第86話 獣人国宰相2
ドタッ!ゴロゴロ、ドカン!
宰相に投げ飛ばされたブリュンヌは転がり門にぶつかる。
「母上を助けるんだああああ」
素早く起き上がったブリュンヌは宰相にかかって行くが…………。
ジャガー獣人の宰相はその俊敏な動きでブリュンヌの攻撃をやすやすと躱し、反撃する。
殴る蹴る投げる、宰相はブリュンヌを一方的に傷付けていく。
何度も何度も立ち上がり宰相に向かって行くブリュンヌはあちこち怪我をしていた。
「ち、父上を助けるんだ……」
「もう終わりにしなさい。貴女では儂に敵う訳が無い」
「むむ………」
(いくら何でもやり過ぎじゃないの?)
ソウタはブリュンヌがかわいそうに思えてきた。
「ギュゥゥ」
リャンゾウも宰相を睨んでいるし、ナナミは泣いてソウタの袖を震えながら掴んでいる。
「ちょっと待った! 獣人国の流儀は勝てば言うことを聞くんだよな?」
ソウタはナナミの手を優しく解くと、ブリュンヌと宰相の間に割り込んだ。
「ほう……、なかなかやりそうなガキだな。お前がブリュンヌ様の変わりにやるのか?」
宰相はソウタの眼光を見てニヤリと笑った。
「俺が勝ったら王と王妃を治療する」
「良かろう。ブリュンヌ様をここまで連れて来てくれた事だけは評価してやるので、儂が勝ったらこの国から叩き出してやるだけにしてやろう」
宰相はそう言うと、一瞬で間合いを詰めてソウタに拳を叩きつけた。
バシッ!
(ブリュンヌには相当手加減していたらしいな。スピードが全く違う)
宰相の右の拳を左の手のひらで掴んだソウタは宰相の目を見ていた。
「くっ………」
口が歪む宰相。
「ギュルルルルルルル」
足元で唸るリャンゾウ。
そして、白い光があたりに弾けるように輝いた。
倒れる宰相。
(あれ? リャンゾウ、やっちゃった?)
(我慢出来なかったキュ)
リャンゾウの雷撃で宰相は白目をむいて倒れていた。
「俺の勝ちだな。ブリュンヌ、行くぞ。案内してくれ」
ナナミとモモカがブリュンヌに駆け寄り抱き起こす。
「ちょっと待て!」
「卑怯なんじゃねえか」
門番の象の獣人とキリンの獣人が駆け寄ろうとして時、クロリスの右手が動いた。
「な、何だこりゃ?」
「くっ、離せ」
象の獣人とキリンの獣人の足元から蔦がのびて絡まり二人を拘束した。
「キュウウウウ」
リャンゾウの雷撃が二人を貫く。
「まあ、良いか。さあ、急ごう」
「うううう、有難う。こっちよ」
ブリュンヌはよろめきながらソウタ達を王と王妃の元へ案内するのであった。
「何事だ!」
「さ、宰相様?」
「貴様らああああ」
王城からわらわらと獣人達が飛び出して来た。
「そこを退け!」
ブリュンヌが叫ぶ。
「ブリュンヌ様!」
「どうされました」
「何でも無い! そこを退け。俺達は父上、母上の元に向かう。邪魔をするな」
大騒ぎになりそうだったが、ブリュンヌのひと声で静かになった。
「宰相と門番達を介抱してくれ」
ブリュンヌはそう言って、ソウタ達と城内に入っていった。
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