第65話 コトウハ公爵
国王にビーカル辺境伯からの手紙が届いた。
「な、なななななななんじゃ、こりゃああああああああ! おい! リーキヤを直ぐに呼んでこい!」
国王が従者にそう告げると、従者に呼ばれたリーキヤ公爵が国王の執務室に急いで駆け付けた。
「国王陛下、どうなされました?」
「リーキヤ、この文を読んでみよ」
「ふむ……」
国王に手渡された手紙を無言で読むリーキヤ。
「な、な、なんと! ビーカルが謀反……」
(くっ、しまった。まさか王命が仇になったか、ここでヤコイケの回復薬が手に入らぬと拙い事になるぞ……)
「リーキヤ、早急に兵を差し向けて、辺境の地を制圧だ。ビーカルを討伐して回復薬を手に入れる必要がある!」
「陛下、何処にその兵がいるのですか? 今前線の兵を減らせば、隣国の猛攻を防げず。この国はますます危険になります」
「何処かにいないかのう……」
「ふむ……」
考える国王とリーキヤ公爵。
(……この国で出兵出来る領地の兵は、は全て前線に派遣しているからなぁ……、ん! そうだ!)
「陛下! コトウハ公爵が領地に引き込もっています。ヤツに出兵させましょう」
「成る程、コトウハか、それは良い。早速王命を出そう」
国王は前将軍であるコトウハに出兵の命令を出した。
コトウハ公爵がすでに国王を見限っているとは知らずに……。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「えええええ! ビーカルさん、王都襲撃なんてイヤですよ。俺は戦争反対です」
ソウタはビーカル辺境伯につれられて、渋々馬車に乗って王都に向かっていた。
「そんな事言ったって、ソウタはうちの領地の最高戦力なんだから同行するのは当然じゃないか」
ビーカルがソウタの肩を叩く。
この馬車に乗っているのは……。
ソウタとビーカル辺境伯。
錬金術師のコエザ。
テンダイジモン教の大司教ライゴー。
採取士のナナミとモモカ。
ドリアードのクロリス。
ソウタの膝の上に雷獣のリャンゾウ。
「やっと、リーキヤの野郎を倒せるチャンスが来たんだ。ここで立たなきゃ男が廃るぜ」
そして、満面の笑みを浮かべて呟くコトウハ公爵。
「は、はあ……」
初対面のコトウハ公爵には文句が言えず、気のない返事のソウタだが……。
「……そもそも戦争とか襲撃とか、人同士で争うなんて嫌いですからね。しかも俺が人を殺すなんてとんでもない」
ソウタはビーカルとは付き合いも長くなり、言いたい事が言えるようになっていた。
「しかし、ここで国王とリーキヤを倒さないと王国の国民が不幸になる。俺達の手でやり遂げるんだよ」
「そんなの勝手にやってください! 俺にはそんな大義なんてありません。そもそも王国の騎士達は国王とリーキヤ公爵の命令に従って戦うだけで、本当はいい人かも知れないし、そんな人達と命をかけて戦うなんて、俺には出来ません」
「そう言うなよ。コトウハ公爵が兵を出してくれて、俺達は回復薬を提供するが、誰も同行しない訳にはいかないだろ?」
「ビーカルさんと騎士が同行すれば良いじゃないですかああああ!」
ソウタが乗る馬車の周りには、コトウハ公爵の私兵千人が馬車や馬に乗っている。
ソウタ達はコトウハ公爵の軍に同行して王都に向かっているのだ。
コトウハ公爵は王命で呼ばれたのを良いことにこのまま王都を襲撃して、クーデターを起こす算段だった。
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