第3話 カナタ、そう都合よく動けるようになるわけない

 【バッドラックの呪い】によるステータス低下は今も続いていた。

カナタの身体は辛うじて動ける程度であり、未だ一般人の力を上回るものではなかった。

勇者の身体を得ていくらステータスが上がったとしても、呪いのせいでステータスが下方修正されてしまっていたのだ。

カナタの肉体は10年間寝たきりだった弊害が残っており、突然元気に動き回れるものではなかった。

筋力の低下や関節が固まっていたりで、カナタは上手く動くことが出来なかった。

カナタがまともな生活を送るまでには辛いリハビリが必要だった。

生き返ったカナタは死ぬことは無くなったが、苦しいリハビリの日々を送ることになった。


 体は動けなくても、頭は今までになくクリアだった。

やることのないカナタは、読書をするか、今現在自らが使えるスキル【図鑑】と【MAP】を使ってみるしか暇をつぶす手段がなかった。


【図鑑】見た物を分類し図鑑化することができる

【MAP】見た場所行った場所の地図が描ける


 元々この世界の人間であるカナタは、当然ながら【異世界言語】スキルを持っていなくても読み書きが出来た。

呪いの影響には波があり好調の時を狙ってカナタは勉学に勤しんでいたのだ。

暇を持て余したカナタは、【図鑑】と【MAP】スキルを使いまくることになる。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 数日後、目に見える範囲は【図鑑】と【MAP】の能力で既に図鑑化地図化し終わっていた。

屋敷内の人物を図鑑化し、屋敷内の部屋――動けなくても風呂などで移動することがある――を一部地図化した。


ファーランド家図鑑


 当主 アラタ=ミル=ファーランド伯爵

 正室 ナタリア=ミル=ファーランド

 長兄 ナユタ=ミル=ファーランド

 次兄 ジェフリー=ファーランド

 三男 カナタ=ミル=ファーランド

 側妾 ジュリア

 家令 セバスチャン=グラス

 女給 ミモザ

 女給 クミン

 女給 リリー

 女給 カトレア


 父、アラタは勇者パーティーに参加した魔法剣士でファーランド伯爵家当主だ。

正室のナタリアはカナタの継母だが、カナタを実子のように可愛がってくれる。

長兄のナユタはカナタには無関心で次期党首としての勉学に励んでいる。

次兄ジェフリーは庶子で側妾ジュリアとは親子。

家令のセバスチャンは伯爵家の内外を取り仕切っている有能な人物。

そして女給の4人はカナタの世話係といったところ。

伯爵家にはもっと人が居るのだが、カナタと接触しカナタが知り得る人物はこれだけだった。



ファーランド家内地図


 カナタ個室―廊下―浴室



 カナタの行動範囲と知り得る人物はこんなものだった。

カナタはこの作業に没頭し、もっと他の場所を、もっと他の知らない動植物を知りたいと欲求することになる。


 そんな悶々とした日々を過ごす中ある時、カナタは自らの体内に溢れんばかりの魔力が存在することに気付いた。


(この魔力で外を覗けないものだろうか?)


 カナタは魔力を外へと流し、何か把握できないかと探る日々を送った。

ある日、カナタのたわいもない外への憧れが実を結ぶ。

魔力を流し続けたことで経験値が溜まりついにこの時が来たのだ。


『GRスキル【携帯ガチャ機】を取得して初めてレベルがあがりました。

レベルアップ報酬でガチャ1回の権利を手に入れました』


 カナタの頭に突然システム音声が流れた。

と同時に目の前にガチャ機が現れた。

それはカナタの持つスキル【携帯ガチャ機】だった。

本来ならば、このレベルアップ報酬は初回と10レベルごとにだけ取得出来るものであり、その報酬は教会に行かなければ受け取れない。

それがこの【携帯ガチャ機】のスキルにより、その場でガチャが引けるのだ。

カナタは本当の初回分を病床で得てしまい呪いによりスルーされてしまっていた。

それが【携帯ガチャ機】スキルのおかげで再度取得出来たのだ。


 このガチャ機がアイテムではなくスキルであるのは、物として存在するわけではないからだ。

アイテムとしての物ならば他人に奪われる可能性もあるが、これはガチャ機を具現化するスキルなので奪っても消えるだけなのだ。

まあ、それによりカナタ自身が誘拐される危険があるのだが……。


【携帯ガチャ機】ガチャ機を引くとレアリティが1つ(数値はレベルにより補正)上のオーブを引くことが出来る


 カナタは携帯ガチャ機のダイヤルを回す。


ガチャガチャ ガコン


 金色の光のエフェクト、UR確定か!

自動設定によりオーブが開く。


『URスキル【魔力探知】を獲得しました』


「え?」


 驚愕の内容のシステム音声にカナタは戸惑う。

カナタがいままで生きてきて、神オーブによる確実な方法を除いて、初めて有用なスキルを獲得した瞬間だったからだ。

しかもURスキル。


『【魔力探知】獲得により既存スキルがレベルアップしました』


【図鑑】Lv.2 見た物魔力探知した物を分類し図鑑化することができる

【MAP】Lv.2 見た場所行った場所魔力探知で把握した場所の地図が描ける


 カナタの既存のスキル【図鑑】と【MAP】も進化していた。

だが、この進化したスキルはカナタが勇者の身体を手に入れ、莫大な魔力を手に入れたからこそ有効なものだとは、カナタ自身も気付いていなかった。

普通、いや高レベル冒険者でもそこまでの魔力を持っていない。

つまり広範囲に魔力を流して探知を行うという【魔力探知】が使える人物はごく一握りだということだ。

更に、【図鑑】や【MAP】という所謂カススキルを伸ばそうとする者は、エリートであればあるほど居ない。

つまりカナタは勇者スペックの身体でカススキルを伸ばしたために、このスキルの進化を手に入れたのだった。


(これで外出しなくても外を見る事が出来る!)


 カナタの好奇心がさらなる魔力訓練となってしまうのだった。

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