第85話 獣人国宰相

門に入りかけたブリュンヌはソウタ達を通さない門番達に振り向いた。


「爺が言う通りだ。一刻も早く父上、母上の治療をしていただかないと間に合わないかも知れぬ。黙ってそこを退け」


「ブリュンヌ様!」

その時、門の中から猛獣が吠えるような腹の底から響く低音の声がした。


「宰相!」

門の中から出て来た男に声をかけるブリュンヌ。


「よもや、黒死病を治療出来ると戯言を信じて何処の馬の骨とも知らない輩を連れて来るとは………。ああ、嘆かわしい。黒死病は我が国の名医達も手出の出来ぬ疫病。そこの見窄らしいペテン師のガキどもにどうこう出来るモノではありません。ブリュンヌ様、騙されているのです」

宰相はジャガーの獣人だ。


ジャガーはライオン、虎に次ぐ大型のネコ科の猛獣で、豹より大きい。通常ネコ科の猛獣は獲物の喉に噛みついて窒息死させるが、ジャガーは後頭部や頸部を噛み砕いて殺す強力な顎を持っている。北アメリカ大陸南部、南アメリカ大陸に分布し南米で、アマゾンでは生態系の頂点に立つ猛獣の王者である。


何を言いたいかと言うと豹とは違うのだ。豹とジャガーが同じ動物と思っている人もいるかも知れない。豹の英名をジャガーと勘違いしている人もいるかも知れないが、豹の英名はパンサーなのでお間違いなく。


そんな人は筆者だけか……。はぁw


それと強力な顎を持っているので顔が大きい。そして強いのだ。虎の獣人、ライオンの獣人に勝るとも劣らない。


「宰相、この方達は本物の聖者だ。ペストの治療も出来る。王都に来る途中の村でも、ペストを治療して貰ったのを俺は見ている。父上と母上を救えるのだ。そこを退いてくれ」

ブリュンヌは宰相に懇願する。


ブリュンヌはライオンの獣人とは言えまだ成長途中、体格も実力もジャガーの獣人である宰相に敵わないため、強引に進めない。


「まだそのような戯言を………。おい! そこの薄汚いガキども、今ならブリュンヌ様を騙している事を許してやる。サッサとこの国を出ていけ!」


「はぁ、そうですかぁ。信じて貰えないのなら仕方がない。帰ろうか」

(薄汚いとか、ペテン師とか散々な言われようだしね)


「キュー」

リャンゾウも同意している。


「聖者様、お待ち下さい!」

ブリュンヌは慌ててソウタ達を引き留めるが………。


「ブリュンヌ様、それぐらいにしなさい。王と王妃に最後に顔を見せて、王と王妃を安心させて下さい」

宰相はブリュンヌの肩を掴んだ。


「ぐぬぬ………」

震えるブリュンヌは宰相の手を払い、決意の表情で宰相を睨んだ。


「ブリュンヌ様、どうしました。さあ、早く王に顔を見せるのですよ」


「宰相! 獣人国の習わしだ。俺が勝ったらこの方達に父母を治療させろ!」

そう言って宰相に殴りかかるブリュンヌ。


「ははは、良いでしょう。獣人国では強い者が正義。儂がかったら諦めてその者達を追い出すのですな」

ブリュンヌのパンチを余裕で躱し、その腕を掴むとブリュンヌを投げ飛ばした。

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