第8話「テレビショッピング!?②」

さあ、張り切って行こう!


「では、三つ目のメリットです」


 ジャン!(脳内SE)


「長年の不景気で悪化している財政を立て直すことが可能です!」


「何!?」


「そ、そんなことが出来るのか?」


 これは切実な問題だけに食い付きがいいな。


「はい。内容は実にシンプル。私に群がる皇太子派の貴族連中を纏めて処分すれば良いのです!まず、連中は長年私に高額な貢物、まあはっきり言ってしまえば賄賂を贈り続けています。理由は当然将来の国王である私が即位した後に覚を良くしておくこと、そして今現在は私の名前を使って私服を肥やすためです。交渉ごとなどでは私の名前を出して信用を得る、または脅しをかける、商品を売る時には私のお墨付きを貰い高く売る、等です」


「うむ、それで?」


 因みに、地球のことは分からないが、この世界のこの時代、ランス王国では賄賂を取り締まる法律はないからセーフである。


 まあ、倫理的にはアウトだが。


「この機会に連中を全員処分してしまえば良いのです!」


「なんと!」


 最早ただ驚くだけの存在と化した中年達。


 この人達、驚き過ぎてボキャブラリーが貧困になっている気がするな……。


「無能な皇太子に媚を売るような連中です。多少手荒でも纏めて片付ける良い機会です。連中がどこに対して私の名を使った記録も有りますし、脅しから公共事業の不正まであらゆる不正を纏めて断罪し、皇太子派貴族を全て取り潰し、処刑または放逐します。そして私財、領地全てを没収します。そうすれば、財政的にかなりのプラスです。短期的には目先の現金が増えますし、長期的には没収した領地を全て王家の直轄領にしてしまえば、安定した収入を確保することが可能です!つまり、長年の懸案事項である不安定な国庫を安定させることができるのです!」


「!!」


「さ、ら、に!」


「!!!?」


「政治的にも、貴族を減らし直轄領を増やすということは国の中央集権化を大幅に進め、盤石の政治体制を築くことができるというメリットがあります」


 この時代、まだまだ貴族が強いからな。


「もし、反乱を企てるようで有れば、暗部を積極的に活用して対応すればいいでしょう。ランス王国繁栄の為、ひっそりと消えてもらいましょう。多少の混乱はあるかもしれませんが、長期的に見れば大したことはありません。彼等も貴族、最期に国に貢献できるのですから本望でしょう」


 悪いな私に貢いでくれた悪徳貴族の諸君、私はまだ死にたくはないんだ。


 それに一時的に良い目を見てきたんだ、恨んでくれるなよ?


 まあ、抵抗し無ければ命は助かるはずだし、あとは自己責任だ。


「そして、何より他国に対して我がランス王国の政治基盤は盤石であるというアピールすることが出来るでしょう」


「す、素晴らしい!」


「ここまで考えていたとは……」


 二人して感心してくれるのはありがたいが、いい加減反応がテンプレート化してやしないか?


 まあ、いいや。


「では早速手配を「お待ち下さい!」」


 私は動き出そうとした宰相を引き止めた。


 まだ、これで終わりではないからな。


「!?」


「まだこれだけではないのです!父上と宰相閣下にもメリットがあります!」


「!!??」


「まず父上ですが、今回の騒動で息子の教育もまとも出来ないのかという悪評がつきそうですが、逆手に取ります!まず、父上は忙しい政務の合間に可能な限り教育に力を注いだが、無能な皇太子が取った行動のせいで、全てが台無し。という体でいきます。(実際そうだが……。)つまり被害者と言うわけです。そのことを国中に十分に周知します。そして、次ですが、ここは父上に役者としての資質が求められます。息子に裏切られた可哀想な王、父親として心を打つような誠実な謝罪をすれば同情と言う名の支持をえられます。もし何か言われたら、同じ環境で第二王子は立派に育ったではないか、つまり原因は全て皇太子にあることにすれば良いのです!」


「むぅ…」


「次に宰相閣下ですが、本来セシルとの婚姻によってスービーズ家は王家との強い結びつきを得るはずがダメになりました。しかし、先程も言いましたがセシルがフィリップと結婚すれば全て解決です!さらに!フィリップと婚約し直すにしても、皇太子が原因でスービーズ家は多分に恥をかかされたのですから、王家に対して貸しを作れます!損は無いのでは?」


「何と……素晴らしい!!」


「では、準備を「お待ち下さい!!」


 残念、まだあるのだよ。


「「!!!???」」


「まだあるんです!」


「何ー!?」


「何と、陛下を始め皆が愛する我が義妹マリーを、コモナ公国に嫁がせずに済みます!」


「!」


 実は、長年続く不況によって財政状況は余り良くない為、莫大な結納金と引き換えに第一王女で義妹のマリー=テレーズがコモナ公国に嫁ぐことが決まりかけていたのだ。


 コモナ公国は面積は非常に小さいが、主にギャンブルと観光によって莫大な利益を上げている為、経済的に強い。


 そして、少女好きな公王が、是非、後妻に美少女マリーを、と希望してきたのだ。


 ロリコンめ!可愛い我義妹を貴様如きに渡しはせぬわ!と断りたかったのだが、財政的な理由と、マリーが国の為に王族の定めだとして気丈にも志願して決まったことなのだ。


 だから内心、皆この件には基本的に反対なのだ。


 特に父上は可愛い一人娘(血縁的には姪)を嫁にやるなど大反対なのだ。


「何!?一体どうするのだ!」


 めちゃくちゃ食い気味にきたな……。


「ビッチ、もといメルシエ男爵令嬢を使います。彼女の容姿や表面的な雰囲気はコモナ大公の好みにピッタリです。むしろマリーよりも喜ぶのではないでしょうか」


 つまり、代わりを用意する作戦だ。


「ふむ、だが本当に可能なのか?」


「はい、出自は男爵家の私生児ではありますが、一時的に適当な高位貴族の養女とし、更にその間に大公の妻として相応しい品位と教養を身につける為に教育を施します」


 まさに、家柄ロンダリング!


「また、彼女とは利害関係が一致していますので、取引が可能かと」


「取引?」


「はい、彼女は元々、貧困に苦しみ、そこから這い上がる為に私に近付き最終的に王妃となって贅沢の限りを尽すのが目的でした。(本当かどうかは分からないが……)彼女は当然まだ知りませんが、企みが露見して失敗したのです。しかも冤罪で公爵令嬢セシルを公衆の面前で貶めるのに加担したのです。当然ただでは済まないことは理解するでしょう。そこで、です。こちらから取引を持ちかけ、選択を迫るのです。公爵令嬢を侮辱し、皇太子を誑かした罪で断罪されるか、一連の出来事を不問に伏し、ランス王妃になるよりも盛大に贅沢が出来る立場になるか、という選択を。さらに、暗に非合法な手段で消される可能性があるかもしれない、というニュアンスを含ませれば快く取引に応じるはずです。当然、命の危機か、公王妃か、と言われれば後者を選ぶでしょう。コモナ公王は年もまだ30前後で顔だけはいいですし、彼女も喜ぶでしょう。つまり…」


 宰相閣下が言葉を継ぐ。


「つまり、我々は彼女が目障りで消えて欲しい、彼女は罪から逃れたい、と。それがお互いに理想的な形で解決する訳ですね」


 流石宰相、理解が早くて助かる。


「その通りです。可愛いマリーが助かる上にアネットを厄介払いできるのです!」


「おお、完璧だ!これでマリーを手元に置いておけるのだな!?」


 父上が目を輝かせて狂喜乱舞している。


 この親バカめ!


 まあ、マリーは可愛いから気持ちは分からんでもないが……。


 ガザガザッ!


 !?


 またか。


 今度は別のカーテンが揺れたぞ!


 何かまずいことを言ったか!?


 一体何人護衛が隠れているんだ!?


 ……ま、まあ、気を取り直してトドメだ!


「完璧だ、では今度こそ早急に手配を致しま……」


「まさかここまで考えてのことだったとはな。これだけのメリットがあるとは……」


 流石にもう何も無いだろうと思っている二人には悪いが、


「と、思うでしょう!?でも、まだあるんです!」


 ここで価格をオープンする前のダメ押しだ!


「「!」」


「ただアネットを送り込み、厄介払いするだけではないのです!」


「「!!」」


 さあ、最後の追い込みだ!


「彼女が上手くコモナ公王を虜にし寵愛を受け、思う存分に散財をすれば、いくらコモナ公国と言えど財政が傾き民衆の心は離れるでしょう。つまり、マリーを救い、隣国の国力を削げるのです!そして、なんと言っても上手く行けば弱ったコモナ公国をそのまま無傷でランス王国が吸収出来る可能があります。そうなれば、コモナ公国の収入源であるカジノと観光資源をランスが独占し、我が国の財政は潤うでしょう!」


「「……」」


 さあ、衝撃のお値段は!


「では気になっているお値段に参りましょう!今テレビをご覧の皆様だけの特別価格です!今なら何とこれだけのメリットが付いて、お値段据置の、ズバリ!皇太子を廃嫡するだけ!たったそれだけでこの国は薔薇色の未来を掴むことが出来るのです!さあ!今すぐ廃嫡を!」


「「……」」


「さらに便利な分割払いもご利用頂けます!金利手数料はジャ○ネットが負担いたします!さあ、今すぐお電話を……ハッ!」


 マズい!やってしまった!ついつい熱が入り過ぎて、たか○社長が憑依でもしたかのように捲し立ててしまった……これはヤバイ……。


 ああ、折角頑張ったのに最後の最後でなんてことを……終わったかも……。


 なんか二人共無言だし、俯いてる?なんか震えてる?


 その表情は窺い知れない。


 不味い、今度こそ消される!?などと焦っていたら……。


「息子よ、どうか愚かな私を許してくれ!」


 ブワッと涙を流しながら父上が駆け寄って来た。


 近い近い!父上、中年男性の抱擁を受けても嬉しくありませんよ……。


「ここまで考えてのことだったとは…お前を理解してやれなんだわしを許してくれ!」


 だから、いい大人がボロボロと涙を流しながら抱きたくのは止めて頂きたい!


 驚きなのが横にいるミスターポーカーフェイスこと宰相閣下が、もらい泣きしていることだ。


 あ、この人も泣いたりするんだね。


「だが一つだけ教えてほしい。これではお前は何も得るものがない、いや、悪評という名の負債しか残らないではないか!それでいいのか?いくら国の為とは言えこれでは余りにもお前が……」


「そんなことはありません。寧ろ、私が最大の受益者と言っても過言ではありません」


「何に?」


「私が得られる利益、それは……」


「それは?」

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