊したりしたことはありません。


 まあ、あの性格ですから、もっと保守的でプライドの高い貴族の子弟から多少の嫌がらせはあったかも知れませんが……。


 正直なところ、実は断罪されたこと自体は、内容がでっち上げでしたし、冤罪だと証明する事は容易いことなので全く気にしていませんでした。


 ただ……殿下直々の心無い言葉は流石にこたえました。


 内容云々よりも、リアン様(親しい者はこうお呼びします)に拒絶されたということ自体が、私にとっては自身の存在全てを否定されたことと同義だったのです。


 私はリアン様を愛していました。


 私の全てでした。


 そして、私の中で何かが音を立てて崩れ落ちていくのが分かりました。


 あまりにショックで、前世の記憶とか蘇りそうでした。


 そこからは朧げにしか覚えていませんが、意外にも私はそんな状態でも婚約を続けるために必死でリアン様に食い下がっていたようです。


 普通に考えたらこんなダメな人にさっさと見切りをつける場面なのかも知れませんが……。


 私って駄メンズ好きなのでしょうか?


 さて、その後のことですが、人伝に聞いた話によと幽鬼のような顔で私はトゥリアーノン宮殿の中を彷徨っていたそうです。


 私の記憶があるのはリアン様付きのメイド、レオニーに声を掛けられたところからです。


 いつの間にか国王陛下の私室の近くまで来ていたようで、そう言えば途中、衛兵さんに誰何(すいか)された様な気がします。


 私は陛下に未来の娘なのだから自由に出入りしていい(むしろ毎日きて欲しいとか)と言われていましたので、衛兵さんは私を気遣う優しい言葉と共に通してくれたのでした。


 見知った顔に出会った私は一気に力が抜けて倒れ込んでしまいレオニーに抱き留められ、そのままワンワン泣いてしまいました。


 (余談ですがレオニーはフカフカで気持ち良かったです……敢えてどこがとは言いませんが……く、悔しくなんか無いんですからね!)


 それからレオニーに何か言われ、最後に「セシル様には婚約者として見届ける権利と義務がございます。どうか最後までご辛抱ください」と陛下のお部屋のカーテンの中に隠れる様に言われました。


 そして私は真実を知ったのです。


 後半へ続きます。

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