第100話 エルフと風の精霊

シュッ! バシュ!


矢が一角ウサギに突き刺さる。


「ふふふ、今日も大漁だ」

エルフが矢が刺さったウサギに駆け寄る。


「誰か森に入って来たヨ」

風の精霊がエルフに告げる。


「ちっ、またか。俺達の森に無断で入って来やがって。どんな奴等で何人だ」


「小鳥、人間、人間、人間、獣人、魔族、魔族、小さな聖獣と、………精霊カナ?」


「精霊だと!」


「うん、存在が希薄だけど精霊の気配がするから間違いないネ」


「馬鹿な! エルフはいないんだろ」


「いないヨ」


「魔族や獣人は精霊と親和性がないから、精霊は人間に付き添ってるのか」


「契約してるのかもネ。聖獣もいるシ」


「チッ、生意気な人間め! 精霊に愛されるのはエルフだけだ。さては精霊を無理矢理隷属したな。契約者は分かるか?」


「う〜ん。多分、分かるヨ」


「良し、契約者を殺せば、精霊も自由になるだろう。どっちにいる?」


「あっちだヨ」


エルフは見えてはいないが、風の精霊が指差す方に弓矢を構えて、弦を引き絞った。


「いつものヤツを頼むぞ」


「はいヨー」


そしてエルフは矢を放った。


風の精霊が矢を運ぶ。超遠隔からの必殺必中の矢がソウタを目掛けて高速で飛んで行く。


「そら! これでも喰らエ!」

風の精霊がソウタのこめかみを狙って矢を投げた。


しかし………。


バシッ!


精霊が矢を掴んだ。


だんだんと気配が増して行く精霊。森全体の温度も一気に下がったようだ。


「あっ、…………拙い、マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、………怒ってル! ヤバいヨ、ヤバいヨ、ヤバいヨ、ヤバいヨ! ヒャアアアアア!」

風の精霊は冷や汗を流し、エルフの方に飛んで逃げる。


「やったか?」

エルフは風の精霊を見ると満足そうに結果を尋ねるが、いつもと様子が違う風の精霊を見て驚く。


「どうした!?」


「せ、精霊が怒ってルウウウウウ!」

風の精霊はエルフを通り過ぎて逃げようとしたが………。


シュルルルルルル。


「ああああああああア!」

茨の蔦が風の精霊を捉えた。


「イタタタタタタタ」

誰も捕まえられない筈の風の精霊が茨に捉えられて血を流す。


「な、何があった?」

(精霊が血を流す? そんなの初めて見たぞ。血なんて精霊にないだろう)

風の精霊の状態を見て焦るエルフ。


そんなエルフの足元にも茨のツタがのびていた。


「うあああああ!」

茨の蔦がエルフを捉えると逆さに吊り下げた。


「ああああああああ」


そして、蔦はエルフの全身に巻き付いていき、全身を締め上げた。茨が刺さり血を流すエルフ。エルフの血が一滴、二滴と地面を赤く染めていく。




エルフの隠れ里は異様な静けさに包まれていた。


「何かおかしいぞ」

「何だか急に寒くなったわ」

「いや、それもそうだが、何かおかしい」

「………分かった! 精霊がいない」

「本当だ。いつも周りで賑やかに遊ぶ精霊が1人もいない」

「村長に報告だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る