第81話 交渉
「勿論、獣人国の王と王妃を助ける報酬だ」
ジュノン男爵は無表情でモモカに告げた。
「助けてあげようよ」
ナナミがソウタとモモカを交互に見ながら居た堪れないずに言う。
「ナナミさん、ちょっと待って。口を出さないで下さい。私達が獣人国に行くまで王と王女が生きてる保証は無いのよ。必死になって獣人国に行っても死んでたら目的は達成出来ない。移動するにもお金がかかるわ」
モモカは冷静にナナミに言い聞かせる。
「そ、そんなぁ、早く一緒に行ってよ」
王女ブリュンヌは涙を拭く事もせず、交渉の行方を見守る。
(そりゃそうか。王と王妃はペストに既にかかっているんだ。俺達が獣人国に行くまで生きてるとは限らないぞ。流石、モモカだ)
ソウタはモモカに任せて良かったと思った。
「うむ、確かにそうだな」
ジュノン男爵は感心したように呟く。しかし、無表情は変わらない。
「獣人国は今やペストがまん延し荒れ果てていると聞いていますので、最低でも、獣人国に行くだけで報酬は貰いたいですね」
モモカは平然とジュノン男爵を見返す。
「ふむ、………そして王と王妃を助けられたら、追加の報酬を望むと言う事だな」
「はい。当然の要求だと思いますよ」
「まあ、そうだろうな」
「なぜ、男爵はそこまでして獣人国の王と王妃を助けたいのですか。この人達は町を燃やし住民を殺そうとしたんですよ」
ソウタは思わずジュノン男爵に声をかけた。
「町を燃やし住民を殺そうとした事は許さざる事だが、ペストが流行る前は良き隣人として長年付き合いがあったのだ。このまま、獣人国が滅びるのを黙って見ているのは忍びない。自分の手で助ける事が出来れば助けたいのだが、助ける術は無い。今助けられる可能性のあるそなた達が目の前にいるのだやれる事はやっておきたいのだ」
「なるほど………」
「ソウタさん、男爵の言葉をそのまま受け取ってはダメですよ。もし私達が獣人国の王と王妃を助けたら、その手柄を持って男爵は獣人国と優位に交渉するつもりなのです。男爵の指示で救助に行くのですから、私達に支払う報酬以上に利益を見込んでいるはずです」
「え? そこまで」
「はっはっは。お嬢さん、良く分かっているじゃないか」
男爵は苦笑いを浮かべた。
「それが、貴族ですよ。ソウタさんだって元子爵じゃないですか。シッカリして下さい」
「ははは、それが出来なくて貴族を止めたんだよ」
「はぁ………」
(やっぱり私がシッカリしなきゃダメだわ)
ソウタとナナミ、雷獣のリャンゾウとドリアードのクロリスを見て、ため息のモモカ。
(モモカは頼りになるなぁ)
満足のソウタ。
男爵とモモカの交渉とブリュンヌ王女を見てオロオロしているナナミ。
戦いが終わっているので、リャンゾウとクロリスは青い鳥のブルと呑気にソウタの後ろで遊んでいるのだった。
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