第80話 ペスト医師5
「聖者、お願いだ。獣人国を助けてくれ。父上を……、母上を……、助けてくれえええ」
泣き崩れる獣人国の王女ブリュンヌ。
(えええ、泣かなくてもいいじゃん)
ソウタはブリュンヌの泣き顔を見て後退る。
(あ~、これ拙い展開だわ。ソウタさんは引いてるし、ナナミさんは情に流されてる。私が頑張らなきゃ)
モモカがズイっとソウタの前に進み、ソウタの目を見て(任せて)と目で合図をした。
(ひゃあ、助かった。モモカに任せるよぉ)
ソウタは頷く。
「断るわ!」
モモカはブリュンヌの目を見据えて断固とした意思を伝える。
「ど、どうして……」
「逆に何故私達が助けると思うの? 赤の他人……、いや、町に火を放つと脅して、力尽くで拉致しようとした敵の言う事を聞く方があり得ないでしょ。しかも無償で……。あんた頭がおかしいんじゃないの?」
モモカがソウタの隣で腰に手を当てブリュンヌに告げた。
「報酬なら幾らでも払う!」
ブリュンヌは泣きながらモモカを見据える。
「あのねえ、信頼がマイナスのあんた達の言う事なんて信じられないわよ。ねぇ、ソウタさん」
「……そ、そうだね」
(……モモカの言うとおりだ)
「それに王と王妃を治した後、捕まって死ぬまでペストの治療をさせられそうだわ」
「そんな事はしない。頼む……」
その時。
「報酬は私が払います」
衛兵達の後ろから貴族らしい服の男が現れた。
「ジュノン男爵」
衛兵の一人が男に声を掛けた。この町の領主であるジュノン男爵がいつの間にかソウタ達の後ろに来ていた。
町のペスト治療をした後、ソウタ達も一度面会し、お礼を言われて報酬を貰った時に顔を合わせている。
「ブリュンヌ王女、お久しぶりでございます」
ソウタ達に軽く頭を下げた後、ブリュンヌ王女に深くお辞儀をして、ニヤリと笑うジュノン男爵。
「あ、ああ……。ご、ご無沙汰しております」
どうやらジュノン男爵は自分の味方になってくれそうな雰囲気を察知し、笑みを浮かべたブリュンヌ。
ソウタはジュノン男爵を見て更に動揺しだした。
(あちゃー、益々状況が悪化しちゃったよぉ。私がやるしかないか)
ソウタの態度を見て、自分がこの場で交渉するしかないと再度認識をするモモカ。
「
(ここはハッキリさせとかないとただ働きになっちゃうからね)
モモカはジュノン男爵に毅然と言う。
「ほほう、貴族に物怖じせず真正面から問えるとは、場馴れしている様だな」
ジュノン男爵はニヤリと笑う。
「何の保証もないのに、死地に赴く愚か者にはなりたくないだけですわ」
モモカも笑みを浮かべてジュノン男爵を見た。
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